上 下
12 / 13

小ネタ①王子の新たな婚約候補者(会話文)

しおりを挟む


 王妃の庭にて、王家の対話は休息を挟みつつも続いていた。


「さて、ジオルド。お前の新たな婚約候補者の件だが、お前が望む相手はドコゾーノ男爵家の令嬢で間違いないか?」

「はい、私はサリーを愛してます。サリーと結婚したいのです」

「そうか、ならばやはり、結婚どころか婚約さえ認められぬ」

「何故ですか?! サリーが下位の貴族だからですか?」

「それは違う。ジオルドよ、よく聞け。ドコゾーノ男爵家の令嬢は、もう五年も前に病にて亡くなっておるのだ。死者である令嬢を新たな婚約者として、ひいては妻とするなんて事を認めるられるがないだろう」

「は? 死者? 何を言っておられるのですか? サリーは――」

「ドコゾーノ男爵家から借りたものがある、あの絵姿をここへ」


 近衛兵が大きな絵を運んで来る。その絵は、夫婦らしき寄り添う男女と、その男女の前で一人の幼い少女が椅子に腰掛け、一輪の花を持って微笑んでいる絵であった。


「……これが何ですか?」

「手前に座っておるのが、病に倒れる前の、生前のサリー・ドコゾーノ男爵令嬢だ」

「は?!…全然、違います! サリーの髪は優しい亜麻色です! 瞳の色だって生命溢れる大樹の幹のような濃い茶色で……こんな黒く汚れたような髪と枯れた草のような目の色ではありません! 全くの別人です!」

「だが、この絵の人物こそが、正真正銘サリー男爵令嬢なのだ」

「そんなバカな…ありえません。そうだ、サリーは今日、寮に居るはずです。今からでも迎えに――」

「寮に不正入室していたそのサリーと名乗っていた者はすでに捕らえて、牢屋に入れておるぞ」

「え?」

「当然であろう。貴族の資格を持たぬ者が、貴族と偽っていた。それだけでも罪となる上に、王立学校に通う為の必要な手続き書類まで偽造しておったのだ。この時点で極刑は免れん」

「は? え、そんな、何かの間違いでは?!」

「ドコゾーノ男爵家の令嬢はこの絵姿にある亡くなった令嬢のみ。それは確かである。ではドコゾーノ男爵令嬢を名乗っていたその亜麻色の髪の娘は、どこの誰なのであろうな? お前は知っておるのか?」

「…そ、れは…」

「念のため、わが国で管理しておる貴族録を元に調べてみたが、問題の娘と年齢や外見に合う貴族令嬢は全て身柄の確認が出来ておる。娘の出身は貴族の家ではない事は確実だ。それともお前はあの娘の身分を証明出来る何かを持っているのか?」

「…あ! 母親の形見だと言っていたペンダントがあったはず! でもそれは壊され、て………その…」

「よもや壊されたと言い張るあの虫除けペンダントのことではあるまいな? 虫除けペンダントなぞ、国中にある上にペンダントトップ部分は使い捨てではないか。ああそれと、先に言っておくがドコゾーノ男爵夫人は健在であるからな」

「…そんな…形見ですら、ないじゃないか…」

「身分を偽り、王位継承権を持つ者や将来王宮に努める見目の良い男子らに近寄る娘だ。
わが国は大きく、当然味方も多いが敵も多い。ましてや今はアリエン帝国の動きが活発となっておる。その娘が我が国を撹乱する為に工作員として送られた者ではないとどうして言える」

「そ、それでもなにか、何か事情があるはずです! 彼女は心優しい少女で」

「事情があれば、全ての罪を許すというのか? 王家の者がそれを許せば、この国の法はただの飾りに成り下がるわ! そうなれば王家の威信どころかこの国の威信も大きく揺らぐと、どうして気付かない?」

「ッ!」

「それとな。その娘だが、牢に入れる前の事前の体調調査で、子を宿しておることが判ったそうだ」

「そんなバカな…!」

「王の子として教育を受けた以上、婚前交渉はしておるまい?」

「……は、はい。それはもちろん、キスまでです」

「まぁその相手もすでに分かっておる。お前と似た髪色と目の色を持つ役者だった。色が似ていれば産まれた子をお前との子と主張し、浅はかにも王族の名を語ろうと考えておったようだ」

「う、うそだ…そんなの…そんなの、ありえない…サリーが、サリーは…」

「以上の理由により、お前の新たな婚約候補はおらぬことになった。良いな」

「さ、サリーに面会することは出来ますか?!」

「ふむ…」

「お願いします! 会わせて下さい!!」

「一度だけ、こちらが取り決めた日時である事と必ず近衛と立会人を設ける事。牢屋の扉越しでの面会ならば許そう」

「ありがとうございます!」




尻切れトンボでおしまい。
小ネタと言うか没ネタと言うか…本編に入れられなかった部分です。なので中途半端でごめんなさい。あと、王とジオルドだけの会話になってますが、王妃もこの場にいますよ。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

山に捨てられた令嬢! 私のスキルは結界なのに、王都がどうなっても、もう知りません!

甘い秋空
恋愛
婚約を破棄されて、山に捨てられました! 私のスキルは結界なので、私を王都の外に出せば、王都は結界が無くなりますよ? もう、どうなっても知りませんから! え? 助けに来たのは・・・

【完結】「幼馴染が皇子様になって迎えに来てくれた」

まほりろ
恋愛
腹違いの妹を長年に渡りいじめていた罪に問われた私は、第一王子に婚約破棄され、侯爵令嬢の身分を剥奪され、塔の最上階に閉じ込められていた。 私が腹違いの妹のマダリンをいじめたという事実はない。  私が断罪され兵士に取り押さえられたときマダリンは、第一王子のワルデマー殿下に抱きしめられにやにやと笑っていた。 私は妹にはめられたのだ。 牢屋の中で絶望していた私の前に現れたのは、幼い頃私に使えていた執事見習いのレイだった。 「迎えに来ましたよ、メリセントお嬢様」 そう言って、彼はニッコリとほほ笑んだ ※他のサイトにも投稿してます。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

【完結】私の婚約者は妹のおさがりです

葉桜鹿乃
恋愛
「もう要らないわ、お姉様にあげる」 サリバン辺境伯領の領主代行として領地に籠もりがちな私リリーに対し、王都の社交界で華々しく活動……悪く言えば男をとっかえひっかえ……していた妹ローズが、そう言って寄越したのは、それまで送ってきていたドレスでも宝飾品でもなく、私の初恋の方でした。 ローズのせいで広まっていたサリバン辺境伯家の悪評を止めるために、彼は敢えてローズに近付き一切身体を許さず私を待っていてくれていた。 そして彼の初恋も私で、私はクールな彼にいつのまにか溺愛されて……? 妹のおさがりばかりを貰っていた私は、初めて本でも家庭教師でも実権でもないものを、両親にねだる。 「お父様、お母様、私この方と婚約したいです」 リリーの大事なものを守る為に奮闘する侯爵家次男レイノルズと、領地を大事に思うリリー。そしてリリーと自分を比べ、態と奔放に振る舞い続けた妹ローズがハッピーエンドを目指す物語。 小説家になろう様でも別名義にて連載しています。 ※感想の取り扱いについては近況ボードを参照ください。(10/27追記)

婚約者と妹に毒を盛られて殺されましたが、お忘れですか?精霊の申し子である私の身に何か起これば無事に生き残れるわけないので、ざまぁないですね。

無名 -ムメイ-
恋愛
リハビリがてら書きます。 1話で完結します。 注意:低クオリティです。

乙女ゲームのヒロインが純潔を重んじる聖女とか終わってません?

ララ
恋愛
私は侯爵令嬢のフレイヤ。 前世の記憶を持っている。 その記憶によるとどうやら私の生きるこの世界は乙女ゲームの世界らしい。 乙女ゲームのヒロインは聖女でさまざまな困難を乗り越えながら攻略対象と絆を深め愛し合っていくらしい。 最後には大勢から祝福を受けて結婚するハッピーエンドが待っている。 子宝にも恵まれて平民出身のヒロインが王子と身分差の恋に落ち、その恋がみのるシンデレラストーリーだ。 そして私はそんな2人を邪魔する悪役令嬢。 途中でヒロインに嫉妬に狂い危害を加えようとした罪により断罪される。 今日は断罪の日。 けれど私はヒロインに危害を加えようとしたことなんてない。 それなのに断罪は始まった。 まあそれは別にいいとして‥‥。 現実を見ましょう? 聖女たる資格は純潔無垢。 つまり恋愛はもちろん結婚なんてできないのよ? むしろそんなことしたら資格は失われる。 ただの容姿のいい平民になるのよ? 誰も気づいていないみたいだけど‥‥。 うん、よく考えたらこの乙女ゲームの設定終わってません??

元婚約者が「俺の子を育てろ」と言って来たのでボコろうと思います。

音爽(ネソウ)
恋愛
結婚間近だった彼が使用人の娘と駆け落ちをしてしまった、私は傷心の日々を過ごしたがなんとか前を向くことに。しかし、裏切り行為から3年が経ったある日…… *体調を崩し絶不調につきリハビリ作品です。長い目でお読みいただければ幸いです。

妹に婚約者を奪われたので、田舎暮らしを始めます

tartan321
恋愛
最後の結末は?????? 本編は完結いたしました。お読み頂きましてありがとうございます。一度完結といたします。これからは、後日談を書いていきます。

処理中です...