守護霊になった葵ちゃんと一緒に悪霊退治を始めることになった

メロンジャム

文字の大きさ
上 下
137 / 153

貧民街の少年と少女

しおりを挟む
 男がそうかすれた声で話すと空気は一気にピリ付き、全員氷のように固まった。さっきまで少し騒ついているのが嘘のようだった。男は苦しそうに咳をした時、誰かが男に近づいた。

「おい、シオン! 無理はすんなよ」
「いいレオ、俺が言わないとダメなんだ。ゴホッ、これがリーダーの勤めなんだ」
「シオン……ったく、外にいるぞ」
「お前も戦いの後だろ、休んどけ」

 そうシオンに言われるとレオは背を向け、手をあげてその場から離れた。シオンはまた、前を向き話した。

「俺たちは家族だ。だから俺は家族を守るために戦う。でもな、その家族を危険な目に遭わせる奴は、家族といえど罰の対象だ。次に俺の耳にそんな企みが入ってきたら、必ず探し出す……以上だ」
「はい!」

 シオンが話し終えると全員が返事をし、集会は終え、みんなそれぞれ帰っていった。シオンはみんながいなくなると心臓を抑え、咳をした。

「ゴホッゴホッ、ゔぅ……あと俺はどのくらい生きていられるか……」

 すると誰もいなくなった集会場に走ってくる音が響き渡ってきた。シオンは溜息をつき、歩き出した。足音の主はシオンを見つけるとそのまま、シオンの目の前に立ち止まった。

「シオン! 何でこんな時間に集会を開くの! うち、シオンの体が心配なんだよ」
「あぁすみれ、ありがとう」

 彼女の名前はすみれ。シオンとは血は繋がっていないが、シオンからしたら妹的存在である。すみれは黒髪の短髪で紫色の瞳を輝かせていた。シオンの年齢は二十五で、すみれは今年で二十歳である。

「シオン、早く家に帰ろう」
「そうだなすみれ。ありがとう」

 すみれの前でのシオンは優しい表情ですみれにだけ心を許している表情だった。
 シオンは工場内の一室を家としており、一人で住んでいた。すみれはシオンを家まで付き添うと、机の中から薬を取り出した。

「シオン、これ飲んで!」
「薬はいい、どうせ効かない」
「いいから! 早く元気になってうちとたくさんお出かけしよう」
「ありがとうすみれ。じゃ、飲むからそこに置いてくれ。もうすぐで夜明けだ。早く帰りな」
「分かった。絶対に飲んでよね!」

 すみれはシオンに手を振り、懐中電灯を付けると帰っていった。シオンは一人になるとすみれに渡された薬を手に取ると、流しに捨てた。

「分かってるんだろうすみれ。この薬は何も意味がない。俺がこれを飲み続けて三年、回復するどころか悪化している。ごめんよすみれ」

 その頃すみれは懐中電灯を持ちながら歩いていた。

(シオン……前よりも苦しそうに咳をしてる。どうして!? どうして薬は効かないの。今まで私たちは生き抜くために悪いことをしてきたから!? もうシオンだけを苦しめるのはやめて)

 すみれは大粒の涙を零しながら夜道を歩いた。すみれは涙を拭き、鼻をすすりながら考えた。

(シオンは外に出るのを嫌がっている。都内の医者なら絶対に治せるはずなのに。どうして……こうなったら、私が医者を)

 すみれは今後どうするかを考えながら家に戻った。すみれの家は工場内に大きなテントを張って暮らしていた。そこにはお婆ちゃんがベットで横になっており、すみれは寝袋で眠りについた。
 そして数時間後、貧民街に朝がやってきた。朝の五時、あれから数時間程たってすみれは目覚めた。寝袋から出るとすみれは古く、今にも壊れそうなキッチンを使って料理を始めた。
 数分後、おかゆが出来上がるとお婆ちゃんを起こした。

「お婆ちゃん、お婆ちゃん。朝ごはんできたよ」
「うーん、ふは~。あら、すーちゃん早いわね」
「もう、いつもと一緒だよ。ほらほら、冷めないうちに食べよ」

 すみれは介護用のベットを起こすとおかゆを持ち、お婆ちゃんにスプーンで食べさせた。これは毎日のことであり、このお婆ちゃんとも血は繋がっていない。しかし、すみれにとってこのお婆ちゃんは命の恩人なのである。
 遡ること十九年前、すみれは生後一年で貧民街に捨てられたのである。寒い雪の日、すみれは泣き叫び、助けを待った。その時、当時五歳のシオンがすみれを見つけると慌てて、すみれを抱いて助けを求めた。

「誰か! 誰か! 赤ちゃんが泣いてます。助けてください」

 シオンの声に誰も耳を傾けなかった貧民街で、このお婆ちゃんが声をあげ、すみれを保護したのだ。

「どうしたの!」
「赤ちゃんが、赤ちゃんが捨てられて」
「大変! まずは体温調整ね」

 シオンとお婆ちゃんが協力し、なんとかすみれの命を救ったのだ。すみれはお婆ちゃんに抱きかかえられるとにっこりと笑い、眠りについた。お婆ちゃんは名前を呼ぼうとし、シオンに名前を訪ねた。

「シオンちゃん、この子の名前は?」
「分からない、名前までは書いてなかった。ただ段ボールの中に毛布にこいつが包まってて」
「じゃシオンちゃんが名前を決めて」
「お、俺が!?」
「そうよ、シオンちゃんがこの子を助けたんだから」
(な、名前か……つけた事ないな。うーん、そういやあいつの横にあの花が)

 シオンはすみれを拾う前に花が目に入ったのだ。その花は咲く時期三月だが、早く二月に生えていたので、シオンはこう名前をつけた。

「す、すみれだ」
「いい名前ね。これからお前はすみれよ」
「いい名前だ。俺も面倒を見てやるよ」

 これがすみれの始まりだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Link's

黒砂糖デニーロ
ファンタジー
この世界には二つの存在がいる。 人類に仇なす不死の生物、"魔属” そして魔属を殺せる唯一の異能者、"勇者” 人類と魔族の戦いはすでに千年もの間、続いている―― アオイ・イリスは人類の脅威と戦う勇者である。幼馴染のレン・シュミットはそんな彼女を聖剣鍛冶師として支える。 ある日、勇者連続失踪の調査を依頼されたアオイたち。ただの調査のはずが、都市存亡の戦いと、その影に蠢く陰謀に巻き込まれることに。 やがてそれは、世界の命運を分かつ事態に―― 猪突猛進型少女の勇者と、気苦労耐えない幼馴染が繰り広げる怒涛のバトルアクション!

懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣
恋愛
社会人の鳳健吾(おおとりけんご)と高校生の鮫島凛香(さめじまりんか)はアパートのお隣同士だった。 兄貴気質であるケンゴはシングルマザーで常に働きに出ているリンカの母親に代わってよく彼女の面倒を見ていた。 リンカが中学生になった頃、ケンゴは海外に転勤してしまい、三年の月日が流れる。 三年ぶりに日本のアパートに戻って来たケンゴに対してリンカは、 「なんだ。帰ってきたんだ」 と、嫌悪な様子で接するのだった。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

俺だけ皆の能力が見えているのか!?特別な魔法の眼を持つ俺は、その力で魔法もスキルも効率よく覚えていき、周りよりもどんどん強くなる!!

クマクマG
ファンタジー
勝手に才能無しの烙印を押されたシェイド・シュヴァイスであったが、落ち込むのも束の間、彼はあることに気が付いた。『俺が見えているのって、人の能力なのか?』  自分の特別な能力に気が付いたシェイドは、どうやれば魔法を覚えやすいのか、どんな練習をすればスキルを覚えやすいのか、彼だけには魔法とスキルの経験値が見えていた。そのため、彼は効率よく魔法もスキルも覚えていき、どんどん周りよりも強くなっていく。  最初は才能無しということで見下されていたシェイドは、そういう奴らを実力で黙らせていく。魔法が大好きなシェイドは魔法を極めんとするも、様々な困難が彼に立ちはだかる。時には挫け、時には悲しみに暮れながらも周囲の助けもあり、魔法を極める道を進んで行く。これはそんなシェイド・シュヴァイスの物語である。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

処理中です...