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小ネタ①王子の新たな婚約候補者(会話文)
しおりを挟む王妃の庭にて、王家の対話は休息を挟みつつも続いていた。
「さて、ジオルド。お前の新たな婚約候補者の件だが、お前が望む相手はドコゾーノ男爵家の令嬢で間違いないか?」
「はい、私はサリーを愛してます。サリーと結婚したいのです」
「そうか、ならばやはり、結婚どころか婚約さえ認められぬ」
「何故ですか?! サリーが下位の貴族だからですか?」
「それは違う。ジオルドよ、よく聞け。ドコゾーノ男爵家の令嬢は、もう五年も前に病にて亡くなっておるのだ。死者である令嬢を新たな婚約者として、ひいては妻とするなんて事を認めるられるがないだろう」
「は? 死者? 何を言っておられるのですか? サリーは――」
「ドコゾーノ男爵家から借りたものがある、あの絵姿をここへ」
近衛兵が大きな絵を運んで来る。その絵は、夫婦らしき寄り添う男女と、その男女の前で一人の幼い少女が椅子に腰掛け、一輪の花を持って微笑んでいる絵であった。
「……これが何ですか?」
「手前に座っておるのが、病に倒れる前の、生前のサリー・ドコゾーノ男爵令嬢だ」
「は?!…全然、違います! サリーの髪は優しい亜麻色です! 瞳の色だって生命溢れる大樹の幹のような濃い茶色で……こんな黒く汚れたような髪と枯れた草のような目の色ではありません! 全くの別人です!」
「だが、この絵の人物こそが、正真正銘サリー男爵令嬢なのだ」
「そんなバカな…ありえません。そうだ、サリーは今日、寮に居るはずです。今からでも迎えに――」
「寮に不正入室していたそのサリーと名乗っていた者はすでに捕らえて、牢屋に入れておるぞ」
「え?」
「当然であろう。貴族の資格を持たぬ者が、貴族と偽っていた。それだけでも罪となる上に、王立学校に通う為の必要な手続き書類まで偽造しておったのだ。この時点で極刑は免れん」
「は? え、そんな、何かの間違いでは?!」
「ドコゾーノ男爵家の令嬢はこの絵姿にある亡くなった令嬢のみ。それは確かである。ではドコゾーノ男爵令嬢を名乗っていたその亜麻色の髪の娘は、どこの誰なのであろうな? お前は知っておるのか?」
「…そ、れは…」
「念のため、わが国で管理しておる貴族録を元に調べてみたが、問題の娘と年齢や外見に合う貴族令嬢は全て身柄の確認が出来ておる。娘の出身は貴族の家ではない事は確実だ。それともお前はあの娘の身分を証明出来る何かを持っているのか?」
「…あ! 母親の形見だと言っていたペンダントがあったはず! でもそれは壊され、て………その…」
「よもや壊されたと言い張るあの虫除けペンダントのことではあるまいな? 虫除けペンダントなぞ、国中にある上にペンダントトップ部分は使い捨てではないか。ああそれと、先に言っておくがドコゾーノ男爵夫人は健在であるからな」
「…そんな…形見ですら、ないじゃないか…」
「身分を偽り、王位継承権を持つ者や将来王宮に努める見目の良い男子らに近寄る娘だ。
わが国は大きく、当然味方も多いが敵も多い。ましてや今はアリエン帝国の動きが活発となっておる。その娘が我が国を撹乱する為に工作員として送られた者ではないとどうして言える」
「そ、それでもなにか、何か事情があるはずです! 彼女は心優しい少女で」
「事情があれば、全ての罪を許すというのか? 王家の者がそれを許せば、この国の法はただの飾りに成り下がるわ! そうなれば王家の威信どころかこの国の威信も大きく揺らぐと、どうして気付かない?」
「ッ!」
「それとな。その娘だが、牢に入れる前の事前の体調調査で、子を宿しておることが判ったそうだ」
「そんなバカな…!」
「王の子として教育を受けた以上、婚前交渉はしておるまい?」
「……は、はい。それはもちろん、キスまでです」
「まぁその相手もすでに分かっておる。お前と似た髪色と目の色を持つ役者だった。色が似ていれば産まれた子をお前との子と主張し、浅はかにも王族の名を語ろうと考えておったようだ」
「う、うそだ…そんなの…そんなの、ありえない…サリーが、サリーは…」
「以上の理由により、お前の新たな婚約候補はおらぬことになった。良いな」
「さ、サリーに面会することは出来ますか?!」
「ふむ…」
「お願いします! 会わせて下さい!!」
「一度だけ、こちらが取り決めた日時である事と必ず近衛と立会人を設ける事。牢屋の扉越しでの面会ならば許そう」
「ありがとうございます!」
尻切れトンボでおしまい。
小ネタと言うか没ネタと言うか…本編に入れられなかった部分です。なので中途半端でごめんなさい。あと、王とジオルドだけの会話になってますが、王妃もこの場にいますよ。
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