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2週間もすると、ティア夫人はすっかり元気になっていた。エディナのリアは猫の耳としっぽを出していたが、夫人は気にならないらしい。
「やっぱりまだ調子悪いのかな」
2週間めいっぱい可愛いがられたエディナは、今までも任務のために潜入して、いろいろ化けたけど、こんなに優しい人は初めてだなと思った。
この任務に与えられた期限は3か月。
そろそろ動き出す必要がある。
次は公爵をターゲットにする。

「お父様、エディナです。お部屋に入ってもいいですか?」
ノックをして、返事を待つ。
「もちろんかまわないよ、おいで」
公爵は目立たないが、実はもう全力でエディナことリアを可愛いがっていた。
いずれ夫人が用意したくなるだろう服や宝飾品の店にはだいたい予約を入れてあるし、今夜はお祝いの食事に高級レストランを予約してある。
「お父様は、何を勉強してるのですか?」
リアの問いに、貿易担当大臣である公爵は、簡単に説明してくれた。
No.115の任務はそこにある。

レストランでの食事は楽しいものであった。公爵と夫人は政略結婚だったが、仲良く暮らしていた。今は留学している長男にはエディナのことは告げていない。
それが少し気にかかるが、ティア夫人の顔色を見ると間違っていなかったと思えた。
レストランでの時間は、家族の大事な時間になった。
「あら、リア、ソースがついてるわ」
夫人がそっと、拭ってくれる。
唐突にNo.115は泣きたくなった。

この任務は、もう続けられない。
そう思った。
今までの潜入調査とはちがった。
No.115は死にたくはなかった。
だが、この優しい人たちを傷つけたくなかった。
翌日の朝、
「おはよう、リア」
ティア夫人がリアの部屋に入ると、
机の上に手紙があった。

そこには、
ありがとう、さようなら

とだけ書いてあった。

No.115、彼女の生死は誰も知らない。

おわり

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