【完結】いつだって貴方の幸せを祈っております

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第四話

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「そんな話は聞いたことがない。誰に嘘を教わった?」
「ソンカ師の残した軍略記ですぅ」
「なんだって?」
ソンカ師とは、百年前に活躍した軍師のひとりだ。ノエルも彼の書き残したものは目を通している。
「そんな記述はなかった」
「これですぅ」
ミーナは、古い紙片を差し出した。
ハンカチとはちがい、ノエルは紙片を受け取った。
「これは」
「ハンナというルームメイトは、カレジユ子爵のご令嬢でぇ、書庫に残ってた古書を借りて読んでますのぉ」
「カレジユだって?ソンカ師と関係の深い家系だ」
「はい。だから、これは本物の可能性が高いのですぅ」

「まさか、お前は古語が読めるのか?」
「読めなくて、軍略など語れますのぉ?」
ノエルは目を見開いた。その後はさっきまでの態度が嘘のように、熱心に語り出した。ノエルとミーナの話を他の面子もすぐそばに集まり、聞き入った。
「だから、そこを攻めたら、後ろから回られる」
「ちがいますのぉ。こうしたら、この角度から全ての兵力を投入するのですぅ」
ミーナの戦法は突飛に見えるが、しっかりとした素地の上で考え抜かれた老師の意見のようだった。ノエルは頬を紅潮させて、語り合った。ミーナを見る目が全然ちがう。現金なものね、まだまだ甘いわ。と、心の中で、ミーナはノエルの評価を下げた。この軍略は、あくまで古典の話で、現代の魔法と剣の世界にそのまま使える知識ではない。応用しないと意味がない。

「ミーナと呼んでいいか?君はここに出入りしていい。また語りたい」
「ノエル様と呼んでもよいですかぁ?」
「様はいらないな。ノエルと呼べ」
「ふふふ。ミーナ、うれしいですぅ」
ノエルはすっかりミーナと話す楽しさを覚えた。今まで、古典の軍略を思う存分話せる相手はいなかったのだ。すぐに現実に応用できないから、古語を学んでまで、ソンカ師を始めとする軍師について勉強する生徒は少ない。まともに話せたのはミーナが初めてだった。
「ノエル、ミーナはぁ、さっきのハンカチ受け取ってほしいですぅ」
「ああ。朝は悪かった。せっかく作ってくれたのに」
「いいんですぅ」
ハンカチは無事、ノエルに渡った。ハンナを悲しませなくて済む。

ノエルとの距離は一気に縮まった。放課後になると、ノエルはミーナの教室まで迎えに来る。そのままカフェに行ってたくさん語り合う。帰りは学生寮まで必ず送っている。ノエルとミーナの仲は一気に噂にもなった。
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