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FAST STAGE

上陸準備

　朝靄の霧の中を航行中に突然と、船は「ボォー、ボォー」と低音の霧笛を鳴り響かせると、それに合図するかのように「ドン、ドン」と太鼓の音が返ってきた。太鼓の音の方から光が何度も光っては消え、光っては消えを繰り返す。その光が遠い方と近く低い所からも光り出す。光に驚いてか船の航行スピードはだんだん減速されて、一番遠い光を真横に着ける向きで船は足を止めた。デッキには船員が集まり出すと、カイが衣類を持って近寄る。寝ているランの頭を軽く蹴り、起こす。

「おい、・・・お前の希望通りに港まで送ったよ」

少しもだもだとしながら話すカイの表情は、照れてるようにもめんどくさそうにも思える表情だった。そんなカイに目もくれずにランあっさりと起き上がり、一言。

「ありがとう」

その言葉だけだったが、カイはニヤニヤとしながら笑う。ランは立ち上がり次の言葉を出す。

「この後はどうすればいい？泳げばいいのか？」

「いや、上陸船を出すが・・・」

大きい町や港町でも無い漁村の小さな村。回転灯は変異前の残りを深夜漁に出てっている男たちに、帰ってくる場所を教えるため。浅瀬に長期航行船などが侵入するとすぐに座礁の恐れもある。小舟を何艘も常備しており脱出や島などへの連絡に使われる。

「急いでいるなら、ラビットに運んでもらう！」

「・・・」

「別に変な意味じゃないぞ。俺らは海賊。世間様の考えじゃ、人攫いや略奪を行う無法者。何人も乗せた船が来てみろ。ろくなことは無いだろ。そこでだ、交渉人を先兵とし上陸を図るのが俺らのやり方。しかし、これには時間を使う。でお前はこの時間に待てないなら、跳躍の得意なラビットにあのひとけのない木々に運んでやるってことだ」

ランはカイが指さす木々の方を少し眺めながら、話を戻した。

「急がない。村が落ち着いてから、船を降りる」

「・・・」

「頭どうします？行くんすか？行かないんすか？」

「ふん、・・・あーあー急いでいないって。コクは行ったか？」

駆け寄ってきたラビットと話しながら、船の中へと入っていく。ランは何も言わずに近くの砲台に背を合わせ、陸地を見るように座り込み。まだ眠たいのか目を閉じる。それから物の数分後に、甲板を激しくならし走る音が近寄ってくる。目を開け顔を合わせると、急な視界の暗さに慌てた。振りほどくとさっきまでカイが持っていた衣類が手元にあった。

「下船するなら、その服に着替えて行け。紳士的に話したのに、下船したものが荒くれものや野良人でしたでは本末転倒だろ？着替えて行けよ」

カイから渡された服に袖を通す。汚れ破れた服に感じる粉の纏わりや内側へ入り込んでくる風が無い久しぶりの新しい服にランは顔がほほ笑んだ。白無地のTシャツに黒のGパン。軍隊服ではなく一般の私服を身にまとったランは、足元を眺めすぐさまカイへ向かう。

「カイ、カイ。履物は？履物！靴やスリッパ！・・・」

カイを見つけるや靴やスリッパを要求するランに困り果てるカイだったが、奥から少し周りとは違う雰囲気をもつ男性が現れ、カイに話しかけ俺の前に物を差し出した。

「あいにくこの船に有り余る靴はありません。代わりにサンダルでいいかな？」

「・・・おう！それでいいぞ、クニマル！」

「・・・1番いいのが、貰えた！」

クニマルはカイに一礼しその場を離れ小舟に乗船し陸地へ進んで行く。クニマルをカイと一緒に見送ったランは、デッキで待ち続けた。朝日が海から顔を出すころに、クニマルは船へと戻ってきた。クニマルが階段を上がりデッキに上がり、上陸が成立したことをカイに告げた瞬間。号令と共に乗組員は一斉慌ただしく上陸準備を始めた。

「ラン！待たせたな、これでお別れだ」

「よし、じゃすぐにあそこへ運んでくれ！」

ランは上陸がわかるとなると、船から飛び降り小舟へと移った。衝撃で小舟は一瞬海面よりも深く沈み大きく波打ったが、何とか立て直した。まだ小舟に残っていた操舵手は何度も荒波を乗り越えてきた歴戦の船乗りらしからぬ慌てて船にしがみつく。恐怖が顔に書いてあるような表情をしていた。しかし、飛び降りてきたランは？を浮かべた表情からすぐさま笑顔になり、右腕を振り回し陸地に指を指し。さあ進めぇ！って言わなくても分かるような雰囲気だった。

「ふざけんな！お前の勝手な行動でもうすぐ打破か、沈没するところだったんだぞ！」

進め進めしか考えていなかったランにはこの言動は驚き、どうしたらいいのか分からなく後退りし海に落っこちてしまった。

「おーい！ラクー。そうどやすなって、海に落ちただろうが・・・。引き上げて陸へ運んどけよ」

船の上から見ていたカイが、笑いながら操舵手のラクーに向かって笑いながら言う。
ラクー。上半身裸でゴツイズボンにつま先に鉄板がついた靴を履いている。年齢的にはラビットより少し若い操舵手見習いみたいな感じの少年。船長のカイに言われランを引き上げるが、突然の怒鳴り声に驚いたランはラクーから距離をとる。関係を治めようともせずに、ラクーは舵を握り船を漕ぎだした。
変異後のこの漁村には小舟による引き網や数人による釣りで数匹を引き上げる位の超近海漁業が主な産業。そのため少し沖合漁業に出る漁船は無くさらに桟橋も無いため、少し砂浜から離れ膝下を浸かる程度の深さまで来たら、船を止めランに着いたので船から降りろとラクーは言う。安定してない船の上でゆらゆら揺れながらランが船を降りるとすぐさまラクーはカイたちの元へと戻っていった。

「頭、あれでいいんすか？」

デッキからランが村の中へ進んで行くのを見ながらラビットは、カイに話しかけた。

「うん？なにが？」

「なにがって、あの少年のことですよ！あの少年って確か政府の人間が言っていたことじゃないか？」

「そうだっけ？まぁ別にいいでしょ。あんなガキ」

「まぁ確かにまだガキってか、野生児よりひどい獣だけど・・・」

「それに俺らが関わらなくても、誰かがちゃんとしてくれるさ」

「・・・それにしても、５億は勿体無い。」

カイたちが艦内へと引き上げていくのと、入れ違いに影で様子を見守る人影がある。