5 / 10
第五話
しおりを挟む
「ソンカ師も尊敬しているが、同時代のカラガン師にも興味があるんだ。ミーナはどうだ?」
「百年前の話はぁ、ミーナそこそこ知ってますぅ」
「ミーナのそこそこは、ほとんどだよな?ソンカ師について、俺より詳しいし」
「ハンナのおかげですぅ」
ノエルのあの無機質な目は今、キラキラ輝いている。ミーナはもともと得意分野だったのだが、こんな風に人に話すつもりはなかった。こうなったのは、たまたまだ。ミーナに古典文学のような戦略記に興味を持たせた人はもうこの世にいない。ミーナは一瞬目を閉じた。痛みが通り過ぎるまで。
「カラガン師も、ソンカ師と同時代で、剣や魔法での戦いではないからな。まさかソンカ師やカラガン師について話せる相手がいるなんて。それが女性だなんて、想像したこともなかった」
ノエルの瞳はまだキラキラしてる。それに少し熱が込もっている気がする。ここがチャンスだ、ミーナは一瞬のチャンスを逃すような間抜けではない。
「ノエル、ミーナはノエルのお屋敷の蔵書を見てお勉強してみたいですぅ」
「ああ、そうだな。ぜひおいで。家族に話は通しておくから。いつが都合がいいか?」
「いつでも大丈夫なのぉ」
「じゃあ、週末の休みに来たらいい」
「ミーナ、公爵家に入れるようなドレスがないので、さすがに今週は無理ですぅ」
「あぁ。わかった。それはこちらで用意する。今回だけは新作じゃなくて、姉上の昔のものを調整するのでもいいか?」
「そんな‥ノエル、ミーナはうれしいですぅ」
勢い余った感じで、抱きついてみる。ノエルは振り払わなかった。背中にノエルの手が回る。
チェックメイト、ミーナは暗く低い声でつぶやいた。そのつぶやきには、言葉や態度で示している喜びがどこにも見当たらなかった。
「わぁ、広ーい、さすがですぅ」
公爵家は男爵家がいくつ入るかわからないほど、広い。まあ爵位の差が激しく、当然なのだが、ミーナは大袈裟に驚いてみせた。ノエルはそのあたりはどうでもいいらしく、早く自慢の蔵書を見せたくて、うずうずしているのが丸わかりだ。
「ミーナ、ドレスも似合ってる」
珍しくそんな言葉も出てくる。ミーナの翡翠の瞳に合わせたドレスは、ノエルの姉のお下がりとは思えぬほど、ぴったりだった。
「ミーナはぁ、ノエルの瞳の色のドレスがほしいですぅ」
ノエルは本当に珍しく顔を真っ赤にした。
「次はそうしよう」
「百年前の話はぁ、ミーナそこそこ知ってますぅ」
「ミーナのそこそこは、ほとんどだよな?ソンカ師について、俺より詳しいし」
「ハンナのおかげですぅ」
ノエルのあの無機質な目は今、キラキラ輝いている。ミーナはもともと得意分野だったのだが、こんな風に人に話すつもりはなかった。こうなったのは、たまたまだ。ミーナに古典文学のような戦略記に興味を持たせた人はもうこの世にいない。ミーナは一瞬目を閉じた。痛みが通り過ぎるまで。
「カラガン師も、ソンカ師と同時代で、剣や魔法での戦いではないからな。まさかソンカ師やカラガン師について話せる相手がいるなんて。それが女性だなんて、想像したこともなかった」
ノエルの瞳はまだキラキラしてる。それに少し熱が込もっている気がする。ここがチャンスだ、ミーナは一瞬のチャンスを逃すような間抜けではない。
「ノエル、ミーナはノエルのお屋敷の蔵書を見てお勉強してみたいですぅ」
「ああ、そうだな。ぜひおいで。家族に話は通しておくから。いつが都合がいいか?」
「いつでも大丈夫なのぉ」
「じゃあ、週末の休みに来たらいい」
「ミーナ、公爵家に入れるようなドレスがないので、さすがに今週は無理ですぅ」
「あぁ。わかった。それはこちらで用意する。今回だけは新作じゃなくて、姉上の昔のものを調整するのでもいいか?」
「そんな‥ノエル、ミーナはうれしいですぅ」
勢い余った感じで、抱きついてみる。ノエルは振り払わなかった。背中にノエルの手が回る。
チェックメイト、ミーナは暗く低い声でつぶやいた。そのつぶやきには、言葉や態度で示している喜びがどこにも見当たらなかった。
「わぁ、広ーい、さすがですぅ」
公爵家は男爵家がいくつ入るかわからないほど、広い。まあ爵位の差が激しく、当然なのだが、ミーナは大袈裟に驚いてみせた。ノエルはそのあたりはどうでもいいらしく、早く自慢の蔵書を見せたくて、うずうずしているのが丸わかりだ。
「ミーナ、ドレスも似合ってる」
珍しくそんな言葉も出てくる。ミーナの翡翠の瞳に合わせたドレスは、ノエルの姉のお下がりとは思えぬほど、ぴったりだった。
「ミーナはぁ、ノエルの瞳の色のドレスがほしいですぅ」
ノエルは本当に珍しく顔を真っ赤にした。
「次はそうしよう」
3
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説

死に戻り王妃はふたりの婚約者に愛される。
豆狸
恋愛
形だけの王妃だった私が死に戻ったのは魔術学院の一学年だったころ。
なんのために戻ったの? あの未来はどうやったら変わっていくの?
どうして王太子殿下の婚約者だった私が、大公殿下の婚約者に変わったの?
なろう様でも公開中です。
・1/21タイトル変更しました。旧『死に戻り王妃とふたりの婚約者』


この誓いを違えぬと
豆狸
恋愛
「先ほどの誓いを取り消します。女神様に嘘はつけませんもの。私は愛せません。女神様に誓って、この命ある限りジェイク様を愛することはありません」
──私は、絶対にこの誓いを違えることはありません。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。
※7/18大公の過去を追加しました。長くて暗くて救いがありませんが、よろしければお読みください。
なろう様でも公開中です。

夜会の夜の赤い夢
豆狸
恋愛
……どうして? どうしてフリオ様はそこまで私を疎んでいるの? バスキス伯爵家の財産以外、私にはなにひとつ価値がないというの?
涙を堪えて立ち去ろうとした私の体は、だれかにぶつかって止まった。そこには、燃える炎のような赤い髪の──




ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる