上 下
127 / 153

葵ちゃんと解放

しおりを挟む
 女性はそのまま怜に近づいた。ヒールの音が怜に近付き、怜の正面で止まった。

「おい、霊を出せ」
「しゅ、守護霊ですか?」
「そうだ、早くしろ」
「は、はい。葵ちゃん~出てきてくれ」

 女性に指示され怜は葵を出現させようとした。しかし、葵は中々姿を見せなかった。焦る怜は自分の中で自問自答を繰り返していた。

(はぁ!? なんで葵ちゃん出てこないの? あぁ! この女性が気にくわないのか。それともなんだ、今は寝ているのか。いやいや、昨日葵ちゃんはたらふく寝ているはずだ。霊力は満タンに近いし、何より昨日は時雨さんからお菓子さえ貰っている。だが、なぜ現れない。てか、このままだったら俺どうなるの!? 処刑? ギロチン? 生贄!?)

 怜の頭の中はパンク寸前だった。すると女性が黒い瞳を青色に変え、怜を見つめた。

(な、なんて美しい瞳なんだ)

 怜はその女性の瞳に吸い込まれそうだった。その時、女性が声を出した。

「『アルゴス・第三の目』」
「何、能力!?」

 すると女性の右目は黄緑色に光り出し、左目は黒い瞳に戻った。黄緑色の鮮明な瞳が怜を見つめると怜の横に葵が出現した。葵は出現するなり、踊り手怜の後ろに隠れた。葵の出現を確認した女性は右目を元の目に戻し、席に座った。

「驚かせてすまない守護霊。ちょっとデータの確認が必要でな」
「わ、私は葵だよ!」

 葵はビビりながらも怜の後ろに隠れながら女性に対抗するように名前を言った。女性は葵の名前を聞くと鼻で笑い、パソコンで何かを調べ始めた。反抗的な態度の葵に対し怜は小さな声で話した。

「おい、葵ちゃん。あの女性の方の判断で俺らのこれからが決まるんだ。もう少しおとなしくしてくれ」
「だって葵、勝手に呼び出されて怒ってるんだもん」
「はぁ~、あとで何か美味しいものあげるから静かにしててくれ」
「えぇ! お菓子! 葵、大人しくしまーす」

 葵はニッコリとした表情で怜の横でプカプカ浮いていた。その反面怜は、余命宣告されるかのような表情で溜息を吐きながら座っていた。するとパソコンを触っていた女性が話し出した。

「お前ら、ここに来る前に任務に行っていたらしいな。どこだ」
「えーっと、島、無人島です。仲間からそう聞きました」
「任務で怪我でもしたか」
「怪我はしましたけど、記憶を失いました」
「ほう、どこまで」
「自分の名前以外全部です」
「なるほど、これは大変だな。そりゃ、霊力の流れや守護霊の波長も違うよな。面倒だが、私が後は情報を書き換えとくよう話すからもう行け」

 怜は何も知らないまま、尋問が終わった。怜自身はポカンとした顔で返事をした。

「す、すみません。拘束を解いてください」
「はぁ? それくらい自分で外せよ。大概ここに連れてこられる奴は自分で外して私に殴り込むぞ」
「はぁ……」

 怜は手錠をされたまま部屋をでた。すると尋問室の前に立っていた柚奈と旭が怜に寄ってきた。

「おいおい、勘弁してくれよ。怜何やらかしたんだよ」
「ふざけんな! 俺は何もしてない」
「ところで先輩、処分はどうなったんですか」
「もう柚奈ちゃんまで。普通にもう行っていいって言われたんだよ」
「じゃ、その手錠はなんだよ」
「自分で外せって言われた。でも無理、誰かとって」
「はいはい、よっと」

 怜は旭の目の前に手錠を突き出し、旭の瓦割りでなんとか破壊し、解放された。両手がすっきりした怜は、両手をふり、息をついた。

「ふー、やっと外れた。で、これどうする?」
「まぁその辺に置いとけば良いんじゃね?」
「ダメです。今から補給室へ行くので、そこで受付の人に渡しましょう」
「りょーかい。じゃ葵ちゃん、もう俺の中に戻っていいぞ」
「えぇお菓子は?」
「今はそれどころじゃないからあとでな」

 葵は眉間にしわを寄せ、子供のように怒り、怜の背中から中に入っていった。そして三人は階段を登り、二階の補給室へ着いた。
 柚奈が補給室のドアをノックし、入った。中は学校の教室くらいの広さで、ほとんど補給物資の段ボールが山積みになっていた。
 入り口の正面に小さな少女が座っていた。少女は二本縛りで茶髪だった。茶色い瞳を輝かせ、軍服を着用していた。柚奈はそのその少女に敬礼をし、話した。

「お疲れ様です。この度は紛失した物資の補給に参りました」
「お疲れ様でしゅ。了解でしゅ」
(おいおい、でしゅって小学生以下だぞ? こんな施設に子供なんていていいのか。なんか笑いがこみ上げてきそう)

 怜は二人のやりとりを見て、少女の言葉使いと語尾が面白く、にやけていた。そんな少女はにやけている怜を見て話した。

「そこの少年! なんで笑っているんでしゅか」
「いや~ごめんな。つい、子供が頑張って働いていると面白くて」
「おい怜! お前……」

 すると少女は涙目で怒り始めた。

「い、一応私。二十歳超えてるんでしゅよ!」
「はぁ!? マジかよ。ごめん! 子供扱いして」
「えーんえーん」

 そこから少女は数分間、泣き続けているのであった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣
恋愛
社会人の鳳健吾(おおとりけんご)と高校生の鮫島凛香(さめじまりんか)はアパートのお隣同士だった。 兄貴気質であるケンゴはシングルマザーで常に働きに出ているリンカの母親に代わってよく彼女の面倒を見ていた。 リンカが中学生になった頃、ケンゴは海外に転勤してしまい、三年の月日が流れる。 三年ぶりに日本のアパートに戻って来たケンゴに対してリンカは、 「なんだ。帰ってきたんだ」 と、嫌悪な様子で接するのだった。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

未開の惑星に不時着したけど帰れそうにないので人外ハーレムを目指してみます(Ver.02)

京衛武百十
ファンタジー
俺の名は錬是(れんぜ)。開拓や開発に適した惑星を探す惑星ハンターだ。 だが、宇宙船の故障である未開の惑星に不時着。宇宙船の頭脳体でもあるメイトギアのエレクシアYM10と共にサバイバル生活をすることになった。 と言っても、メイトギアのエレクシアYM10がいれば身の回りの世話は完璧にしてくれるし食料だってエレクシアが確保してくれるしで、存外、快適な生活をしてる。 しかもこの惑星、どうやらかつて人間がいたらしく、その成れの果てなのか何なのか、やけに人間っぽいクリーチャーが多数生息してたんだ。 地球人以外の知的生命体、しかも人類らしいものがいた惑星となれば歴史に残る大発見なんだが、いかんせん帰る当てもない俺は、そこのクリーチャー達と仲良くなることで残りの人生を楽しむことにしたのだった。     筆者より。 なろうで連載中の「未開の惑星に不時着したけど帰れそうにないので人外ハーレムを目指してみます」に若干の手直しを加えたVer.02として連載します。 なお、連載も長くなりましたが、第五章の「幸せ」までで錬是を主人公とした物語自体はいったん完結しています。それ以降は<錬是視点の別の物語>と捉えていただいても間違いではないでしょう。

処理中です...