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貧民街の少年と少女
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男がそうかすれた声で話すと空気は一気にピリ付き、全員氷のように固まった。さっきまで少し騒ついているのが嘘のようだった。男は苦しそうに咳をした時、誰かが男に近づいた。
「おい、シオン! 無理はすんなよ」
「いいレオ、俺が言わないとダメなんだ。ゴホッ、これがリーダーの勤めなんだ」
「シオン……ったく、外にいるぞ」
「お前も戦いの後だろ、休んどけ」
そうシオンに言われるとレオは背を向け、手をあげてその場から離れた。シオンはまた、前を向き話した。
「俺たちは家族だ。だから俺は家族を守るために戦う。でもな、その家族を危険な目に遭わせる奴は、家族といえど罰の対象だ。次に俺の耳にそんな企みが入ってきたら、必ず探し出す……以上だ」
「はい!」
シオンが話し終えると全員が返事をし、集会は終え、みんなそれぞれ帰っていった。シオンはみんながいなくなると心臓を抑え、咳をした。
「ゴホッゴホッ、ゔぅ……あと俺はどのくらい生きていられるか……」
すると誰もいなくなった集会場に走ってくる音が響き渡ってきた。シオンは溜息をつき、歩き出した。足音の主はシオンを見つけるとそのまま、シオンの目の前に立ち止まった。
「シオン! 何でこんな時間に集会を開くの! うち、シオンの体が心配なんだよ」
「あぁすみれ、ありがとう」
彼女の名前はすみれ。シオンとは血は繋がっていないが、シオンからしたら妹的存在である。すみれは黒髪の短髪で紫色の瞳を輝かせていた。シオンの年齢は二十五で、すみれは今年で二十歳である。
「シオン、早く家に帰ろう」
「そうだなすみれ。ありがとう」
すみれの前でのシオンは優しい表情ですみれにだけ心を許している表情だった。
シオンは工場内の一室を家としており、一人で住んでいた。すみれはシオンを家まで付き添うと、机の中から薬を取り出した。
「シオン、これ飲んで!」
「薬はいい、どうせ効かない」
「いいから! 早く元気になってうちとたくさんお出かけしよう」
「ありがとうすみれ。じゃ、飲むからそこに置いてくれ。もうすぐで夜明けだ。早く帰りな」
「分かった。絶対に飲んでよね!」
すみれはシオンに手を振り、懐中電灯を付けると帰っていった。シオンは一人になるとすみれに渡された薬を手に取ると、流しに捨てた。
「分かってるんだろうすみれ。この薬は何も意味がない。俺がこれを飲み続けて三年、回復するどころか悪化している。ごめんよすみれ」
その頃すみれは懐中電灯を持ちながら歩いていた。
(シオン……前よりも苦しそうに咳をしてる。どうして!? どうして薬は効かないの。今まで私たちは生き抜くために悪いことをしてきたから!? もうシオンだけを苦しめるのはやめて)
すみれは大粒の涙を零しながら夜道を歩いた。すみれは涙を拭き、鼻をすすりながら考えた。
(シオンは外に出るのを嫌がっている。都内の医者なら絶対に治せるはずなのに。どうして……こうなったら、私が医者を)
すみれは今後どうするかを考えながら家に戻った。すみれの家は工場内に大きなテントを張って暮らしていた。そこにはお婆ちゃんがベットで横になっており、すみれは寝袋で眠りについた。
そして数時間後、貧民街に朝がやってきた。朝の五時、あれから数時間程たってすみれは目覚めた。寝袋から出るとすみれは古く、今にも壊れそうなキッチンを使って料理を始めた。
数分後、おかゆが出来上がるとお婆ちゃんを起こした。
「お婆ちゃん、お婆ちゃん。朝ごはんできたよ」
「うーん、ふは~。あら、すーちゃん早いわね」
「もう、いつもと一緒だよ。ほらほら、冷めないうちに食べよ」
すみれは介護用のベットを起こすとおかゆを持ち、お婆ちゃんにスプーンで食べさせた。これは毎日のことであり、このお婆ちゃんとも血は繋がっていない。しかし、すみれにとってこのお婆ちゃんは命の恩人なのである。
遡ること十九年前、すみれは生後一年で貧民街に捨てられたのである。寒い雪の日、すみれは泣き叫び、助けを待った。その時、当時五歳のシオンがすみれを見つけると慌てて、すみれを抱いて助けを求めた。
「誰か! 誰か! 赤ちゃんが泣いてます。助けてください」
シオンの声に誰も耳を傾けなかった貧民街で、このお婆ちゃんが声をあげ、すみれを保護したのだ。
「どうしたの!」
「赤ちゃんが、赤ちゃんが捨てられて」
「大変! まずは体温調整ね」
シオンとお婆ちゃんが協力し、なんとかすみれの命を救ったのだ。すみれはお婆ちゃんに抱きかかえられるとにっこりと笑い、眠りについた。お婆ちゃんは名前を呼ぼうとし、シオンに名前を訪ねた。
「シオンちゃん、この子の名前は?」
「分からない、名前までは書いてなかった。ただ段ボールの中に毛布にこいつが包まってて」
「じゃシオンちゃんが名前を決めて」
「お、俺が!?」
「そうよ、シオンちゃんがこの子を助けたんだから」
(な、名前か……つけた事ないな。うーん、そういやあいつの横にあの花が)
シオンはすみれを拾う前に花が目に入ったのだ。その花は咲く時期三月だが、早く二月に生えていたので、シオンはこう名前をつけた。
「す、すみれだ」
「いい名前ね。これからお前はすみれよ」
「いい名前だ。俺も面倒を見てやるよ」
これがすみれの始まりだった。
「おい、シオン! 無理はすんなよ」
「いいレオ、俺が言わないとダメなんだ。ゴホッ、これがリーダーの勤めなんだ」
「シオン……ったく、外にいるぞ」
「お前も戦いの後だろ、休んどけ」
そうシオンに言われるとレオは背を向け、手をあげてその場から離れた。シオンはまた、前を向き話した。
「俺たちは家族だ。だから俺は家族を守るために戦う。でもな、その家族を危険な目に遭わせる奴は、家族といえど罰の対象だ。次に俺の耳にそんな企みが入ってきたら、必ず探し出す……以上だ」
「はい!」
シオンが話し終えると全員が返事をし、集会は終え、みんなそれぞれ帰っていった。シオンはみんながいなくなると心臓を抑え、咳をした。
「ゴホッゴホッ、ゔぅ……あと俺はどのくらい生きていられるか……」
すると誰もいなくなった集会場に走ってくる音が響き渡ってきた。シオンは溜息をつき、歩き出した。足音の主はシオンを見つけるとそのまま、シオンの目の前に立ち止まった。
「シオン! 何でこんな時間に集会を開くの! うち、シオンの体が心配なんだよ」
「あぁすみれ、ありがとう」
彼女の名前はすみれ。シオンとは血は繋がっていないが、シオンからしたら妹的存在である。すみれは黒髪の短髪で紫色の瞳を輝かせていた。シオンの年齢は二十五で、すみれは今年で二十歳である。
「シオン、早く家に帰ろう」
「そうだなすみれ。ありがとう」
すみれの前でのシオンは優しい表情ですみれにだけ心を許している表情だった。
シオンは工場内の一室を家としており、一人で住んでいた。すみれはシオンを家まで付き添うと、机の中から薬を取り出した。
「シオン、これ飲んで!」
「薬はいい、どうせ効かない」
「いいから! 早く元気になってうちとたくさんお出かけしよう」
「ありがとうすみれ。じゃ、飲むからそこに置いてくれ。もうすぐで夜明けだ。早く帰りな」
「分かった。絶対に飲んでよね!」
すみれはシオンに手を振り、懐中電灯を付けると帰っていった。シオンは一人になるとすみれに渡された薬を手に取ると、流しに捨てた。
「分かってるんだろうすみれ。この薬は何も意味がない。俺がこれを飲み続けて三年、回復するどころか悪化している。ごめんよすみれ」
その頃すみれは懐中電灯を持ちながら歩いていた。
(シオン……前よりも苦しそうに咳をしてる。どうして!? どうして薬は効かないの。今まで私たちは生き抜くために悪いことをしてきたから!? もうシオンだけを苦しめるのはやめて)
すみれは大粒の涙を零しながら夜道を歩いた。すみれは涙を拭き、鼻をすすりながら考えた。
(シオンは外に出るのを嫌がっている。都内の医者なら絶対に治せるはずなのに。どうして……こうなったら、私が医者を)
すみれは今後どうするかを考えながら家に戻った。すみれの家は工場内に大きなテントを張って暮らしていた。そこにはお婆ちゃんがベットで横になっており、すみれは寝袋で眠りについた。
そして数時間後、貧民街に朝がやってきた。朝の五時、あれから数時間程たってすみれは目覚めた。寝袋から出るとすみれは古く、今にも壊れそうなキッチンを使って料理を始めた。
数分後、おかゆが出来上がるとお婆ちゃんを起こした。
「お婆ちゃん、お婆ちゃん。朝ごはんできたよ」
「うーん、ふは~。あら、すーちゃん早いわね」
「もう、いつもと一緒だよ。ほらほら、冷めないうちに食べよ」
すみれは介護用のベットを起こすとおかゆを持ち、お婆ちゃんにスプーンで食べさせた。これは毎日のことであり、このお婆ちゃんとも血は繋がっていない。しかし、すみれにとってこのお婆ちゃんは命の恩人なのである。
遡ること十九年前、すみれは生後一年で貧民街に捨てられたのである。寒い雪の日、すみれは泣き叫び、助けを待った。その時、当時五歳のシオンがすみれを見つけると慌てて、すみれを抱いて助けを求めた。
「誰か! 誰か! 赤ちゃんが泣いてます。助けてください」
シオンの声に誰も耳を傾けなかった貧民街で、このお婆ちゃんが声をあげ、すみれを保護したのだ。
「どうしたの!」
「赤ちゃんが、赤ちゃんが捨てられて」
「大変! まずは体温調整ね」
シオンとお婆ちゃんが協力し、なんとかすみれの命を救ったのだ。すみれはお婆ちゃんに抱きかかえられるとにっこりと笑い、眠りについた。お婆ちゃんは名前を呼ぼうとし、シオンに名前を訪ねた。
「シオンちゃん、この子の名前は?」
「分からない、名前までは書いてなかった。ただ段ボールの中に毛布にこいつが包まってて」
「じゃシオンちゃんが名前を決めて」
「お、俺が!?」
「そうよ、シオンちゃんがこの子を助けたんだから」
(な、名前か……つけた事ないな。うーん、そういやあいつの横にあの花が)
シオンはすみれを拾う前に花が目に入ったのだ。その花は咲く時期三月だが、早く二月に生えていたので、シオンはこう名前をつけた。
「す、すみれだ」
「いい名前ね。これからお前はすみれよ」
「いい名前だ。俺も面倒を見てやるよ」
これがすみれの始まりだった。
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