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第七話

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信じられないことが起きた。
誰にとっても。
竜国とハイル国との友好記念パーティー。
ハイル国第三王女と竜国第二王子の婚約披露パーティー。
そのど真ん中で、冷たい顔しか見たことがない竜王が人目もはばからず、泣いていた。
その手にはルイーザの手がある。

「あぁ、私の唯一の君。まさか竜ではなくなっていたとは」
整った顔立ちの中に勇ましさが隠せない竜王が、泣きに泣いていた。
竜王には獣人特有の番というものがいるのだが、すでに番は王妃として、子も何人かいた。
竜は成長がゆっくりだから、もうすぐ30になる王もだいぶ若く見えていたが、
今は子どものようだった。

ルイーザは次々と起こる事態について行けず、ノエル侯爵の方を向いてみた。見事に思考ごと固まっていた。
これはもしも、竜王に求められたら、断れないのでは、とルイーザは危機を覚えた。
「番の王妃さまが‥」
なんとか口に出してみたが、
「マリマは番に間違いない。だが、ルイーザ、あなたは私の永遠なのだ。あなたが何度か生まれ変わっている間に、私の最初の番だった。この魂の香は間違いがない」

ルイーザはさらに困った。番が何人もいたらおかしいでしょ、とは思ったが、
泣いている竜王は本当にルイーザを思っていると感じた。今まで結婚を望んでくれた誰よりも、竜王が本当で切実なようだった。
「ルイーザ、帰らないでくれ。ずっとずっと一緒にいてほしい」
番の君やその子どもたち、ハイル国の平和条約締結団、ノエルの前で竜王は願う。
命令ではなかった。
命令なら、誰も逆らえない。竜国は世界の頂点に立つ国だ。その王様がどんなに強く賢く偉いのか。誰も言わなくてもわかっている。

ノエルは、竜王と争う気はなかった。ルイーザには申し訳ないが、竜王の寵姫になるのはハイル国のためになる。
ノエルの愛情は自分勝手なものだった。トマスなら、たとえ竜王が相手でも、戦っただろう。
ルイーザは、なんだか竜王がかわいそうで、そばにいることを了承した。
ルイーザは愛情を育てる前に次々と相手が変わったため、恋愛感情に鈍くなっていた。

竜王のそばにいれば、いろいろややこしいことに巻き込まれそうだ。
けれど、あれほど自分を求める人は他にいないだろう。
こうなったら、ルイーザはここで頑張ってみようと決めた。


その美しさであまたの問題を解決したという妃・ルイーザの名前が竜国の歴史に刻まれ、後世まで語られた。
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