上 下
48 / 153

葵ちゃんとバイオリンを弾く狐

しおりを挟む
 翔子の合図で、柚奈は前に向かって刀を構え、走り出した。少女は向かってくる柚奈に指揮棒をふり、大量の音符を出し、柚奈に攻撃をした。いくつもの紫色の禍々しいオーラを放った音符を柚奈は刀で、払ったり、避けたりしていった。
 意外と刀で斬ることができ、音符自体に霊力が伝わってないと思った。これはまで自分の力を上手く使いこなせていないようだ。まるで、修行をする前の怜のようだった。
 柚奈を囮に、翔子は腰を低くし、相手の音符を利用をし、隠れながら、少女の背後に迫った。
 少女は柚奈を狙うことで精一杯だったのか、全然翔子の姿に気づく様子はなかった。
 そして翔子が少女の背後を捉え、短剣を構え、少女の背中めがけて刺しかかった。
 グサッと勢いよく少女の背中に短剣が刺さり、少女は悲鳴をあげ、倒れた。

「あ”ぁ”……ゔぅ」

 少女が倒れると手から指揮棒が落ち、周りの楽器は音が収まり、また静寂な空間と音楽室はなった。
 翔子は柚奈に近づき、声をかけた。

「どうやら終わったようじゃが、まだこの廃校には闇が隠れておるようじゃな。この少女といい、完全に気配を消すようにしておる。じゃが、この少女に関してじゃが、あまりにも力不足というのか、まだ悪霊か守護霊、どちらを使っていたのかが、まだ分からぬ」
「そうですね。きっと敵はこの子を囮にしたのでしょうか? それとも何か隠したいものでしょうか」
「とりあえず、この少女はこのままで次を見に行くぞ」
「分かりました」

 二人が淡々と会話を進めていると置いてけぼりになっていた怜が口を開いた。

「なぁ。その子大丈夫なんだよな!? お前らそんな幼い子に本気でかかって……どうしたんだよ!?」
「先輩、落ち着いてください。あの少女には手を出しましたが、殺していませんし、少し眠ってもらっただけです。師匠の短剣には強力な睡眠薬を塗っていたんです」
「でも、刺しただろ!? あの女の子かなり怖がってたし」
「ですが……」
「もうよい! 怜、こちらへきなさい」

 二人が少女に攻撃したことに腹を立てた怜は柚奈に声を荒げたが、その様子を見かねた翔子が怜を呼んだ。怜は翔子の元にいった。
 翔子の前に怜が立つと、翔子はいきなり怜の頬を叩いた。怜は驚きのあまり何も言えず、固まった。部屋は凍りつき、ピリついた。

「怜よ、始めにいった言葉を忘れておるようじゃな。もし相手が悪霊だった場合、誰がなんであろうと除霊せよと、この少女は幽霊の力を使ってわしらに襲いかかった。それが何を意味するかわかっておるのか!」
「くっ」
「怜よ、このまま進めばお主はいずれ、戦意喪失で戦えなくなり、殺されるぞ。もう一度言っておく、相手が誰であろうと幽霊の力を使って襲いかかってきた場合、直ちに戦闘をするのじゃ。其奴から避けた場合お主の命はないと思うのじゃ」
「わ、わかったよ」

 怜は少女に近づき、少女の様子を伺った。少女は背中から血が出ていたが、翔子の睡眠剤入りの短剣で刺されたので、ぐっすり寝ていた。

「なぁ、この女の子が廃校を仕切ってるわけじゃなさそうじゃないか?」
「そうですね。これくらいの強さでしたら多分、気配を完全に消すことはまず不可能です。他の部屋を探しましょう」
「うむ。じゃ行くぞ」

 翔子と柚奈は武器を構え、音楽室のドアを開けた。怜も一緒について行き、倒れる少女が無事でいてくれるよう願い、部屋を後にした。ちなみに葵はまだ人魂で怜の背後についてきた。
 静寂が広がる廊下を歩き、翔子は慎重に幽霊の気配を探った。まっすぐ進み、三階の教室を次々に通り過ぎていった。

(まずいのぉ気配が全然察知できぬ、あれだけ騒いだのじゃ、少しくらい幽霊が出てきてもおかしくはないが、最悪はこの廃校を住処にしてる大物がいる可能性があるの)

 翔子は気配を集中して探すが、物音一つもないこの廃校では幽霊の気配を探ることは難しかった。柚奈と翔子は廃校に入ってから気味が悪く、この嫌な雰囲気から早く抜け出したいと思っていた。二人に対して怜は昔を思い出し、口には出さないが、思い出に浸っていた。まるでそれは久しぶりに卒業アルバムを見返すようだった。
 三階の音楽室とは逆の突き当たり、理科室にたどり着いた。
 翔子は立ち止まり、座禅を組んだ。

(ここまでで、気配はなかったが、ここがダメなら次は二階じゃ。どんなに気配を隠そうとこのワシだったら近くに行けば感じ取れるはずじゃ……)

 翔子は数秒座禅を組み、目を瞑って気配を探るが、何も感じ取れることはできなかった。翔子は諦め、立ち上がった。

「三階じゃなさそうじゃ。次は二階じゃ」
「はい、分かりました」
「理科室かぁ、懐かしいな~。ここで俺、アルコールランプ落として壊しちゃったんだよなー」
「先輩! 集中してください」
「あぁわりーわりー」

 怜は理科室を覗くと懐かしいものが並んでいた。柚奈は油断している怜に頬を膨らませ、注意した。
 するとパリンッと勢いよくガラスのようなものが割れる音がした。
 三人は理科室を覗くとアルコールランプが割れていた。急いで翔子はドアを開けようとするが、建て付けが悪いのがもう何年も経ってるからか理科室のドアは全然開かなかった。

「ちっ、このドアは開けるのが難しそうじゃな。手荒になってしまうが、思いっきりぶち破るしかないようじゃ」
「わかった。俺がやる」

 翔子と柚奈は一歩下がり、怜が理科室の前にたった。そして理科室のドアを破ろうとした瞬間、音楽室の方から誰かが、バイオリンを弾いて近づいてきた。バイオリンの音色は美しく、静寂な校舎に音色は響き渡った。そして校舎の窓から差し掛かる月の光で、その正体が明らかになった。おそらく女性のようだ。その姿は白髪だが、所々に赤髪も混じっていた。髪の長さは腰くらいまでのロン毛で、顔は狐のお面をしていた。面の左目には青い月の模様があった。身長は柚奈と同じくらいの百六十センチくらいだった。服装は白いワイシャツに青いネクタイ、下も青いスカートで、青を基調としたコートを着ていた。
 三人は少女の方を向き、何も気配を察知できなかったことに驚いた。

「き、狐!?」
「先輩、警戒してください」

 怜と柚奈は前からくるバイオリンを持った少女に警戒をするが、翔子はみた瞬間青ざめた顔をした。
 少女は三人を見るなり、ため息を吐き、話した。

「はぁなんだ。また君たちか……おっと、今日は月が綺麗ですね。私と一緒に遊んでくれますか」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

異世界で『魔法使い』になった私は一人自由気ままに生きていきたい

哀村圭一
ファンタジー
人や社会のしがらみが嫌になって命を絶ったOL、天音美亜(25歳)。薄れゆく意識の中で、謎の声の問いかけに答える。 「魔法使いになりたい」と。 そして目を覚ますと、そこは異世界。美亜は、13歳くらいの少女になっていた。 魔法があれば、なんでもできる! だから、今度の人生は誰にもかかわらず一人で生きていく!! 異世界で一人自由気ままに生きていくことを決意する美亜。だけど、そんな美亜をこの世界はなかなか一人にしてくれない。そして、美亜の魔法はこの世界にあるまじき、とんでもなく無茶苦茶なものであった。

僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢
BL
リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。 ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。 そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。 「君とは対等な友人だと思っていた」 素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。 【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】 * * * 2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!

処理中です...