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後編
しおりを挟むお久しぶりですわね。…こうして貴方と面と向かって対話するのは二年ぶりになりますでしょうか。最期の面会人に私を選ぶとは思ってもいませんでしたので、私への申請があった時に驚きましたわ。貴方の恋人であるあの娘でなくて本当によろしかったのですか? この二年の間に何度か面会されていたと聞いておりますが…あ、あら、そうでしたか。フラれてしまわれたのですね…。
…貴方を愛している人がもう私だけだと…それが、私を最後の面会人として選ばれた理由ですか。
違いますわ。
明日には毒杯が賜れるそうですが、これだけは最期の時まで覚えておいて下さいませ。陛下は、間違いなく貴方の母を愛されておりました。もちろん、その子である貴方のことも。例え、ご自身の実の子でなくとも、母の面差しそっくりな貴方を王家にその名を残そうとなさるくらいには、深く愛されておられたのです。
…やはりご存じありませんでしたか。重要な国家機密に当たりますので貴方に伝える事はなかったのでしょうね。はっきり申し上げますと、陛下には子種がありません。若い頃、遠征に行かれた際にかかった熱病によって失われたそうです。それでも当時の情勢では私の母が女王となるには不安があり大変難しく、この国の王となれる方は今の陛下しかおられなかった。王妃様は子が出来なくともそれでも良いと、陛下を公私ともに支えられました。病魔に倒れられるまでずっと。王妃様を亡くされ深く落ち込まれた陛下のその心を慰めようと、王妃様とよく似ておられる高級娼婦であった貴方の母を見つけ出し、陛下の愛妾として召し抱えると決めたのは我が父です。ただ実際に城に連れられた時には、すでに妊娠されておられたそうですわ。そう、それが貴方です。それでもかまわないと、陛下はおっしゃりそのまま愛妾として貴方の母は召し抱えられました。
貴方の母は愛妾である為に公の場には出られませんが、陛下を献身的に支えておられます。きっかけは亡き王妃様に似ている事であっても、陛下が貴方の母を深く愛されるようになられるのは充分な理由です。
貴方は、ご両親に心から愛されていた。それだけは覚えておいて下さいませね。
私ですか? …私は女王となると生まれた時から定められておりました。国とそこに住まう民を一番に想い愛する者こそ、王なのです。ですので、私が一番に愛しているのはこの国そのモノですのよ。
…貴方は公的には陛下の子として認知されておられましたが、実のところ誰の子であるかも定かではない者。ただ父の調べで、貴方の母が侯爵家の出身で在られた亡き王妃様の遠い親族であることは分かっておりましたので、陛下の強い願いもあって私の王配として選ばれました。…それでも、私に拒否権はありましたのよ。最終的に貴方を選んだのも受け入れたのも、私の意志。私にとって愛する存在は、一番は国と民。二番は王となる替え無き我が身。…そして三番目に、王配となる貴方が在るはずでした。
皮肉なことに、将来の女王ではなく、私を『私』として見てくれていたのは貴方だけでしたのよ。初恋は実らぬモノと聞きますが本当の事でしたわね…こんな事となって、残念ですわ。
…そのように後悔されても時は戻りませんし、このような結果になる前に貴方に仕えていた方々も何度も忠告なさっていたでしょうに。それらを拒否し、婚約破棄と正妃の事を言い出したのは貴方ご自身が選んだことです。
私は前を向き、進みますわ。女王としてこの国を導き、次代の王を産まねばなりませんもの。新たな王配候補と共にこの国を繁栄させてゆきます。ええ、今よりもさらに発展させて見せましょう。どうぞ、その様子を天の国から見届けて下さいませ。
…さようなら。
【完】
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