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第二話

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「アンチベッタ、あんたがいじめられるのは、それだけじゃないよ。あんたが心底絶望したことがないからだよ」
トオゥールは続けて言った。娼館にはたくさんの絶望が転がっている。アンチベッタはお腹が空いたらつらいというが、それはお姉さんたちが味わっている絶望とはまったく重さがちがうのだ。アンチベッタに言ってもわからないのは承知でトオゥールは話を続けた。
「だって、綺麗な服を着てニコニコしてるじゃない、お姉さんたち」
「アンチベッタ、それは表面だけのことなんだよ」
「よくわからないよ」
そうだ、アンチベッタは昔から空気を読む、とか他人のことを思うのが下手なのだ。

黒髪に金眼のアンチベッタは、醜いと言われてきたが、それは少しちがう。金眼の人間など、この国では他にいないのだ。だから、みんな不気味なものだ、化け物みたいだと感じていた。そして、拙い言葉が加わって、アンチベッタに優しくする人はいない。トオゥールがいなかったら、餓死一直線だっただろう。そのこともアンチベッタは理解していない。トオゥールに感謝してないわけではないのだが、命の恩人だとは思ってもみなかった。

「あぁ、お腹空いたな」
夏のある日のことだった。売れっ子のトオゥールは客に連れ出され、2週間の旅行に行った。娼館では基本的に娼婦を館から出すことには応じないのだが、トオゥールには上客が多く、ましてや今度の相手は伯爵家の嫡男。断ることなどできなかった。トオゥールには中年や初老の高貴な貴族の客もいるが、若い客も多かった。金髪に碧眼の容姿や優しい性格が客の評判で、客同士が喧嘩になってしまうこともある。それをやんわりおさめるのも、トオゥールはうまい。

そんなわけで、相変わらずいじめられているアンチベッタは2週間食事の危機にあった。優しいトオゥールが困った時用に食料品を渡してくれていたのだが、お姉さんに見つかって取り上げられた。罰として3日間食事抜きとされた。
「さっさと働きな」
労働は減らず、食事はもしかしたら、2週間なし。アンチベッタは命の危機を感じた。そして、娼婦ではない自分が娼館の門から出ても、誰にも止められないことを利用して、逃げ出すことにした。持ち物は何もない。自分が生まれた証にと名前が入ったロケットさえ取り上げられて、売られてしまったから。
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