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葵ちゃんと柚奈の箸には気を付けろ

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怜は月影の顔を見て、決心を固め、巾着をポケットの中に入れた。

「俺のこと心配してくれてありがとう月影。こんな物使わなくてもいいように俺は強くなるぜ。あと、話し方も面倒くさいから俺もこんな風に話すから月影も俺のことは怜と呼んでくれ。まぁ学校では一応先生だし、敬語で話すけどさ」
「はい、承知しました。しかし、さんだけつけさせてください。これが私の話し方なので。では怜さん今後ともよろしくお願いします。」

 怜と月影の間に握手が交わされ、ニコッと笑った。翔子も笑い、怜に話しかけた。

「怜よ。合格じゃ。お前のそのまっすぐな気持ち受け取ったぞ」
「あぁ! 俺はいつでも葵ちゃんを助けようと進む男だぜ師匠!」
「調子がいいやつじゃの」
「な、なにぃ!?」

 みんな大笑いし、楽しい時間がすぎていくとあっという間に7時になり、夕食の時間になった。月影は昼間、存在化して先生でいて、霊力を消費していたので、あくびをしながら翔子の陰の中に沈むようにゆっくり入っていった。
 柚奈は主婦のように、エプロンを着て、早速夕飯作りに取り掛かった。
 一方怜と翔子はチャンネルの取り合いをしていた。

「おいおいニャンコ師匠。勘弁してくれよ。そろそろ俺の番だろ? 今からサッカーの中継が入るんだ。いい加減チャンネルをよこせ!」
「はぁお主アホか? ここはわしの家。即ちこのテレビの権限もわしが持っているのじゃ。諦めるんじゃな。今からわしはこの『動物クラブ』を見るのじゃ。お主も見た方がいいぞ。可愛い猫ちゃんが出てくるんじゃ」

 怜はチャンネルごときで馬鹿馬鹿しいと思い、渋々、自分に部屋に行った。スマホを開き、サッカーのゲームを始め、これまでのことを考えた。

(ここんところなんだかどっぷり疲れが溜まるなぁ。仕方ないか、先輩にはまんまと俺が罠にはまって殺されそうになるし、リリィにはみんな半殺しにされるしとまぁ、めちゃくちゃハードな日常だったな。いや、待てよ。これが日常って……俺も段々あいつらと一緒の思考になってきたってことか。でも、出会いもあったな。柚奈ちゃんは最初、めっちゃ可愛くて、俺の心臓射抜かれたけど、今となっては、俺のために手料理を振る舞ってくれるんだぜ。はぁ俺もこんなやつと結婚したいなぁ。葵ちゃんは初め出てきたときはビビったな。こんな可愛いやつが俺の守護霊かよって)

 怜が過去のことを思い出し、自分に浸っていると、スマホのサッカーゲームでは相手に点を取られてしまった。怜は焦り、スマホを見返し、ゲームに集中した。
 数分間ゲームに没頭していると味噌汁のいい匂いがしてきた。匂いを嗅ぎつけるように怜はスマホゲームをやめ、部屋から出てリビングにいった。
 そこには柚奈が、味噌汁をゆっくり優しく、おたまで混ぜていた。
 怜は椅子に座り、夕飯ができるのをスマホを見ながら待った。
 柚奈はせっせと作っており、人手が足りなかった。丁度よくそこに、夕飯の匂いを嗅ぎつけ、リビングにやってきた怜に話しかけた。

「あ、先輩。ちょっとご飯よそってもらってもいいですか? それと味噌汁も、あと冷蔵庫にカット野菜があるので取ってください」
「へいへい。あいよ」

 怜はお腹が空き、今までは面倒くさがっていたが、今回は早く食べたい一心で、柚奈の手伝いをした。その様子を見て、柚奈は嬉しくなり、心が踊った。ニコニコ笑いながら柚奈はコロッケを皿に盛り付けていくと、豊姫は不思議そうに質問した。

「何々? 柚ちゃん。そんなにニコニコして、今日いいことでもあったの?」

 豊姫の質問に自分の気持ちが顔に出ていると気付くと、柚奈はハッと自分の顔を抑え、顔を赤くして、答えた。

「えぇ!? そ、そんなことないですよ。わ、私そんなニコニコでした!? 普通なんですけど」
「あぁ~、その顔は何かを隠している時の顔だなぁ。神に嘘は許さないぞ」
「もう! からかわないでください」

 柚奈は顔を赤くしながらも、ほっぺを膨らまし、プンプン怒りながら盛り付けを続けた。動揺からなのか、柚奈は箸を落としてしまった。仕方なくしゃがみ、箸を取ろうとすると、怜と手が当たってしまった。さっき、自分の気持ちが顔に出ていることがバレたので、柚奈は大ピンチだった。何をしていいかわからず、柚奈は固まってしまった。
 乙女心を知らない怜は、固まっている柚奈に困ってしまった。怜は固まっている柚奈に声をかけた。

「なぁ柚奈ちゃんどうしたの? 腹でも痛いのか? いきなり固まってどうした」

 柚奈は深呼吸をし、我に帰った。そして気持ちを顔に出さないよう、我慢し、なんとか怜に話しかけた。

「せ、先輩。あ、あ、ありが……と、とう、ごじゃります」
「へ!?」

 冷静になればなるほど柚奈は追い込まれ、等々お礼を言うときに噛んでしまった。小さい声だったので、怜にしか聞こえてないが、怜に聞かれてしまっては柚奈の恥ずかしさは頂点に達した。
 怜はあんな冷静な柚奈が噛んでしまい、ちょっと新鮮だなと思っていた。本人が気にしてそうだと思った怜は、元気付けようと真っ赤な顔をした柚奈に声をかけた。

「あ、柚奈ちゃんさっき噛……」

 怜が柚奈に噛んだことを聞こうとした瞬間。柚奈は右手が勝手に動き、箸は怜の両目に吸い込まれるようにまっすぐ突き進んだ。そして箸は怜の口をふさぐように目にブッ刺さった。
 いきなり両目に箸を刺された怜は倒れ、箸を抜き、目を抑え叫んだ。

「ぎぃやぁぁぁぁ!」
「先輩大丈夫ですか」
「何事じゃ!?」

 翔子はキッチンに駆けつけ、怜の様子を見た。そして叫ぶ怜の肩を叩き、「ドンマイじゃ」と声をかけた。
 柚奈は守護霊の力を使い、海の綺麗な水を使って怜の目を洗った。すると怜の目は回復し、柚奈が噛んだことだけを忘れた。
 怜は柚奈に顔を近づけ、食ってかかった。

「おいおい! お前ふざけんなよ。いきなり人の両目えぐりにいくなんて、どんな殺人脳してんだよ。あぁん」
「だって、先輩が私を困らせようとしたからですよ」
「はぁ、そんなのしらねぇよ。こっちは親切に箸を拾ってあげようとしただけだよ」

 怒っている怜は起こることに体力を使い、大声で怒鳴っていると、お腹がグゥーとなった。怜は起こるのをやめ、提案した。

「なぁ。そろそろ飯にしねぇ?」
「そうですね」

 怜は椅子に座り、夕飯のコロッケにがっつくのであった。
 葵は熱々のコロッケを慎重にフーフーして食べた。
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