【完結】冷たい手の熱

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「アユ兄様、ありがとう。ごめんなさい」
「ユキノ、もう痛いところはないのか?」
穏やかな顔でベッドにいる妹の頭を撫でながら、アユルは、少しだけ追求してみる。
「うん。大丈夫だよ」
さきほど、ユキノ付きの侍女たちが、パン粥で昼食を取らせ、身だしなみも整えたからか、ユキノは落ち着いていた。
アユルの目におかしなところは映らなかった。
少しホッとしかけたところで、
ユキノが何気なく口にした。
「アユ兄様、人魚姫はもしかして、これからもずっと泡になってしまうの?」
ユキノは無表情だった。アユルは思った。
この回答に失敗したら、ユキノは永遠に心を閉ざしてしまう。

「ユキノ。物語の人魚姫はずっと泡になってしまう。でも、現実の人魚姫はちがうよ。いろいろなことを選択し、成長し、生きていくんだ。だから、泡にはならない。ユキノ。僕はユキノが大好きだ。ずっと一緒にいたい。家族はみんなそう思ってる。それに、ユキノはこれからたくさんの人と出会う。楽しみだね。サティもずっと一緒だしね」
ユキノの顔には表情が戻っていた。
緑色の瞳から大きな涙がこぼれていた。
「ありがとう、アユ兄様」

「いいとこ持ってかれましたわ」
サティがユキノの枕元にいて、ぷんぷんと怒っている。
「わたくし、ふきげん、ですわ」
「サティ、話し方が変よ」
「いつもと同じですわよ」
何を話しかけても、この調子で、ユキノは苦笑いしていた。
「サティはずっと一緒でしょ。だから、次になんかあったら、サティが助けてね」
にっこり笑ってみる。
「あら。幻獣まで誘惑されるなんて、並大抵じゃありませんわね」
「仕方ないから、次は助けて差し上げます」
「しかたがないわね、ユキノは」
サティの機嫌は治ったようだ。
ユキノは明るい気持ちだ。
ユキノの前にはもう開かない扉はないのだから。

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