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葵ちゃんと影山先生の秘密

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 ゆっくりコンビニの前で朝ごはんを食べていた怜はさっぱり学校のことを忘れていた。しかし、無理もない。知らない少女にいきなり、殴られて、数分気絶していたので仕方がない。
 車が度々通る中、怜はポカーンとしながらおにぎりを食べたり、水を飲んだ。
 葵はペロペロキャンディーを笑顔で、味わいながらなめていた。それはまるでお菓子をもらえて喜んでいる子供のようだった。その様子を怜は見て、平和だなと微笑みながら、またおにぎりを食べた。
 数分後、葵がペロペロキャンディーを食べ終わると、怜の方を向き、真顔で学校のことを聞いた。

「はぁ~、美味しかった。ごちそうさま。あのさ怜、今日は学校休むの?」
「へ? あぁぁぁぁぁ! 完全に忘れてた。最悪だよ。俺が思い出さなきゃいけない事はそれだ! クソ、あの女のせいで学校のことが吹っ飛んでたわ。葵ちゃん急いで行くぞ」

 葵に言われ、寝坊した時のように怜は叫んだ。怜はスマホの時計を見ると、時刻は9時30分を表示していた。2限までには間に合うと思い、怜はリュックを背負い、走り出した。
 葵も怜から離れないよう、猛スピードで怜を追った。しかし、怜は部活を休んでいたため、体力が普通の人以下になっていた。コンビニから少し走ると、息を切らして歩き出し、また走ったと思ったら歩き出すの繰り返しだった。
 葵はみっともないなと思いながら怜の後ろをついていった。
 9時55分になると怜は汗だくになりながらも、怜の通う学校になんとかついた。2限は10時10分からなので、怜はシューズに履き替え、2限の部屋に移動した。10時なり、丁度授業が終わったので、みんな廊下に出ていた。
 葵は人魂になり、怜のリュックにするりと入り込んだ。
 怜は階段を上がっていくと、柚奈とすれ違った。すれ違いざま柚奈は舌を出し、ベェーッと怜を煽った。
 怜ははぁ? と思ったが、授業に間に合うよう走って階段を上った。
 2限の部屋に入り、席に着くと、汗だくの怜は水をゴクゴクと飲み始めた。
 怜の姿を見た旬は、嬉しそうな顔で怜に話しかけた。

「おやおや、これはこれは遅刻マンの怜くんじゃありませんか。今日はさすがに休むと思ったが、偉いな。最近彼女でもできたか?」
「はぁ~、うるせぇ。彼女でもできてたら朝にでも手を繋いで、登校してやるわ。始めの方に休んでばかりいると1年の時みたいに単位が危うくなるから来てるだけだ。まぁ部活がないだけマシだな」

 怜は水を一気飲みし、答えた。いつものように他愛もない会話をしているとガラガラと影山先生が入ってきた。

「はーい! みなさん座って座って、授業始めるわよ。あら冬風くん、今日は休みだと思ってたけど、来てくれたのね。先生嬉しいわ」
「あ、ホームルームに間に合わなくてすみません。明日はちゃんときます」

 怜は違和感を覚えた。

(あの顔どっかで見たことあるぞ。あの黒髪ロン毛に美しい赤色の目。うーん、どこだっけな。思い出せ思い出せ。俺は一度見た女性の顔を忘れない。そうだろう俺。昨日見たような気がするんだよなぁ。うーん、あ、わかったぞ! そうだそうだ、まさかあの顔。ニャンコ師匠の守護霊じゃね? いや、ありえない。でも師匠は学校の先生をやってるって、言ってたし。なるほど、世間は狭いなぁ。まさかこんなところで先生をやってたなんて、とりあえず旬の目を盗んで、聞いてみっか)

 怜は授業中、先生の顔をジロリと見ながら、頭の中で思い出すことができた。
 しかし、怜にガン見されている影山先生はいい気分ではなかった。何か顔についているのかしらと不安になる先生であった。
 怜はなぜ守護霊が先生のフリなんかして学校にいるのかが不思議だった。それをまとめて聞こうと怜は、聞きたいことを整理した。
 とりあえず授業に集中しつつ、先生の顔をじっくり見た。
 葵は怜のリュックから少し、人魂になった状態で顔を出したりして周りの状況を見て楽しんだ。これが葵なりの怜への見つからないための配慮である。
 授業が終わり、10分後に3限の時間だ。怜は旬を連れて次の教室へと向かっていった。

「ふー、終わった。おい! 旬。次はどこだっけ?」
「あぁ? そいうや次は地理だから3階だよ。んでもって4限が体育だから腹減るぞぉ。なんかお菓子あるか? やるぞ」

 旬と怜は歩きながら会話し、旬は怜に小腹が空くからとチョコをあげた。そのチョコレートは甘く、旬がいつも食べているお気に入りのチョコだった。

「サンキュー、お前いつもこれ食べてるよな。飽きないね。まぁでもうまいわ」
「だろー、俺には糖分が欠かせないから、研究したんだよ。コンビニでどのチョコが美味しいかって俺なりの研究だとそのチョコがうまいんだ。それより次は地理か、俺苦手だから寝てると思うから、授業終わったら起こしてくれな」
「へいへい」

 旬の地理嫌いは相当でまだ日本地図も書けないくらいだ。しかし、旅行先や出先での道案内は得意なのだ。旬にとって地理のどこが嫌いなのかは怜にもわからなかった。
 階段を登り、3階の教室に着くと、早速怜は教科書を出したが、肝心の旬は教科書すら出さなかった。
 隣同士だったので、怜は声をかけた。

「お前さ、幾ら何でも教科書くらいは出そうぜ。それじゃやる気ゼロで単位落とされるぞ」
「いいんだよ。地理なんか覚えたって後々俺は使わないし、地図を見るのは得意だから出先とかでも迷わないし、今俺が学ぶべきものじゃないからいいんだよ」
「ふーん。まぁ地理の先生は1人で喋って終わるやつだから、気にしてないと思うけど、こんないやる気ない奴が隣だと俺もなんだかやりずらいな。でも、俺も人のこと言えねぇし、しゃーないか」

 ガラガラと地理のお爺ちゃん先生が入ってきた。
 早速昼寝に入る旬に対し、先生は黙々と黒板に字を書き始めた。そして書き終わると1人でブツブツ話し、まるでお経を読んでいるようだった。
 怜はとりあえず真面目に受け、ノートをスラスラととっていった。
 鐘が鳴り、3限が終わった。怜は旬に言われた通り、教科書で旬の頭を軽く叩き起こした。
 旬は目をこすりながら、怜の顔を見た。

「はぁ~、もう終わりか。次は体育かぁ」
「旬。お前1限丸々寝てたな。すごいというか、まぁいいや早く行くぞ」

 怜と旬は自分のクラスに戻り、体操服に着替えると、急いで体育館に移動した。
 体育館に着くと、クラスの男子が8割くらいいた。他の男子はトイレか何かだと怜は思った。怜の思った通り、時間が来るとトイレから男子がぞろぞろ出てきた。

 体育教官室から体育担当の先生が出てきた。その先生は体の体格ががっちりしており、顔もゴリラとライオンを足して2で割ったような怖い顔つきだった。しまいには身長190センチとかなり大きい。クラスの男子の半分はこの先生を怖がっていた。

「はい! ではまず準備体操からやるぞ。お前ら広がれ!」

 先生の合図で、みんな広がり、準備体操が始まった。インキャは嫌々やっていたが、陽キャの奴らは張り切って体操をしていた。なぜなら今日の体育はバレーだからだ。体育での球技は陽キャにとっては天国だった。その中の1人旬も喜んでいた。
 しかし、怜はサッカー一筋でやってきたので、自信はなく、隅っこで観戦していたいタイプだった。でもそれは旬が許してくれなかった。旬は1年の頃から怜を気にかけ、無理やりいろんなものに誘ってきた。
 旬なりの優しさかもしれないが、怜にとってはただの苦痛でしかなかった。
 そんなバレーが今から始まろうとしている。怜は絶望した顔で、葵は今から何が始まるかワクワクしていた。
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