【完結】冷たい手の熱

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アユルは5歳のユキノに変な真似をしたいとか、将来結婚したいとか、そういうのではないのだ。
おそらくユキノのそばが、アユルにとって1番幸せな場所なのだ。
すべての褒め言葉はユキノのために。
すべての愛しさはユキノへと。
アユルはユキノなしでは生きていけない。そういうことなのだ。
ユキノが結婚しても、近くにいてくれたら、とは思うものの、なかなか難しいだろう。

アユルは自分が結婚することができないことを両親に相談するつもりだ。
そして、努力を続け、少しでも魅力のある男になって、ユキノに見ていてほしい。
すぐそばにいられなくなっても。
兄妹でなければ?
兄妹でなければ、こんなにも愛しく思っただろうか?
結婚という形で一生一緒にいられただろうか?
考えても仕方ないことだが、アユルの頭にはそんな思いもよぎった。

ユキノは悩むアユルに気づかず、初めて見る海に夢中だった。
人魚姫は衝撃だったが、海岸にはいつかコルン兄様がプレゼントしてくれた可愛い貝殻があり、それを拾ったり、波打ち際で遊んだら、すっかりお腹が空いてしまった。
アユルにそう言おうとして、ユキノは固まった。
(言ってはいけない)
頭のどこかから、聞こえてきた声。
ユキノは頭痛がして、ふらふらと倒れそうになった。

アユルがすぐに気がついて、軽いユキノを抱き上げた。
家は近い。ユキノが息をしているのを確認し、様子を見たところ、すぐに帰るのが1番いいと判断した。馬車を止めたところまで、ユキノをあまり揺らさないように気をつけながら、早足で歩き始めた。
途中、うなされているようで、ユキノはぽつりぽつりと泣いているようにつぶやいた。
「ごめんなさい」
「ぶたないで、お母さん」
「ゆるして」

アユルが顔をしっかり見ていると、ユキノは泣いていなかった。
その表情は絶望しか感じ取れなかった。
ユキノの幻獣もおそらく主人と同じ状態だろう。何が起きているのかわからない。ユキノがつらい目にあってるというのに。
アユルが馬車に着き、そこからすぐ近くの家に着く頃にはユキノは穏やかな顔で寝ていた。

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