【完結】いつだって貴方の幸せを祈っております

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第五話

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「ソンカ師も尊敬しているが、同時代のカラガン師にも興味があるんだ。ミーナはどうだ?」
「百年前の話はぁ、ミーナそこそこ知ってますぅ」
「ミーナのそこそこは、ほとんどだよな?ソンカ師について、俺より詳しいし」
「ハンナのおかげですぅ」
ノエルのあの無機質な目は今、キラキラ輝いている。ミーナはもともと得意分野だったのだが、こんな風に人に話すつもりはなかった。こうなったのは、たまたまだ。ミーナに古典文学のような戦略記に興味を持たせた人はもうこの世にいない。ミーナは一瞬目を閉じた。痛みが通り過ぎるまで。

「カラガン師も、ソンカ師と同時代で、剣や魔法での戦いではないからな。まさかソンカ師やカラガン師について話せる相手がいるなんて。それが女性だなんて、想像したこともなかった」
ノエルの瞳はまだキラキラしてる。それに少し熱が込もっている気がする。ここがチャンスだ、ミーナは一瞬のチャンスを逃すような間抜けではない。
「ノエル、ミーナはノエルのお屋敷の蔵書を見てお勉強してみたいですぅ」
「ああ、そうだな。ぜひおいで。家族に話は通しておくから。いつが都合がいいか?」
「いつでも大丈夫なのぉ」

「じゃあ、週末の休みに来たらいい」
「ミーナ、公爵家に入れるようなドレスがないので、さすがに今週は無理ですぅ」
「あぁ。わかった。それはこちらで用意する。今回だけは新作じゃなくて、姉上の昔のものを調整するのでもいいか?」
「そんな‥ノエル、ミーナはうれしいですぅ」
勢い余った感じで、抱きついてみる。ノエルは振り払わなかった。背中にノエルの手が回る。
チェックメイト、ミーナは暗く低い声でつぶやいた。そのつぶやきには、言葉や態度で示している喜びがどこにも見当たらなかった。

「わぁ、広ーい、さすがですぅ」
公爵家は男爵家がいくつ入るかわからないほど、広い。まあ爵位の差が激しく、当然なのだが、ミーナは大袈裟に驚いてみせた。ノエルはそのあたりはどうでもいいらしく、早く自慢の蔵書を見せたくて、うずうずしているのが丸わかりだ。
「ミーナ、ドレスも似合ってる」
珍しくそんな言葉も出てくる。ミーナの翡翠の瞳に合わせたドレスは、ノエルの姉のお下がりとは思えぬほど、ぴったりだった。
「ミーナはぁ、ノエルの瞳の色のドレスがほしいですぅ」
ノエルは本当に珍しく顔を真っ赤にした。
「次はそうしよう」

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