【完結】冷たい手の熱

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ユキノは目を輝かせて、キョロキョロと周りを見回した。
「ユキ、そんなに見てたら、バレちゃうよ」
「アユにい、海どこですか?」
アユルは、ユキノをユキ、ユキノはアユにいさまをアユにい、にして、これでも
身分を隠した外出のつもりだった。
実際は、髪の色や瞳の色などで、彼らが貴族であることはすぐわかる。平民たちが、微笑ましい兄妹をそっとしておいてるだけで。

「海はほら、あそこだよ」
少し歩くと、ユキノの視界いっぱいに海が広がる。
「すごい」
ユキノが知っている海は絵本の人魚姫の海だけだ。
今日こそ、とユキノは誓う。
今日こそ人魚姫に会って、他の人を好きになるか、王子様を説得するか。なんでもいいから、人魚姫を幸せにしてあげたい。
ユキノは5歳になって自分だけで、絵本を読めるようになったが、読み聞かせは続いていた。人魚姫との毎日も。
ユキノは剣聖でもある。その力があれば、王子様を説得できるのではないか。
5歳になっても、ユキノはこの世界で、あまり現実的な存在として落ち着けていなかった。
頭の中もいろいろ混乱している。

5歳になった記念に、サティと見たステータスは更におかしなことになっていた。

ユキノ・シルファド
人間 
神に愛されし子ども
幻獣使い
精霊の愛し子
聖女
剣聖
超薬師
竜を従えし勇者
魅惑の美少女
 
装備
無限収納リュック(ウサギ型)

特技
上目遣いうるうる攻撃

「何これ?」
「ユキノ、無意識?上目遣いうるうるはわりと頻繁にやってるわよ」
「え?やってないよ」
サティは呆れた、という顔をして見せると、ユキノの手のひらに飛び乗った。
「アユルにはよくやってるわよ。アユルはうるうるが見たくてわざとそうなるようにしてるみたいだけど。アユルもよく両親とかにやってるわ。あなたたちの得意技ね」
ユキノは軽くショックだった。

両親であるシルファド夫妻は、ユキノがどこか浮世離れした子どもであることを
幻獣と共に生まれたのだから、仕方ないとあきらめていた。
「ちょっとだけ他の人とちがうだけよ。問題ないわ」
ミランダが言うと、アランは誇らしげに頷く。
「うちの子が1番かわいいってやつだな。ユキノはこんなにかわいいんだから、まあいいだろう」
ユキノ・シルファドは生まれて初めて海を見た。前世も見たことはなかった海。
人魚姫はともかく、ユキノの人生はどうなっていくだろう。

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