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葵ちゃんと麦は叫ぶ

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 怜達、四人は電車を降り、中央区へ到着した。駅を出ると、そこら辺に軍人や警察の人たちがウロウロと歩いていた。その様子を見た怜がぼやいた。

「これってさぁ、俺たち来る意味ある?」
「何を言っているんですか。多分、この中の一割が守護霊使いです。霊能力の無い人達に悪霊使いに太刀打ちはできません」
「そうそう、柚奈の言う通り。だから私たちに仕事が回ってくるわけよ。とりあえず本部に行くぞ」
「し、師匠から離れて初めてのお仕事。がが、頑張ります」
(逆に不安!)

 麦のビビっているかのような震え声に怜は不安しか心に抱いてなかった。そして四人は二手に別れる事にした。

「その前に二手に別れましょう」
「二手って言われてもどう別れるんだよ柚奈~」
「私は悪霊使いか守護霊使いがいると思うので、気配を探ります。万が一気配を察知し、捕まえるのに麦ちゃんのスピードが欲しいので、本部へは先輩と旭ちゃんでお願いします」
「オーケーだぜ柚奈ちゃん」
「しし、仕方ねぇな。ついてこい」

 旭は怜と二人きりになることを喜んでいたが、その反面恥ずかしさもあるため、顔を赤くし、答えた。そして四人は二手に別れ、行動した。

「では、先輩、旭ちゃん。よろしくお願いします」
「分かった! そっちも頑張ってね」
「怜、行くぞー」

 旭は早速タクシーを拾い、怜とともに乗ると本部へ向かった。タクシーの後部座席に二人は座り、旭は頭を怜の肩に乗せた。怜はいきなりのことで驚いた。

「なっ!? 何してるんだ旭ちゃん!?」
「へぇ~、電車で見たぞー。柚奈がもたれかかって怜が顔を赤くしている所」
(げ!? バレてたのか。言い訳できないし、柚奈ちゃんに関してはわざとじゃなかったし、うーんどうするか)

 旭は怜を揶揄うと楽しさよりも最終的には恥ずかしさが勝ち、頭をあげた。戸惑っている怜に対し、旭は話した。

「冗談冗談。そんな分かりやすく戸惑うなって。もうすぐ本部に着くぞ」
「は、はぁ。もう、熱が出そうだ」

 タクシーは数分で本部へ到着し、怜と旭は降りると、お会計を済ませ、本部の中へと入った。本部の自動ドアが開くと中は人が慌ただしく、廊下を走っていた。本人確認の軍人は怜と旭のことを知っていたため、すぐに通してもらえた。

「とりあえず受付で大丈夫っしょ」
「なんで受付? きちんと担当の人に聞いた方がいいんじゃない?」
「いいんだよ。こんだけ騒いでれば受付でも捕らえる奴の名前と顔くらいは出るだろ。おまけに守護霊の能力が出れば、楽なんだけどな」

 旭は入り口のすぐそばの受付の人に話しかけた。

「なぁ姉ちゃん。守護霊使いの者だ。捕らえる奴の情報をくれ」
「かしこまりました。今、情報をコピーしますね」

 怜はコピーという言葉に不思議に思い、聞いた。

「なんでコピーなんだ? スマホに情報送ってもらえれば楽勝だろ?」
「馬鹿か! だったら爆発が起きた時点で私たちにも通達は来るはずだ。こんだけ遅れた理由。それは、通信妨害だ」
「通信妨害。そんなことできる奴がいるのか」
「まぁ、絶対いないとは言い切れないが、ニュースの通信機器が通っているんだ。そこまで完璧な通信妨害ではないと私は推測する」

 二人が通信妨害について考えていると受付の人が紙を見せ、話した。

「お待たせいたしました。こちらが逃亡した人達とこっちが犯人です。
「す、すげぇ。顔写真の上、出身地、名前まで分かるのか」
「うーん、でもなぁ。やっぱり能力のデータまではなかったか」
「脱獄した奴らは無能力らしいよ」
「ちげぇよ犯人の方だよ。こいつら総勢十八人を脱獄させた奴だぞ。どんな能力か知っておきたいな。とりあえず、この情報を私のスマホから柚奈に送ろう。怜はタクシーを拾ってくれ」
「おう」

 怜は走り、自動ドアをくぐり抜け、外に出た。旭は用紙の写真を撮り、メールで柚奈に送信した。しかし、メールは届かず、何回もスマホをタップするが無駄だった。

「クソ! 厄介だな、通信妨害」
「旭ちゃん、タクシー捕まえたよ」
「今いく!」

 二人はタクシーに乗り、柚奈と麦の元へ急いだ。
 時を遡り、二手に別れた柚奈と麦は高そうなビルの中に入っていった。

「ゆゆ、柚奈さん。こ、こんなビルに何の用なんですか?」
「私的にこのビルから眺めが良さそうだったので、ここの屋上から気配を探ります」
「ささ、さすがです」

 二人は受付の人に軍人と話し、屋上への出入りの許可を貰った。その後エレベーターに乗り、ボタンを押し、屋上へ向かった。エレベーターを見た柚奈は無人島での翔子の家を思い出し、懐かしく感じた。

(なぜ、エレベーターで思い出したのでしょうか。師匠、元気になりましたかね。本当は今日、お見舞いに行くはずだったんですけど)
「ゆ、柚奈さん。着きました」

 エレベーターが屋上前の階に到着した。柚奈と麦はエレベーターを降りると、階段を登り、屋上のドアを開放した。屋上は冷たい風が吹き、周りは銀色の柵に囲われていた。柚奈は屋上の中心部に正座し、目を閉じた。

「さささ、寒いですね」
「すみません、麦ちゃん。集中するので、少し静かにしてください」
「は、はい」

 柚奈は集中し、犯人たちの気配を探った。

(幽霊の気配、南、この幽霊は力が薄すぎる。違う、ここじゃない。東、ここには幽霊自体の存在がない。北も……な、うん? この気配、幽霊にしては弱々しいオーラですが、人間的な存在も同時に意味する。そこだ!)

 柚奈は目を思いっきり、開け、麦のことを構わず走り出し、柵を越え、北へ向かった。麦は涙目で叫んだ。

「ゆ、柚奈さん? 待ってくださーい!」
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