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葵ちゃんとピンチ

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 二人は顔を青ざめ、冷や汗を垂らし、声のする方を見た。そこにはオブリドの死体から離れて上空にもう一人のオブリドがいた。浮いているオブリドは衣服や仮面は全く一緒だった。

(く、空中に浮いている!?)
(あれで殺し切らなかったのか)

 オブリドは拍手をしながらゆっくり屋上に降りてきた。その状況はまるで神が降臨したかのようだった。二人は後ずさりをして、武器を力強く握りしめた。

「で? 私の偽物を見てたんだけど、私の息の根を止められると?」
(に、偽物!?)
(やはりこやつは化け物じゃ。力の差が歴然じゃ。あそこで捉え切らなかったとしたらどうする)

 ビビる柚奈に対し、翔子はオブリドを睨み、勝つ手段を探していた。するとオブリドが話しかけてきた。

「さて、もう私の約束は守らないから瞬殺でいいってことだよね?」

 二人は息を飲み、言葉が出てこず、ただただ、立ち尽くしていた。オブリドは指パッチンをするとオブリドの死体が一瞬にして消えた。翔子が叫んだ。

「来るぞ柚奈!」
「は、はい!」
「遅いって、君たち」

 オブリドは右手の平を二人に向け、手のひらに赤い魔法陣を出現させた。
 翔子と柚奈は二手に分かれ、同時に刀と小刀で斬りかかった。しかし、二人の刀はオブリドの真横で止まってしまった。

(旭ちゃんの時と同じ!? きょ、距離を取らないと)
(また奴の化け物じみた力か)

 二人は体を後ろに下げようとしたが、体が思うように動かなかった。動かないどころか、固まっているようだった。体が動かない二人は驚きとともに死が頭によぎり、焦った。

(う、動きません。は、早く動かないと)
(ちっ、なぜ動かない! 奴は空気さえも力にしてしまうのか!?)

 動かない二人に対し、追い打ちをかけるようにオブリドが何かを召喚した。そう、カイdなんで出てきた黒い人体の狐だった。狐は両手に真っ白な手袋をはめていた。そして数秒のうちに二人を殴りかかった。
 殴られた二人は上空に飛び、そのまま静止した。狐は休ませる隙を与えず、上空に飛び、畳み掛けるように殴りかかった。

「ゔ、ぐはっ!」
「ゔぅ」
「これで、終わりだよ~」

 上空で二人は殴られ続けた。そして、オブリドがまた指パッチンをすると狐達は一瞬にして消えた。その代わり、オブリドの左右には大きな青色の狐火があった。二人はその青々しい炎を見て思った。

(わ、私は……ここまで、でしょうか)
(何か、何か手はないのか!?)
「では、お二人さん。いい来世を」

 オブリドがそう話すと二つの狐火を二人めがけ、放出した。柚奈は目を瞑り、死を確信した。その瞬間、柚奈の中でお姉ちゃんとの思い出を思い出した。

(柚ちゃん、柚ちゃんは幽霊とか信じる?)

 その暖かな声に柚奈はなぜか涙をこぼした。そして自分の中でその思い出について考えた。

(なぜ、今、お姉ちゃんの声が? 私が死ぬから、それかもうここは死の世界? なんで今)

 柚奈は目を開けるとそこは真っ赤な炎が目の前にあった。自分の両手を見てみるとまだ感触があった。そして地面を見るといつの間にか屋上の床に座っていた。横を見るとそこには翔子がいた。また柚奈は目を見開いて前を見た。そこには、レオがいた。
 レオは翼を羽ばたかせ、二人の前に立ち、オブリドの炎を抑えていた。

(な、なぜレオさんが!? 私はぶ、無事です)
「止まれよ! この野郎!」
「おっと、裏切り者の惨状か。死んじゃえよ」

 オブリドの炎はどんどん燃え上がり、大きくなっていった。
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