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番外編 ミラン殿下の幸福

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「そんなに見つめられていると、さすがに落ち着かないな」
ミラン殿下は、珍しくとまどっていた。
殿下は今日も婚約者のセレナに会いに、ソンタラー公爵家にやって来ていた。
「ミラン様。早く変身してみてください」
セレナは、まだ、狼になったミラン殿下を見たことがないため、変身してみてほしいとねだった。

ミラン殿下としては、可愛い番の言うことを聞かないなんて選択肢はない。死ねと言われたら死ぬくらいに盲目だ。
けれども、じっと見つめられながら、変身するのはだいぶ恥ずかしい。
それでも、番のためなら、何でもする。
「わっ。すごい。ミラン様!なんてきれいな毛並。銀色!うわー!!」
セレナは大興奮だった。ふかふかの毛並にひかれて、相手が殿下だと忘れて、撫でまくった。

セレナは13歳になった。栄養不足の時が嘘のように、少女らしい丸みのある、美しい娘に育った。ミラン殿下がいなければ、婚約の申し込みが山のように来ただろう。
殿下は、自分は幸運だったと思った。
出会うのが遅ければ、セレナには他に婚約者ができてしまっていただろう。

殿下のように完全な獣に変身できる獣人はとても少なかった。セレナに撫でまくられているミラン殿下は困った。うれしいけれども、獣でいるときの方が理性が減るのだ。
このままだと、セレナに抱きついて押し倒してしまいそうだ。
「ミラン様。後ろ足に怪我をされてます」
セレナがそう言うと、光が現れすぐ消えた。治癒魔法だ。

セレナはすっかり治癒魔法を使いこなせるようになった。最上級の魔法も使える。聖女に選ばれたら、ミラン殿下の婚約者として誰にも文句は言わせない。
けれど少しの間でも離れているのがつらいのに、セレナが神殿に連れて行かれたら、自分はどうするだろう。

「狼のままなら、そばにいられるかな。聖獣のフリをすれば」
ミラン殿下はどんどん妄想が膨らんでいった。
「ミラン様。どうしたの?」
「いや、私は幸せだと思って」
「そうなの?私と同じだね」
ミラン殿下は、泣きそうなほど、うれしかった。
こうやって、セレナはミラン殿下を何度目かわからない恋に落とすのだった。
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