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10、僕の恋愛運
しおりを挟む「…そういや、お前の初恋はライラだもんな、…何か悪いな」
「は?! なんで知って?!」
突然の発言に、僕の心臓が止まるかと思った。だって、僕の初恋の話は誰にも打ち明けていない。親は勿論、ライにだって一言も漏らしていなかったのに気付かれていたなんて。
「俺とライラは王家派の繋がりを重視しての婚約で結婚だから、同士のような関係だけど。さっきも言ったろ、お見通しだって。ルーがライラを見ていた事は、一番近くにいた俺が分かることさ」
「ライラは…」
「知らない。お前の事をライバルだと思ってそれを誇りにしてるからな」
その言葉に僕は苦笑した。僕がライラの恋愛対象に入っていない事は、始めから知っていた事だから。
「…確かにライラは僕の初恋相手だよ。でも、今は友人として見てるし、これからもそうだ」
「きっかけとかあるのか?」
「すごく些細な事さ。同じクラスになって、初めて会った時に。僕の目を見て『素敵な目の色をしているのね』って、ライラはそう言ってくれたんだ」
たったそれだけだ。それだけで僕は生まれて初めて恋に落ちた。恋は一瞬だと聞いていたけれど、まさにそう。
「不思議なことにルル伯爵令嬢も、初対面で同じ事を言ってくれたんだ。姉妹ってそんな所も似るのかと驚いたな」
出会った当初からライラは次期当主としてすでに教育を受けており、十三歳の時に婿入りするライと婚約した。ライラは始めから嫁入りが出来ない相手だったのだから、僕の恋が叶う相手じゃない、恋に落ちた瞬間に失恋決定した。仕方がない事だと分かっていた。でも心の中ではなかなか諦めきれずにいた。そんな時に、ルル伯爵令嬢と出会い、彼女との婚約話が持ち上がったのだ。
悩んで悩んで、結局婚約を受け入れたけれど、始めはライラに似た所を探してたと思う。けど、性格とか全然似てなくて。でもそれが、ルル・キャメルという子であり、姉妹ではあっても別人だと僕に理解させてくれた。そうしたら、彼女の事が可愛く見えてきた。元々可愛い子だったけど、こう、他の子より断然可愛く見えるというか。
「僕はルル伯爵令嬢の婚約者になって、後悔してないよ。最初は振り回されてて困ってたけど、彼女の笑顔を見たらこれで良かったんだって思えてたし、結婚したならもっと笑顔になれるよう幸せにしようって思ってたから」
「…そっか、ルルの事、本気で好きだったんだな」
「…うん。好き、だった」
段々、僕を相手にする事に飽きてきたんだなって気付いていたけど、それでも彼女の隣に居たいって思うほどには。可愛い彼女を囲む男性陣に心の奥で嫉妬するくらいには。婚約者の座を手放したくないと思うほどには、好きで、好きで……きっと、愛していたのだ。
「…僕って、恋愛運、ないね…」
勝手に涙が溢れてくる。あの日の夜とは違って人前で本気で泣くのは、貴族としては失格かもしれないけれど。もう僕自身では止められそうになかった。
「そうかもな」
ライはそっと僕の隣に移って、布巾を渡してくれた。
「………これ、さっき、零したお酒、拭いた、ヤツ」
「おっと、すまん」
この日の夜は、泣いて笑って、泣いて泣いて、酒を呑んではまた泣いて。あっという間に朝になってて朝日が目に染みたけれど、僕の涙はすでに止まってた。
ライラに恋した事、ルル伯爵令嬢を愛した事、どちらにも失恋し愛を失った事になるけど僕にとって大事な思い出だ。まだ時々胸が痛むが、今日から僕は前へ進んでいける。酒臭い部屋で窓から朝日を眺めながら、そんな確信を抱いた。
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