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海を支配した鱗

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 旭は壁を伝って、拳を強く握りしめリヴィアサンに接近した。リヴァイアサンは鋭い目つきで、旭を警戒し、突き刺した刀を抜き、二刀流で構えた。

(これ以上時間がかかると柚奈の命に関わるし、何よりこの化け物に脳が支配されちまう。ちっ、こんな無茶しやがって、だが、ここで私が決着をつければいい話だ。あれを使うか)
「ほう、私に正面からくるとは、その根性は認めてやるが、残念んだ斬り刻んでやるよ人間」
「私はお前をボコボコにして柚奈を取り戻すんだ! 『花言葉はなことば 品種改良ひんしゅかいりょう 冷静・平常むらさきから超集中あかむらさき』だ。これで決める」
「旭ちゃん。これでもう霊力はあと残りわずかです。無理人は避けてください」

 旭は朝顔の言葉に耳を傾けず、そのまま突っ込んだ。旭は壁を蹴り、着地する場所や殴りかかる位置を計算した。リヴァイアサンは刀を構え、朝日が来るのを待っていた。
 そして旭は地面に着地するとリヴァイアサンに殴りかかった。右の拳を強く握りしめ、リヴァイアサンの腹部を狙い拳を放った。リヴァイアサンは右手に持っていた刀で防ごうとしたが、何か異変に気づいた。

(何だ!? この女の拳は!? 刀を砕こうとしているのか。凄まじい力だ。このままでは本当に砕かれてしまう。ちっ二本で防ぐしかないようだ。しかし、この女、何者なんだ?)
「このまま押し切る!」

 旭の体は紫色のオーラを出しながら殴りかかった。リヴァイアサンは拳の威力に驚き、歯を食いしばりながら二本の刀で防御をした。しかし、その二本の刀も砕こうとするくらいの勢いだった。
 旭は空いている左の拳を構えるとリヴァイアサンはまずいと焦り、素早く後ろに移動した。惜しくも旭の左の拳はリヴァイアサンには届かなかったが、旭はにやけた。
 そして次の瞬間、旭の履いているブーツの底が緑の蛍光色に光り始めた。すると靴底からは朝顔の蔓が大量に生え、その威力を利用し、旭は飛び、リヴァイアサンに急接近した。
 急接近してきた旭に驚き、リヴァイアサンは刀を上にあげた。すると下から海水が上空に勢いよく上がり、一つの壁になった。しかし、旭は超集中の加護を受けているため、即座に対策を考えた。

「なるほど壁ね。でも私には効かないわ。だって、貫通すれば意味ないでしょ?」
「旭ちゃん。あの海水の壁は結構頑丈そうですよ?」
「いいの! 私なら超えられる!」

 旭は拳に力を込め、まっすぐ海水の壁に向かって接近した。そして思いっきり殴ると海水は飛び散り、あっという間に巨大な水の壁は壊れてしまった。流石の怪力にリヴァイアサンは逃げようと考えた。しかし、いきなり体に異変を感じた。

「ゔぅ、あぁ。こ、これは!?」
(何だあいつ? 苦しんでいるんだよな?)
(まずい、人間に意識を奪われる!? クソ、このままでは久しぶりの自由の身が、人間の魂を食べられずに封印されるとは。ならぬならぬ! そんなことは、とりあえず奴だけでも……)
「旭ちゃん。なんだか嫌な予感がします」

 朝顔に言われ、朝日はリヴァイアサンの顔を見るとその顔はまるで勝ちを隠したかのような笑みだった。だが、止まることのできない旭はそのまま、拳を放った。
 リヴァイアサンは拳を受けるとき、何かを唱えた。

「『ヨブ記四十一節 強固な鎧を思わせる鱗我の鱗』」

 旭の右拳がリヴァイアサンの腹部を捉えるが朝日はその鱗の硬さに拳から血が出た。思わずリヴァイアサンの顔を見るが痛みを感じている顔ではなかった。それどころか余裕そうな顔だった。
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