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2、メルシアとモナ
しおりを挟むそもそも元婚約者であるメルシアでは愛する気持ちになれなかった。幼い頃からの婚約者で同い年ではあったが、面白みのないつまらない女としか思えない。メルシアは金の髪に青い目をした貴族女ならどこにでもいるような色をしているし、他の貴族女と同じドレスと髪型をさせれば私には見分けがつかないだろう。
顔立ちは美人と評判のようだが、笑顔は陶器の人形のような作りモノ染みていて、私から言わせれば薄気味悪いだけだ。性格は悪くはないが、やはりつまらないの一言だ。会えば国とはああで王とはこういうもので、他国ではどうとかあの貴族の領地はそうだのなどなど、勝手によく分からん話を聞かされる。婚約していた間のお茶会お茶会の時間は苦痛だったので、よくすっぽかしていた。
その反面、モナは何もかも素晴らしかった。出会いは学園の中庭。風に飛ばされたモナのハンカチを私が渡して、ハンカチにあった獅子の刺繍が素晴らしいと褒めたら、照れもあるのか頬を染めつつ花のような笑顔になり、自分で刺繍したものだと教えてくれた。
彼女の笑顔に見とれその場で別れるのが惜しくなり、近くのベンチで座って話している間中、私は胸の高鳴りを感じていた。夜空のような艶やかな黒髪と、光加減で金色に見える宝石のような琥珀色の瞳持つモナ。子爵家の生まれではあるが、母親が伯爵家出身であったことで貴族としての教育も受けていたらしく姿勢も良い。
会話の内容は彼女が鉢植えで育てている観葉植物の様子など、モナにとって身近な事が中心だったが、モナの話はどれも私には興味深い事ばかりだった。花を育てるのには時間も手間も必要なのだと初めて知ったし、モナとなら一緒に育ててみたいと思えた。その後も心踊る交流を続けている内に距離は近くなり、私はモナを愛している事を自覚し、愛の無いメルシアを捨てる事を決意するのは早かった。
メルシアとの結婚式をそのままモナとの結婚式に変更するだけなので、モナとは婚約期間が無い。王妃としての必要な教育というのも、結婚してからの話となっていて、式までの二か月間はモナとの蜜月となった。さすがに接触はキス止まりではあるが、愛する人と一緒に居る、それだけで満たされていた。
そして、今日、モナは私だけの妻となる。側近の言葉を聞き流し、時間が来た。ようやく愛する人と会える。待つだけの時間はとても長く感じたが、会ってしまえばそんな不満はどこかへ消え去った。
――花嫁姿のモナは、言葉に出来ないほど美しく輝いていた。
ベールの向こうでほほ笑むモナを見て、私は自分の選択は間違っていなかったと確信した。彼女の可憐な笑顔が傍にあれば、私は何でも出来る。王家の結婚式はひたすら長く面倒な儀式もあってさすがに疲れ切ってしまったが、本当に最高の一日だった。
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