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おまけ

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 私は名もなきメイド。
 なんてカッコつけて言ってみたけど、とある伯爵家で働く人の一人ってだけよ。と言っても本家の方じゃなくて、伯爵家の別荘地の方が職場だから最低限の人数しかいないし、気楽な感じ。…その分、出逢いがないのが問題ね。いえ、他にもあるかな。

「――聞いているのか」
「はい」
「…シンディならもっと明るい笑顔で私を見つめてくれるのに」

 先代伯爵様のご子息であるジョナサン様。ご不幸なことがあり、意識はあるのに頭しか動かせず寝たきり状態になってしまわれた方。そのお世話は基本的に男性の従者がされるのだけれど、ご無聊を慰める為にこうして私のような若いメイドが呼びつけられるのだ。これも仕事の一つではあるけれど、それの何が問題かと言えば。

「シンディは良く尽くしてくれた。領地のことに関しても父が褒めるくらいしっかり学んで――」
「そうですね」
「シンディは貴族としてのマナーが完璧で――」
「そうですね」
「シンディは―――――」

 ベッドに寝たままのジョナサン様のそばで、ずっと離縁なさった元奥様の話を聞かされ続けるのだ。しかも返事も求められるので、相槌も必要。正直言って、かなり面倒な役目で一番辛い仕事としてメイド達の中では嫌われている。元々色男だったんだろうなって思うけれど、やせ細り病的な姿で話し続けられるのはむしろ怖い。

「シンディとの愛が真実の愛だった…私は気付くのに時間がかかってしまって、手放してしまった。あぁ愛しのシンディ。私が居ない場所できっと一人泣いているかもしれない…」

 いえ、ジョナサン様から聞いた限りでは、働き者で人付き合いも上手な方のようですから、今頃再婚なさって元気にしているのではないでしょうか。
 …なんて、言える訳ないので私のようなメイドはこう答えるしかない。

「そうですね」

 お給料はいいし、衣食住完備ですごくいい職場。さえなければ最高なのに。
 …そう言えば、私と同じ孤児院で育った黒髪で赤目のあの子。今は庭師に弟子入りして見習いとして働きだしたって聞いたけど、元気にしてるかな。この辺りでは珍しい配色だからいじめられてないか、姉貴分として心配だわ。今度、仕送りするとき院長先生に宛てる手紙に書いてみよっと。

「シンディ、私の愛は――」

 ちょっとだけ現実逃避してみたけど、まだ話は続くのよね…。早く交代時間が来て欲しいと願いつつ、今日も私は相槌を頑張るのだった。
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