or

真亭 甘

文字の大きさ
上 下
7 / 11
SECOND STAGE 華凰

寅の国-尊-

しおりを挟む
「ラエル!!!」

振り返りざまに刀を抜刀一線した。
しかし、破れ布の人影や白髪の人すらもいない。むしろ通行人がいたが、腰を落としたり引き返して逃げ去る人ばっかりだった。悲鳴をあげられ兵を呼ばれる。さすがにまずいと素早く逃げ去る。人混み奥にある屋台に果実を丸かじりする白髪の少年がいた。

「ったく、とんだ災難・・・。あの感じ、いやあいつがいる。いるなら桜花も」

中央の屋台広場に隠れこみ考えながら歩きランが爆食している所へと向かう。大量の皿を積み重ねながら、席について食べている光景は驚いた。

「あるものすぐに、口の中入れると詰まるぞ」
隣に座り食事をすると、料理を提供している屋台の店主から3人分のお金の請求を迫られた。

「あぁ、3人分・・・。・・・3・・・3人分?」
料金換算に驚き、席を飛び上がった。

「3人だろ?この大食いの兄ちゃんに、隣の姉ちゃんも友人だと言っているぞ?」

「姉ちゃん?誰だそれ?」

「私のことよ。初めまして私ルナ、よろしくね。ランの顔見知りなの、あなたもランの知り合い?なら私とも知り合いだね。ちょっと持ち合わせていないから、建て替えてくれる?私の分はもともと大して量食べてないから」

明るい紅い髪に、Yシャツにひざ丈スカートの女の子が、馴れ馴れしく話しかけた。
お構いなく食べるランを引き寄せ確認すると頷く。二人の接点はわからないが、この場を打開する方法が見つからない。これは言い逃れられないな。

「悪いが、俺も金に持ち合わせていない。しかし、あとあと兵似将軍に当たってくれ。将軍が俺たちのこの場での後見人である。軍の将軍だ、もし嘘ならただでは済まされない」

店主にその場をやり繰りするための交渉をする。が、そんなに話は簡単ではない。確かめるために待つという。話していると3度の鐘が鳴り響く。

「ヤバい、宮殿に向かわなくては」ルナに小声で「走るぞ」と話す。「そこ何こそこそと」

「走れ」

食べているランを抱え込み走り去る。今日は逃げてばっかりだ。それもこいつと関わったせいで、やはり俺はここで関わることが間違っていたのだ。そうだ。宮殿で報酬を貰い受けた後、関係なくわかれればいい。そうだ、俺がいなくてもこの女がいるではないか。俺には目的があるのだ。そんなこんだで、宮殿に着くと兵似将軍が待ち構えていた。

「遅い!城主、建岱様がお待ちであられる。さっさと入れ」

「待て、そいつらは食い逃げだ!罪人を処罰しろ」

「こやつらは、我ら国が雇った要人だ。要人に、食い逃げなど無い。以上立ち去れ」

「そんな・・・横暴だ!この国のこの城主が、そんなの暴君だ。今まで収めた俺らの金を返せ」

「要人に国や国王や城主を非難する覚えもなければ、返す金もない」
「そんな!パワハラだ!」

「パワハラか・・・。ならお主らの生活の安全に我らの働きに対する、市民の不平不満・・・こそパワハラだ!パワハラなど文句を言うのなら、城の外で暮らすがいい。城外には、モンスターや盗賊などもある整備されていない土地で、暮らすだ!並外れた人間にしか無理なことだ、それを貴様はやるのか?やれるのか?」

「・・・やるさ、やった方がこんな悪政な国よりましだ」

「わかった。やるからには実行あるだけ。今更の拒否権ないぞ!」

兵似将軍の言葉と同時に兵士たちが店子を担ぎ上げ、城門へと歩いて行った。もう後戻りもできなく謝罪の言葉を連呼するが、誰一人と聞く耳を持たず絶望の淵に陥りかけた瞬間、兵士を呼び止める声が響く。
12神獣の職として難なくやっているが、一番覇権争いの多い。それをわかっていても、魅力を感じる職ではある。それはこの俺がこの世界に存在するためなのであろ。ならば終わりゆくまで暴れてやろうではないか。宮殿広間に座り込んでいた男、建岱に伝令が報告に来た。

「伝令、国主・建文さまら軍が新明城から出陣されました」

「殿、若殿が来たな。野党どもは傭兵や各部隊が片付けた。税の猛将青宇将軍も討たれ、民鬼も暗殺された。税への躊躇いは消えました」

「まったくだね・・・なぜ実力を測り間違えるのかな?それほどまでに力を持ち合わせているほどでないのに先走るのかな」

建岱の左に細長くキリっとした顔が特徴と、右に真逆の丸く優しそうな二人の老将が話している。

「自国を自分たちの手で、取り戻そうと動いたのだ。逆の立場ならそうだろ?岩夫(がんふ)よ!魚杢(ぎょもく)、好機か?」

優男風の岩夫と細長い魚杢の二人は外へ歩き出した建岱の後ろで手を合わせてお辞儀をする。魚杢は戦を行う正当性や作戦を細かく説明をする。魚杢からの説明を少しながら考え込むこともあったが、雅竹に教えると思いながら、久しぶりの戦に興奮する。

「これこそ我らが、殿!国主を退かれてからも、このアニマ。興奮の関を切るのが楽しみです」と魚杢と岩夫は口をそろえて言う。後ろの二人からの言葉に建岱は、「ハハハ、そんなのないよ。全盛期頃よりも格段に下がり切っている。その証拠に下はしなっている!」と衰えと惚気を言って笑いながら、大広間に入ると傭兵や兵士が腰を下ろしている。礼儀としての珍しくない光景だが、どこか重い雰囲気であった。

「顔を上げよ!戦功恩賞を始める」

「お待ちください」建岱が話しかけている途中に、兵似将軍が立ち上がり申し出を挙げた。

「なんだね、兵似将軍?」

「は、自分は商人との揉め事に兵士たるがゆえんには相応しくない、あるまじき行いをしてしまいました。」

「と、申すと?」

「それは私、甕(かめ)がお答えします」

甕、魚杢や岩夫より少し年の低い労将。年齢順に魚杢、岩夫、建岱、甕、兵似の順になる。
ちなみに魚杢と岩夫は建岱の家庭教師に当たり、甕は建岱の義兄弟の契りを交わした盟友。兵以は関係性はないが、戦を駆け巡った将軍。建岱が12神獣の寅の地位からもあり、華凰では4人のことを寅の足とも言われている。

「先ほど兵以と商人は宮殿の門で言い争いをしていました。客人へ飲食に代金を免除致すとも契約書には記載されているにも拘わらず、商人は怒鳴り散らし、兵士たちへのもありました。そこへ兵以も怒り商人たちを追い出しを行ったのです。それを見ていた私が止めに入り、商人も謝罪をして難なく終えました」

「しかし、私兵以は兵士たちに見本としては、あるまじき行い。これは許されることではありません」

「わかった。なら処罰を与える。」

建岱の言葉に甕と兵以は即膝をついて手を合わせ、建岱の話を待つ。建岱は椅子から立ち上がり、兵以を前へと呼びだす。処罰を受けるものが前に出て刑を宣告される光景とは、少々違い建岱も前に出て兵以と対面に向かい合った。すると兵以は大雨に濡れたように全身から大量の汗が噴き出て、それまで寝てないのかと思うくらい疲れ切った顔をしていた。

「では、刑を申し上げる。兵以、お主は無罪だ」

「え!・・・あ、ごめんなさい」

ルナが思わず声をあげたが、すぐさまに頭を深く下げた。息を吞む音が聞こえて聞こえてきそうなくらい静まり返った大広間に少女の高い声は響き渡った。ランはわからないがルナ自身や俺でもこれはヤバいと感じた。
大広間の静まり返った雰囲気は、誰もが気まずさを感じた。建岱は口を開いて、兵似将軍を呼び掛けた。呼ばれた兵似将軍は焦りで変な発音になった。

「兵似将軍、近頃領地内で暴れている賊どもについて何かつかめたか?」

「は、ああはは・・・賊軍は近隣の村々を襲い、金品や人攫いを行い。売りさばいている模様」

「うむ、で彼らの目星は」

「それは私ジットが代わりに申し上げます」兵似将軍ではなく後ろの方に控えている。ロン毛にニット帽を被った青年が名乗り出てきた。

「おぉ、HUNTER FUNGからの傭兵ジットか」

HUNTER FUNG 変異前にシステムイメージとしてアップロードされた作品。青年が悪徳政治を倒し、新たな治安を作るという設定の。と言っても俺もその後に配信されたDogmaのシステムキャラクターではあるが・・・。ジットは俺らの前で片膝を着き建岱に話す。

「陛下、これは以前のわれらHUNTER FUNG設立きっかけとなった出来事と同じです。賊によって治安や国力を裂き、弱まったところを一気に畳みかける。この流れはスットマンによって内政から行われましたが、今回は隣国税の国からの攻撃。そしてこれを画策しているのは、我々の時と同じく・・・そして、殿と同じ12神獣の・・・文圍であると」

「・・・やはり文圍の仕業か、これはますます大人しく隠居をさせてくれませんな殿」
「はぁ確かにこれは困った。」

優男の岩夫が立ち上がり大いに声を上げて、建岱に話しかける。話しかけられた建岱は、顔に手を当てて目を閉じる。が、すぐに顔を上げて指示を出す。

「そうだな、岩夫。岩夫・甕・兵似すぐに挙兵の準備をせい。魚杢、税までの進軍の策をたてい」

「は!」

岩夫・甕・兵似はすぐに大広間を後にし、戦支度をはじめに走る。しかし、魚杢はただただ伏せたままその場に残った。

「殿、出陣もいいですが、首都合肥を制圧しても今回の目的は果たされません。賊の首領は税国ではなくまとまりもつかない江西のさらに奥、武功山にいるとのこと、奴を討ち果たしてこその出陣です」

魚杢からの言葉に困り顔に手を寄せた。こちらに来ている倅の本軍とここの二軍に分けて出陣しても雅竹を取り逃がしてしまう可能性もある。一軍にしても遠征費やこれからの洛陽にて帝の催事にも間に合わない。名君とも言われる穏やかさ聡明さで怒りださない人である建岱も思わず「申めぇ」と叫びだし、顔にしわを寄せるほど強張っていた。

「殿、安心してください。今回の件両者を勝ち取る方法がございます。」
魚杢は漫然の顔つきで建岱に申し上げる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...