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中編

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「…そういうことなの。貴方がそれで納得しているなら、私達が怒るのは筋違いになってしまうわね」


「まぁ~、元婚約者に未練がなくて気にならないなら、それでいいんじゃないかしら~」


「二人とも、ありがとう」



 招きに応じてくれた彼女達とのお茶会では貴族の令嬢らしい流行りのお菓子やドレスなどの話題が上がりましたが、やはり彼女達が気になっていたのは私の婚約破棄の件でした。正式には『解消』ですが、誕生日パーティーの婚約破棄宣言が印象深いようで、社交界で流れる情報では『婚約破棄』となっているようです。ころころ変わる話題が途切れた頃合いに、意を決したような侯爵令嬢が事情を尋ねて来られたので、こちらの事情を正確に伝えましたところ先程の言葉を貰いました。どんな理由であれ『婚約破棄』された場合は、貴族として不名誉ですものね。私の代わりに怒って下さる優しい心を持つ彼女達は大変得難い友人だと常々思っておりますの。



「でも、あの伯爵令息から言い出すなんて…噂では貴方と婚約している事を自慢気に周囲に言いふらしていたそうだけれど」


「私もその噂を聞きましたわ~。自慢された周囲の殿方も美人の奥様で妬ましい~とか騒いでいたそうですわ~」



 侯爵令嬢の言葉に子爵令嬢が大きく頷きます。私は噂話には疎い方なので彼女達からの情報はとても助かっているのです。



「まぁ、そんな噂がありましたの? ちっとも知りませんでしたわ。ですが、私より美しい方はたくさんいらっしゃいますし、きっとデマカセですわよ」


「ええ~? そうかしら~?」


「美の基準はそれぞれですし、貴方がそう思うならそれでもいいですけれど、私の目から見ても貴方は美人である事は間違いないのだから、もっと自信を持ちなさい」



 彼女の家柄もありますが、妥協を良しとしない厳しい審美眼を持つ友人に褒められると少し照れてしまいますね。




「ところで…貴方の義妹さんって、でしたわよね?」


「ええ。私と両親は人属のエルフ族ですが、あの子は魔属の中でも珍しいミミック族ですわ」



 昔、義妹の両親が不慮の事故により亡くなられた為、友人であった両親が一人遺されたあの子を引き取る事に決めたのです。私も妹が欲しかったので大喜びで受け入れましたわ。



「まぁ、そうでしたの? 人属は『頭が一つ、胴体が一つ、手足が各一対ある姿を持つ者』を指しますが、魔属はそれ以外の独特な姿をしていらっしゃる方を指すでしょう? 勝手に人属の種族だと思っていましたわ」 


「私もですわ~。同じ魔属でもミミック族の方は人属に姿形が近いのでしょうか~?」



 人属で立派な二本の角を持つ侯爵令嬢と魔属で瞳孔が縦に割れた瞳を持つ子爵令嬢。姿形の違いについて身をもって知っておられるこのお二人が疑問に思うのも最もですわね。



「ミミック族は『本来の姿を実の親と伴侶となる相手以外に見せてはいけない』という一族固有の掟があるそうで、私も義妹の本来の姿を見たことはありませんの。ですので普段は私の姿に擬態して生活しておりましたから、共に暮らすことに何の問題もありませんでしたし、気にする事もありませんでしたわ」


「なるほど…同じ魔属のスライム族の方々のように、ミミック族の方も擬態能力をお持ちなのね」


「はい。ただミミック族はどれだけオリジナルに似せる事が出来るのかが、とりわけ大事なようで…何でも細部まで似せる事が擬態の元となったオリジナルに対しての愛の証なんですって。我が家に来てから私の姿に擬態したあの子を見て、私、とても感動して泣いてしまって…何故か義妹も泣きだして二人揃って両親を困らせてしまった事がありますわ」


「貴方達、姉妹として本当に仲が良いのねぇ…」


「私の可愛い自慢の義妹ですもの! …ただその擬態が私に似せ過ぎた為に、私に間違われて義妹が誘拐されかけてしまった事があって。義妹の安全の為にも外出時や人と会う時だけ、瞳の色を少し変えてもらう事に納得してもらうまで、説得に数年かかりましたわ…」



 家族間や我が家に長く仕えている人属のブラウニー族である使用人達は、私と義妹との見分けがついていましたが、他の方々には同じに見えていた結果、起きてしまった悲劇ですの。



「納得してもらってからは、義妹の瞳の色を私と同じ青から薄めの水色に変えてもらいましたの。髪の色は私と同じ金髪ですし、水色の瞳も違和感なく義妹に似合っておりましたでしょう?」


「ええそうね~、外見は美人で名高いエルフ族の貴方とそっくりでしたし~、水色に瞳の色を変えても似合わないはずがありませんわ~」



 美意識の高い子爵令嬢に太鼓判を押され、私としては大満足ですわ。


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