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葵ちゃんと怜のピンチ

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怜は痛みから動くことができず、ただただ跪き、溢れる血を止めるように腹を抑えた。結衣は刀を構えると、そのまま勢いよく振り下ろした。怜は悔やんだ。

(クソ、このままで終わりかよ。誰も救えなかった。あんなに修行までしたのに……俺は、誰も! 葵ちゃんですらも)

 その時、怜のグローブがパッと閃光弾のように光りだした。結衣は思わず、手で光を避けるように目にやった。すると葵が武器化を解除し、結衣の刀を両手で抑えていた。
 怜は驚きのあまり話すことはできなかった。

「葵が時間を……稼ぐ! だから怜! 逃げて!」
「は!?」
「どうゆうこと!? こんなの聞いてないわ。でも、あなたをもらって行くわ」

 結衣は刀を力強く振り、葵の手を払った。葵は吹き飛ばされ、数メートル離れた。怜は出血する腹を抑え、葵の元に近付こうとした。しかし、その前に結衣が柚奈の姿で立ちはだかった。

「浅野さん……ゔぅ、なんでこんなことを」
「ごめんね冬風くん。私は何も話せない。だからここで安らかに眠って」

 結衣がまた刀を構えると葵が走り、両手で刀をつかんだ。葵の手からは血ではなく、煤が出てきていた。あれが悪霊や霊が除霊されるときに出てくるものだと怜は気づき、力を振り絞って葵に声をかけた。

「葵ちゃん! もうやめてくれよ。このままじゃ、ゔぅ……あ、葵ちゃんが」
(冬風くんの守護霊がここまでとは、やはりこの守護霊が……仕方ない、言われた通りあれを使うしかないようね)

 両手で刀を抑える葵に対し、結衣はポケットからお札を取り出した。葵は嫌な予感を察知し、距離を取ろうとしたが、もう遅かった。お札は千円札くらいの大きさで、読めない文字が書いてあった。
 結衣はお札を葵の方に向け、何やら唱え始めた。

「お札よ、あの霊を封印したまえ」
(何!? 封印だと!)

 お札からは赤い魔法陣が出現し、それと連動したのか、葵の右胸からは赤い星が出現した。焦る葵と怜だが、驚く暇も与えずに葵の体は赤く光り、お札に吸い込まれた。

「あ、あ……あお、葵ちゃん」
「ふぅ、任務成功。あとは、冬風くん。あなたの番です」

 結衣がお札をしまうと、また刀を構え、近づいた。なんとかしようと怜は立ち上がろうとしたが、大量の血と体力の限界で、目が霞み、立ち上がることができなかった。怜の前に結衣が近づくと刀を下に向け、刺すように振りかぶった。怜は終わったと思った次の瞬間。上から柚奈が刀を振り、落ちてきた。
 柚奈の顔は殺気に満ちており、結衣を振り払った。後ろを向き、怜の状況を把握すると話し始めた。

「豊ちゃん。私を呼んでくれてありがとうございます。どうやら私に化けているあいつを殺す必要があるらしいです」
(クソ、仲間か。あの子の能力はわかるけど、時間はかけたくないわ。ここは引くしかないようね)

 結衣は柚奈に背を向け、引こうとした時、柚奈は走りだし、一瞬で結衣の前に来た。結衣は焦り、刀を振ったが柚奈に防がれた。そのまま柚奈は右足で結衣を蹴り飛ばした。結衣は蹴り飛ばされ、墓石に衝突した。すぐに立ち上がり、刀を構えようとしたが、前には柚奈がおり、刀を振り上げていた。結衣はその早さに驚き、ギリギリで柚奈の刀を防いだ。しかし、結衣が劣勢なのは変わらず、柚奈の刀を防ぐか避けることしかできなかった。

(何なんだこの女!? 前よりも強くなっている。前は私がとどめをさせるところまで行ったのにどうして!? でも、このままじゃ私がやられるのは時間の問題。なら、任務は成功したんだ。このまま……引こう)

 結衣は必死に柚奈の刀から逃れると指パッチンをした。するとそれと同時に白い煙が柚奈と結衣を囲んだ。柚奈は刀から海水を出し、煙を払った。するとそこには翔子の姿があった。

(間に合った。この姿ならさっきより素早さがあるはず、でも、この人の能力は使いずらい。仕方がない、この能力でここは逃げることだけ考えよう)
(師匠の姿。これは奴の能力。このまま逃げる気ですね。そうはさせないです)

 柚奈は翔子の姿になった結衣を逃さまいと刀を土に刺し、技を繰り出した。

「逃がしません。『荒れ狂う海』です」
「私は……逃げる! 『黒霧くろきり』」

 海水が結衣を捉えたが、結衣からも黒い霧が墓場を暗い世界に変えた。そして結衣はそのままカラスになり、その場を去った。
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