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救世主

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 その聞き覚えのある声を聞いた柚奈は、涙を浮かべ、立ち止まった。旭もその声に安心し、息を吐いた。声の主は上からで、天井から人影が柚奈の前に落ちてきた。そして立ち上がり、小さながら頼りになる存在、そうその正体は、翔子だった。
 翔子は立ち上がり、柚奈の頬を優しく撫でると言葉をかけた。

「今までよく頑張ったの。安心するのじゃ、葵はここじゃ」

 翔子は笑顔で柚奈に葵が封印されたと思われるお札を見せてくれた。その様子を見たオブリドは右手を伸ばし、叫んだ。

「よくも私の邪魔をしてくれたな! それを返せ」
「お主らここはもう危険じゃ、四人で相手をしても勝ち目がない相手じゃ! 廊下に走るのじゃ」
「はい」
「わかった」

 三人は翔子の指示通り、瓦礫が散乱している廊下を駆け抜けにげた。しかし、オブリドが放出した多数の不気味な青色をした炎の玉が四人に襲いかかった。炎の玉は所々に直撃すると、激しく燃え上がり、火之根はどんどん廃校を飲み込んで行った。

「あの炎はヤバイのじゃ。わしも逃げるとき苦労したのじゃ」
「追跡型って感じなんですね」
「おい、お前ら遅いぞ。これじゃあの炎に捕まっちまう」

 傷だらけの柚奈と旭はやっと走るのが精一杯だった。それに対し龍の力を纏ったレオはその分、速く走ることができるのだ。走る三人に翔子は提案をした。

「おい、そこの少年よ。柚奈を抱っこして走るのじゃ。わしは旭を担ぐ」
「あぁ? しょうがねぇな」

 翔子は旭をお姫様抱っこし、レオは渋々、柚奈をお姫様抱っこした。柚奈は顔を真っ赤にし、渋々耐えた。追ってくる火の玉に対し、やっと四人はグランドに出ることができた。

「少年よ、あそこの校門目掛け、突進するのじゃ」
「はぁ? 結界とか見えねぇのか?」
「いいのじゃ、わしに任せろ」

 翔子の言葉を信じ、レオは翼を豪快に羽ばたかせ、力一杯足を踏み、校門目掛け突進した。翔子も旭を抱っこしながら、レオと同じくらいの速さで校門に走った。そして校門に近づくと翔子は目を見開いた。

「頼む、開くのじゃ。結界に穴を開けろ結界解除式『風穴』」

 すると校門前に張り巡らされている結界に一人通れるくらいの穴ができた。穴が空いたのを確認した翔子は叫んだ。

「今じゃ少年! そこを通るのじゃ」

 レオは最後の力を振り絞り空いた穴を通ることに成功した。レオに続く翔子も通り過ぎることができた。しかし、すぐ後ろから最後の一つだと思われる炎の玉が追ってきた。翔子はすぐに地面に手をかざし、霊力を送った。

「よし、ここならいける。『瞬間移動影がくれ』」

 すると四人の地面の周りに円状に黒い影が生まれ、四人は吸い込まれるように影に飲み込まれた。炎の玉は地面に激突し、消えていった。
 いきなり出現した影に飲まれた三人は目を開けるとそこは翔子が住んでいたマンションの部屋だった。
 安心した四人だったが、いきなり急な頭痛を感じた。立ち眩むほどの頭痛だったが、数秒後はすぐに治った。その頭痛の原因に四人はすぐに気付くのであった。

「し、師匠。助けていただきありがとうございます。この頭痛は」
「礼などいらぬ、お主らの作ったチャンスがあったからじゃ。それよりこの頭痛はあやつにダメージを入れたからじゃ」
「なんだと? あいつにダメージを与えたからこの記憶は取り戻せたのか?」
「そうじゃ、わしらあやつに記憶を奪われておったのじゃ。その記憶を取り戻す手段がこういうことじゃ」
「そっかー! そのおかげで私、結構能力を思い出せたよ」

 みんな少し記憶を取り戻すことにより、それぞれ忘れていた大切なことを思い出すことができた。翔子は傷だらけの三人に『霊力ソーダ』を渡した。

「ほれ、これを飲んで回復するのじゃ。またここの気配を悟られて、いつ攻撃してくるのかわからないのじゃ」

 するとレオが霊力ソーダを受け取ると話し始めた。

「おい、俺はもう行くぜ。世話になったな」

 玄関に向かうレオの手を握り柚奈が止めた。

「どうしてですか? 私達、もう仲間じゃないですか」
「色々思い出しちまったんだよ。俺があいつの力によって力を得たが、俺を探し出す発信機みたいなもんが俺の体内にはあるんだ。これ以上お前らには世話をかけたくねぇ。わかったか、もう手を離せ」

 そうレオが柚奈の手を解くと、玄関を開け、どこかへと消えていった。止めることができなかった柚奈は俯き、何もしてあげれない自分を責めた。

(な、なぜ私は何もできないのでしょう)

 俯いている柚奈に旭が近寄り、柚奈の手を握りしめた。

「大丈夫だよ柚奈。あの少年は強いし、師匠があげた霊力ソーダだってある。しかも、今頃あいつは弱っているはずだ。今私たちがしなけらばいけないことは葵ちゃんと怜をつばげてあげることだよ」
「は!? 忘れてました先輩は」

 二人は後ろを向くともうそこに翔子の姿はなかった。その代わり、床には黒い円状の影があった。二人は顔を見合わせ頷くと影に飛び込んだ。
 気がつくと二人は見覚えのある病室に着いた。そこには怜がベットに横になっており、翔子が葵を繋いでいる最中だった。
 翔子が二人に気付くと人差し指を口に当て「静かに」と伝えてきた。柚奈と旭は目を閉じ、両手を結び、怜の無事を祈った。
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