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葵ちゃんと旭の覚悟

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 二人は蔓を伝って下につくと、旭は柚奈の場所を怜に教えた。

「怜こっちだ! 柚奈の容体はそう優しいものではないだろう。早く回復を施してやってくれ」
「わかった」

 怜は屋上から溢れ出る炎の海を見ると、息を飲み旭に着いて行った。柚奈のところにつくと旭が朝顔をどけ、怜に指示をした。

「柚奈はここだ頼む」
「わかった。旭はどうするんだ?」
「私は屋上に行ってくる」
「気をつけろよ」

 旭は怜に心配されると頬を少し赤くし、顔を隠すように学校内に入って行った。旭の姿が見えなくなると怜は早速回復を柚奈に施した。衰弱しきっており、霊力も体力もゼロに等しく生きているだけで奇跡だった。怜は汗をぬぐいながら自分の霊力を顧みず、柚奈に回復を施した。

(頑張れ柚奈、倒れるなよ! 絶対俺が助ける)

 柚奈を回復中怜はふと柚奈にキスされたことを頭によぎった。霊力の供給とはいえ、怜には刺激が強かったのだ。怜は顔を赤くさせながらも柚奈の回復に集中した。
 一方旭は屋上へ繋がる階段を登ろうとしていた。しかし、凄まじい熱気で階段を登ることができなかった。

「んだよこの暑さは! サウナの倍以上だ。このままじゃこの学校ごと燃やされちまう。確かあいつはオブリドさえ殺せればいいって行ってたな」
「それじゃこの学校の人たちは関係ないってことになります」
「わかってるよ。とりあえず屋上の様子が見たい。あそこの窓から蔓を生成して屋上に行こう」

 旭は三階の窓を開けると、そこに霊力を流し朝顔を生成した。窓から外に出ると火花がバチバチと音を鳴らしながら落ちて来た。旭は蔓を大量に生成し、なんとか火花を避けた。

(マジかよあんな火花触れたら火傷程度じゃすまねぇぞ)

 旭は慎重に火花を避けながら蔓を伝って上に上がって行った。
 数分後、時計の上に登り、上から屋上を見下ろすと息を飲む光景が広がっていた。
 そこはもう屋上とは言えず、赤黒い炎の海が広がっていた。その中心部から炎に包まれたドラゴンのような顔が姿を現した。
 オブリドは炎の海の上に立っており、一本の刀を構えていた。

(なんなんだあれは!? 初めての光景だし、聞いたこともない。レオを手伝わないと……ダメだ。私のこの朝顔の能力じゃ、あの炎の中では無力だ)

 旭は自分の力の弱さに拳を握り、見ていることしかできなかった。すると炎の中心部からドラゴンがゆっくり出てきたはずが、様子がおかしい。ドラゴンは出て来るどころか、上を向いて苦しみ出し、炎の海の中に戻って行った。

「どうして!?」
「旭ちゃん。あれを見て! ドラゴンの首の部分に誰かいるよ」
「あれは!」

 炎を纏ったドラゴンはゆっくりと消え去り、その首の部分から薄っすらレオの姿があらわになった。そしてレオの腹部には一本の刀が突き刺さっていた。旭は驚きとともに口を押さえ、一歩下がった。
 オブリドはもう一本の刀を上空にあげると周りの炎を吸い込んで行った。
 旭は涙を堪え、蔓を伝って怜の元へ急いだ。

(まずいまずいレオがやられた!? 早く怜のところに行かないと。待てよ、怜のところに行ってどうする? 助けを求める? 私は何をするんだ? ダメだ。これじゃただの臆病者じゃないか。わ、私が、あいつをやるしか)

 急に旭は下から登りに変更すると驚いた朝顔が話しかけた。

「ちょっと旭ちゃん!? 怜さんのところに行くんじゃないの?」
「うるさい! 行ったところでどうするんだよ! 怜だって霊力も体力もそんな残ってないのに、わ、私が止めるしかないでしょ!」

 旭のまっすぐな眼差しに歓喜した朝顔はニコッと笑い答えた。

「分かりました。今の旭ちゃんの言葉はものすごく胸に刺さりました。私も全力で挑むよ」
「ありがとうな」

 旭も鼻を擦りながら笑うと急いで蔓を伝って屋上に戻った。
 するとオブリドは下に降りようと怜のいる方に歩いていた。後ろから旭は巨大な朝顔の蔓の束を出し、オブリドに攻撃を仕掛けた。

(よし、あいつが炎を吸い取ってくれたおかげでまだマシに戦える)

 蔓の束はオブリドにあっさり避けられてしまった。まるで頭の後ろに目があるようだった。

「気づいてたよ。さぁ、次は君を血祭りにあげようか。彼みたいにね」

 オブリドはそう話しながら指を差すとそこにはレオが腹部に刀が刺さった状態で倒れていた。オブリドはレオから刀を抜くと炎を吸い取った刀を大きく振った。刀からは赤黒いレオの炎が放出され旭に襲いかかった。
 旭は蔓を使い、高く飛び炎を避けた。しかし、炎は生きているかのように旭についてきた。
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