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降魔の一刀
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「つまらぬだと」
七郎は感情をこめない様子で言った。
彼の第六感は、夜の中に蠢くもう一人の気配を察していた。
「そうさ物騒な刃物振り回して…… そんな事より楽しい事ないのかい」
蜘蛛女は饒舌だ。七郎を会話に引き込もうとしている。隙を作って仲間に攻撃させるためだ。
「女は嫌いかい? あたしは男は嫌いじゃないんだけどね」
「俺も嫌いではない。だが女は苦手だ」
七郎は般若面の奥で隻眼を閉じた。
周囲は夜の闇だ、ましてや何処かに伏兵が潜んでいる。七郎のした事は自殺行為ではないか。
しかし、そうではなかった。幼い頃の兵法修行で右目を失った七郎の感覚は、常人を越えている。
七郎は夜空にかかる蜘蛛の巣上の蜘蛛女とは別の、闇に蠢く敵の気配を察知していた。
聴覚、触覚、嗅覚が敵を察知し、潜んでいる位置まで立体的に捉えたのだ。
失った右目にはるかに勝るものを七郎は得ていた。
敵は七郎の背後、庭木の陰に潜んでいた。
「ふつ」
短い吐息と共に七郎は背後に素早く振り返る。振り返りながら脇差しを抜き、庭木の陰から姿を現した敵に向かって投げつけた。
投げた次の瞬間には駆け出している。七郎が立っていた場所へは、蜘蛛女が吹きつけてきた糸が降り注いでいた。七郎が一秒でも遅れれば、蜘蛛女の糸に絡め取られていただろう。
脇差しが伏兵の胸に突き刺さる。それは鱗に覆われた人型の蛇――
蛇女だった。蛇女の胸には七郎の脇差しが突き刺さっていた。
七郎は無言で蛇女に踏みこみ、三池典太を振り上げ、打ち下ろした。
月光に反射して輝く三池典太の刃は、蛇女の額から股まで一直線に斬り裂いていた。
蛇女の体が左右に別れて、内裏の庭に倒れる。
七郎の凄絶な降魔の一刀だ。
七郎は感情をこめない様子で言った。
彼の第六感は、夜の中に蠢くもう一人の気配を察していた。
「そうさ物騒な刃物振り回して…… そんな事より楽しい事ないのかい」
蜘蛛女は饒舌だ。七郎を会話に引き込もうとしている。隙を作って仲間に攻撃させるためだ。
「女は嫌いかい? あたしは男は嫌いじゃないんだけどね」
「俺も嫌いではない。だが女は苦手だ」
七郎は般若面の奥で隻眼を閉じた。
周囲は夜の闇だ、ましてや何処かに伏兵が潜んでいる。七郎のした事は自殺行為ではないか。
しかし、そうではなかった。幼い頃の兵法修行で右目を失った七郎の感覚は、常人を越えている。
七郎は夜空にかかる蜘蛛の巣上の蜘蛛女とは別の、闇に蠢く敵の気配を察知していた。
聴覚、触覚、嗅覚が敵を察知し、潜んでいる位置まで立体的に捉えたのだ。
失った右目にはるかに勝るものを七郎は得ていた。
敵は七郎の背後、庭木の陰に潜んでいた。
「ふつ」
短い吐息と共に七郎は背後に素早く振り返る。振り返りながら脇差しを抜き、庭木の陰から姿を現した敵に向かって投げつけた。
投げた次の瞬間には駆け出している。七郎が立っていた場所へは、蜘蛛女が吹きつけてきた糸が降り注いでいた。七郎が一秒でも遅れれば、蜘蛛女の糸に絡め取られていただろう。
脇差しが伏兵の胸に突き刺さる。それは鱗に覆われた人型の蛇――
蛇女だった。蛇女の胸には七郎の脇差しが突き刺さっていた。
七郎は無言で蛇女に踏みこみ、三池典太を振り上げ、打ち下ろした。
月光に反射して輝く三池典太の刃は、蛇女の額から股まで一直線に斬り裂いていた。
蛇女の体が左右に別れて、内裏の庭に倒れる。
七郎の凄絶な降魔の一刀だ。
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