上 下
130 / 153

葵ちゃんと軍服着用

しおりを挟む
柚奈が笑顔でそう話すと旭は飛び上がり驚いた。それに対し怜はポカンとした表情だった。

「えぇ!? しゅ、首席卒業生なの!」
「い、いえいえ。本当に運が良かっただけです」
「え? 首席卒業って何?」

 怜がそう話した瞬間、あたりは一瞬で氷漬けになったかのような静けさになった。そして旭は怜に近づき、胸ぐらを掴み、怜を揺さぶりながら話した。

「お前なお前な! 首席卒業生ってのはな! やばいんだぞ、すごいんだぞ、かっこいいんだぞ!」
「あ、旭ちゃん……わ、わかったから離して」
「そそそ、そんなかっこいいんだなんて~」

 揺さぶられ気絶寸前の怜に対し麦は旭に言われた言葉が胸に刺さり、頬を抑えて照れた。興奮が収まらない旭に対し柚奈は近づき、話した。

「あ、旭ちゃん? 落ち着いてください。まず先輩には首席卒業について教えてあげましょう」
「あ、そうだな。すまない怜」
「や、やっと……解放された」

 麦は怜が首席卒業について知らないことに疑問に思った。首席卒業は必ず訓練生が卒業するときに発表されるものだ。軍の所属している怜がそれを知らないとなるとどういう存在なのか麦は心配していた。

(えぇ!? ななな、なんで冬風隊員は首席卒業のことを知らないの。ま、まさか!? 外国のす、スパイ! それともあ、悪霊使い! どどど、どうしよう。みんなが危ない、こ、ここは私が守らないと)

 麦は怜のことを早とちりし、自分の中で妄想を膨らませ、怜に近づいた。そして槍を生成した。

「先輩、首席卒業というものですけど」
「おいおいむ、麦さん!? な、何を」

 麦は槍の先を怜に向けた。槍は水色を基調としており、銀色に輝く一本の刃が怜の首元を狙っていた。柚奈の真横から槍はいきなり来たので柚奈は顔を真っ青にし、生きている心地がしなかった。そして麦は涙目で話した。

「す、スパイ! 悪霊使い! かかか、観念してください!」
「はぁ!? スパイとか悪霊使いとか意味わかんないし!」
「麦ちゃん。また早とちり」

 寧々は麦にづきそう話しながら右手で槍を下げた。固まる怜、柚奈、旭を見た麦はやってしまったとみんなに感じられる表情をし、槍を消し、三人に土下座をした。

「ほほほ、本当にすみません。ごめんなさい。申し訳ないです。私を殺してください! 一瞬で痛くないように優しく、それじゃ殺せない。殺す方に迷惑かけちゃう。じゃ私がじ、自分で!」

 麦はまた槍を生成し、その刃を自分の首元に近づけた。大量の涙を零しながら自殺しようとする姿に三人は慌てて、槍を抑えた。

「は、早まるな! 麦ちゃん」
「そうです。そんなことやめてください」
「俺もちょっと驚いただけだから大丈夫だから!」

 そして数分後、麦は泣き止み、改めて謝った。そのときにはもう三人はこう思っていた。

(本当にこの人、首席卒業生なの?)

 それから麦が落ち着いて三人は軍服に着替えた。
 数分後、三人は軍服に着替えるとさっきの部屋に戻った。怜と柚奈はサイズはぴったりで普通にチャックを閉め、着用できた。しかし、旭だけはMサイズの軍服に対し、胸の部分が苦しく、軍服の上着を羽織る形になり、黒のタンクトップ姿が見える感じになった。軍服自体はブカブカしており、柔軟性に優れており、黒のタンクトップと上着とズボンだけなので、着脱も素早くできる。

「なぁ旭ちゃん、何で軍服羽織ってるの?」
「こ、この胸のせいで着れないんじゃい!」
(あの胸の大きさ羨ましいです。同じ年、同じ女の子、同じ仕事。なんでここまでの差が)

 柚奈は黒のタンクトップ姿の旭を見て、胸の強調が激しく、ショックを受けていた。旭の場合、毎日牛乳を飲んでいるからだ。麦は三人の軍服姿を見て拍手をした。

「み、みなさんお似合いです」
「私たちは以前まで着ていましたし、旭ちゃんに関しては元からあれでしたよ。先輩は記憶のせいでこの服の記憶がないのでしょう」
(確かに、だからあんなにキラキラした瞳で自分の服を見ているんですね)

 怜は子供のようにはしゃがないよう表情を保ちながら自分の服を見て喜んだ。しかし、それはみんなに見透かされていたのだ。すると寧々が話し出した。

「もう時間、私行く。麦ちゃんのことよろしく」
「そそそ、そんなー。ここでお別れなんですか!? 嫌ですー、もっと寧々ちゃんといたいです」
「麦ちゃん、私の元、卒業する。立派になって帰ってきな」
「ね、寧々ちゃん……」
「みんな、麦ちゃんのこと、よろしく」
「はい、責任を持って預かります」
「がんばろうな麦ちゃん」
「俺もサポートするぜ」
「みみみ、皆さん!」

 寧々はそう話すと麦の頭を撫でると部屋を後にした。その後ろ姿に麦は頭を下げ、心の中でお礼を言った。その時、また、柚奈のスマホに着信が入った。

「またです。すみません」
「大丈夫だぜ」
「早く言ってきな」

 柚奈は部屋を出ると電話に出た。

「もしもし、時雨さん。今度はなんですか?」
「柚ちゃーん、言い忘れてたなの。貧民街への出発は六月十日なの」
「十日って三日後ですか!?」
「交通手段の派遣と貧民街の資料は用意できたし、貧民街なりきりセットも用意したからよろしくなのー」
「し、時雨さん!?」

 柚奈が驚いていると時雨は話すことだけ話し、電話を切った。柚奈は溜息をつきながら部屋へ戻った。
 一方時雨達は船で話していたあのレオの資料を作った人の元へ着いた。

「ここがあの人の住んでいる自宅なの」
「し、時雨さん本当に良かったのですか?」
「こんなところで立ち止まっていられないなの。さぁ行くなの」

 時雨と奏音は大きなビルの中に入っていった。
しおりを挟む

処理中です...