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1、アデル・アクアマリン侯爵令嬢の状況
しおりを挟む私の名はアデル・アクアマリン。ジェーラルド王国のアクアマリン侯爵家の一人娘です。身分は高いですが、私としては母譲りの淡い金の髪と父譲りの空色の目が自慢で、未だに締め付けてくるコルセットを好きになれないどこにでもいる普通の貴族令嬢ですわ。そんな私の状況について少しばかり聞いて下さいな。
高位貴族は血筋を何より尊びますので、次代の為に婿入りを前提とした婚約者が、私が十になる前に決まり、国中の貴族の子らが通う王立学園卒業後にその相手と婚姻する予定でした。婚約者の名は、ギャビン・サンドラン。私と同じ歳でありサンドラン公爵家の三男で、一つ年上の王太子の側近候補です。身分としては充分に釣り合いますし、幼き頃から婚約者として共に切磋琢磨して参りましたので、互いに恋愛感情はなくとも何も問題なくこのまま結婚する……そう思っていたのですが、王立学園に通い最終学年である三年生に上がった頃、問題が起きてしまったのです。同じ王立学園に通う二年生のとある令嬢とかなり親密な関係であると、婚約者であるギャビンの噂が流れて来たのです。
確かに、私が一年だった頃よりはギャビンと会える時間が格段に減っておりました。同じ王立学園に通っているとは言え、二年生から選んだ科目によって授業時間等が変わる王立学園独自の制度によって淑女科に属する私と経済科に属するギャビンとは中々空いた時間が重ならない様子で、お茶会などに誘っても何だかんだと理由を付けてお断りされていたのです。…今思えば露骨に怪しいですわね。それでもあの真面目な性格のギャビンが噂通りの事をしているかと思えず、所詮は噂である、と最初は信じておりませんでした。恋愛感情はなくとも信頼はありましたから、ギャビンはそんな不誠実な事はしないと思っていたのです。とは言え、これ以上噂が真実のように語られるのは婚約者の立場的にまずいと判断した私は信用出来る友人達に頼み、噂に流されない第三者からの視点で事実確認をする事にしたのです。…その結果は、残念ながらその噂は、まぎれもない真実でした。多少の誇張はあれども、隠すつもりもないのか目撃者も逢引の証拠もあり、空いた時間のほとんどを婚約者である私ではなくその令嬢の為に使っていたとなれば、私はギャビンをフォローする気も起きず、報告を聞きながら胸の内でため息をつくしかありませんでした。
もちろん、その後にギャビン自身にも確認いたしました。学園に通う間のただの遊びでならそれで良かったのです。ですが、ギャビンは本気でした。本気でその令嬢と愛を育みたいと願い、私との結婚後、彼女を愛人として傍に置くと宣言されたのです。
私はそれからすぐに実家に連絡しました。私の両親は私の連絡を受けてそのまま行動に移ったようで、両家の親を伴う婚約に関しての話し合いの場を改めて設けて下さいました。当然ですが学園内で話し合う内容ではありませんので、王立学園に近かったアクアマリン侯爵家のタウンハウスが話し合いの場となりました。私は事前に学園に休みの許可を取り、タウンハウスで合流した両親と共に相手方を待っていると、サンドラン公爵家当主夫妻が先に到着されました。ギャビンは学園から直接こちらに向かうとの事でしたが、何と時間に遅れただけでなく、例の令嬢を伴って来ましたので驚きましたわ。当然、その令嬢だけをすぐに追い出しました。今回の話し合いはアクアマリン侯爵家とサンドラン公爵家の婚約に関わる大事な話し合いですもの、ギャビンの恋人で会っても部外者であるその令嬢が同席出来るはずもありません。ギャビンはご両親に窘められて不満であっても納得せざるえなくなり、その令嬢は王立学園の女子寮まで我が家の従者に送り届けられることになりました。こうしてようやく話し合いが始められることになりました。…これが、今までの私の状況です。これから始まるこの重大な話し合いの結果次第で、私とギャビンの未来が大きく変わるでしょう。
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