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前編
しおりを挟むあら、珍しいですわね。王宮内にある私の私室まで来られるなんて、何かございましたか。
……私との婚約を破棄されたいと? 急なお話ですわね。その理由をお尋ねしても?
最近、よく伴っておられるあの平民の娘を愛妾ではなく、正妃にしたいと…。婚約の解消ではなく破棄であるのも、あの娘の為ですのね。
しかし、それは出来かねると思いますが。いえ、嫉妬ではなく事実として。
そもそもご自身の立場を理解なさっておられますの? あら、理解なさっておられたら、このような話にはなりえませんわね…。そもそも王位継承権をお持ちでない貴方がどうして、王となれるとお思いなのか…。
何をおっしゃっておりますの? 確かに貴方は『陛下の子』として認められておりますが、貴方は陛下の愛妾がお産みになられた子ですのよ。我が国の法では、正妃、または側妃の子であれば王位継承権は確固たる権利として得られますが、愛妾が産んだ子には王位継承権は与えられません。
ええ、当然、貴方には王位継承権はありませんわね。
ですので、陛下の子として認知されている者は貴方以外おりませんが、王になる権利は貴方にはないのです。貴方にあった権利は、正式な王位継承権を持つ私との婚約で王配となる権利です。王配と王は異なり、王を公私ともに支える立場であり、決して王にはなれません。
陛下の妹である母を持ち、歴史ある公爵家の娘として生まれた私が女王として、この国の王となりますもの。王配であれば、女王となる私の許可の元のみ愛妾を持つことは出来ますが、正妃は勿論のこと側妃などありえません。もちろん、あの娘が正妃になるなんて、あり得ませんわね。
――この私が居る限り。
あらあら、近衛騎士が貴方を捕らえるのは当然でしょう? 国家反逆の意あり、として見られているのですから。ただの婚約解消であればこうはならなかったのですが、貴方の恋人を正妃にしたいと望まれては、ねぇ…。次期女王となる私を排除する、ということは、国に対しての反逆と同じ事でしょう?
今更そこまでの意図はなかったと申されましても、以前から高位貴族らに貴方の恋人を養子縁組させて、正式に王宮に入れようとする貴方の動きは全て報告されておりましてよ? どなたにも相手にされておられなかったようですけれど、当然ですわね。愛妾は愛妾以外の身分はありませんし、何の特権も権限も与えられません。身内となる方も同様です。むしろ、愛妾となられた方の親族は、周囲に厳しい目で見られ苦労することの方が多いそうです。中には愛妾となった者と縁を切る事もあるとか。
…え、何故と問われましても、これはわが国の歴史として必ず学ぶことですのに…。周囲の目が厳しくなるのも致し方ないことなのです。かつて王を堕落させた愛妾とその親族が、この国を乱した歴史がございますもの。愛妾制度は王の精神的な支えとなる事が求められておりますので、王の健常な精神を護る為に廃止となる事はありませんでした。しかしそれ以降の愛妾となられる方は特権も権限も与えられない事が国の法により定められました。それだけでなく、その親族が貴族であった場合は一定の期間、王の治世から遠ざけられ国の政に関わる事を禁じられているのです。愛妾となる方が平民でも受け入れられる理由の一つには、こういった国の背景があるからですわ。貴族として生まれた者であれば基本的に愛妾となる事を避ける傾向がありますので、愛妾となる事を望まれる方は平民かそれに近い下位貴族ぐらいですもの。
ええ、陛下の愛妾で在られる貴方の母も生まれは平民ですわね。愛妾の子は親の身分と同一になりますので、必然的に貴方も平民となります。しかし、貴方は『国王陛下の子』として認知されており、また女王となる私の王配候補でしたので、特別な立場となっておりました。…ですが、それも本日の件で全て失われることでしょう。
さぁ、連れて行きなさい。
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