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第六話
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「ノエルのお姉様にもお礼を言いたいのですぅ」
ミーナはニコニコとノエルに甘える。
「あぁ、ちょうど邸にいるから、聞いてこよう」
ノエルはすっかりミーナの言いなりだ。普段は今まで通りだが、ミーナの前だけでは、まるで別人のようだった。
ノエルには姉が1人いる。ノエルの一つ上で、王太子の婚約者筆頭候補と言われている。
「そうか」
使用人と少し話したノエルは、ミーナに告げた。
「姉上の部屋に行ってもかまわないそうだ。一緒に行こう」
エスコートの手を差し出すノエルにミーナは従った。
「姉上、ノエルです」
「入って」
そこにいたのは、女神もかくやという美女だった。ノエルの姉、シファリア・ガラナは、容姿も性格も美しい人で、王太子もひそかにシファリアに想いを寄せているというのが王国の常識だった。
ノエルはその姉によく似ていて、白銀の髪、紫色の神秘的な見た目をしている。
シファリアはノエルの一つ上で、ノエルとミーナはクラスがちがうが、同い年だ。ふたりとも16歳。王太子は19歳で、本来なら婚約者がいて当然なのだが、3年前の帝国との戦争が原因で決定には到っていなかった。王国は戦争に負けた。そもそも帝国の方がずっと国力が上で、戦争したのは無謀としかいいようがなかった。そのため、王太子の婚約者は帝国の思惑に従うことになると考えられ、決めることができないままだった。3年前の戦争で、王国は滅ぶ寸前だったのだ。だが、帝国は王国の自治権を認めた。そろそろ王太子の婚約者も決めてよいのではないかと高位貴族たちは色めいている。帝国の属国になったとはいえ、王太子妃の父になるのは、高位貴族の夢だった。
「まぁ、あなたがノエルの大事な人ね。なんて可憐な方なのかしら」
シファリアは声も美しい。どんな楽器にも出せない響き。声だけを聞いて感動で泣き出す人さえいるほどだ。彼女ほど王太子妃ひいては王妃にふさわしい女性はいないと言われている。
「ノエルはぁ、大事なお友達ですぅ。シファリア様もお友達になってくれますかぁ?」
シファリアがただの公爵令嬢なら、この無礼な男爵令嬢を許はしなかっただろう。ミーナのいつも通りの態度にノエルも少し慌てて、助け船を出す。
「すまない、姉上。ミーナはいつもこうなんだ」
「かまわないわ。私も、ミーナと呼んでいいかしら?」
「もちろんですぅ。ミーナは光栄に思いますぅ」
王国で10本の指に入る高貴な女性にただの男爵令嬢が話しかけた。これは大きな事件だった。
ミーナはニコニコとノエルに甘える。
「あぁ、ちょうど邸にいるから、聞いてこよう」
ノエルはすっかりミーナの言いなりだ。普段は今まで通りだが、ミーナの前だけでは、まるで別人のようだった。
ノエルには姉が1人いる。ノエルの一つ上で、王太子の婚約者筆頭候補と言われている。
「そうか」
使用人と少し話したノエルは、ミーナに告げた。
「姉上の部屋に行ってもかまわないそうだ。一緒に行こう」
エスコートの手を差し出すノエルにミーナは従った。
「姉上、ノエルです」
「入って」
そこにいたのは、女神もかくやという美女だった。ノエルの姉、シファリア・ガラナは、容姿も性格も美しい人で、王太子もひそかにシファリアに想いを寄せているというのが王国の常識だった。
ノエルはその姉によく似ていて、白銀の髪、紫色の神秘的な見た目をしている。
シファリアはノエルの一つ上で、ノエルとミーナはクラスがちがうが、同い年だ。ふたりとも16歳。王太子は19歳で、本来なら婚約者がいて当然なのだが、3年前の帝国との戦争が原因で決定には到っていなかった。王国は戦争に負けた。そもそも帝国の方がずっと国力が上で、戦争したのは無謀としかいいようがなかった。そのため、王太子の婚約者は帝国の思惑に従うことになると考えられ、決めることができないままだった。3年前の戦争で、王国は滅ぶ寸前だったのだ。だが、帝国は王国の自治権を認めた。そろそろ王太子の婚約者も決めてよいのではないかと高位貴族たちは色めいている。帝国の属国になったとはいえ、王太子妃の父になるのは、高位貴族の夢だった。
「まぁ、あなたがノエルの大事な人ね。なんて可憐な方なのかしら」
シファリアは声も美しい。どんな楽器にも出せない響き。声だけを聞いて感動で泣き出す人さえいるほどだ。彼女ほど王太子妃ひいては王妃にふさわしい女性はいないと言われている。
「ノエルはぁ、大事なお友達ですぅ。シファリア様もお友達になってくれますかぁ?」
シファリアがただの公爵令嬢なら、この無礼な男爵令嬢を許はしなかっただろう。ミーナのいつも通りの態度にノエルも少し慌てて、助け船を出す。
「すまない、姉上。ミーナはいつもこうなんだ」
「かまわないわ。私も、ミーナと呼んでいいかしら?」
「もちろんですぅ。ミーナは光栄に思いますぅ」
王国で10本の指に入る高貴な女性にただの男爵令嬢が話しかけた。これは大きな事件だった。
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