【完結】冷たい手の熱

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「ユキノ!何をしてるの!勝手に1人で歩き回っちゃダメだと言ったでしょう」
城の中にある子ども部屋から裸足で庭に出たユキノは母の言葉に立ち止まってから、しばらく固まった。ゆっくり振り返って母の顔を見てほっとしてから言葉を返した。
「にいにが、お庭にお花いっぱいって」
「それはユキノと一緒に行きたいってことよ。お兄ちゃんを待たなきゃダメ」
明るい笑顔の母が2歳のユキノを抱き上げると、汚れた足を洗いに部屋へ戻った。ユキノは母にぎゅーっとしがみついた。なぜか不安だ。ここより安心な場所なんてないのに。なぜだろう。

「どのにいにがユキノにお花の話をしたの?」
ユキノは父にそっくりの緑色の瞳をぱちくりと開いて、心なしか頬を赤らめ、
「アユにいさま」
1番上のアユルをユキノは慕っていて、
アユにいさまと呼んでいた。
シルファド伯爵家には4人の息子がいる。ユキノには4人の兄がいるのだ。
上から、アユル、バルト、ティルト、コルン。
ユキノはどのにいさまも大好きだが、1番ユキノに甘いアユルに1番懐いていた。

「アユルなら、もう1時間もすれば、帰ってくるわ。それから一緒に行くことにしなさい。それまでユキノは母様とお昼寝しましょう」
ユキノを抱いたまま、母様はベッドへ向かう。
子ども部屋のベッドにそっと下ろしてくれた母様は、優しい声でユキノが大好きな絵本を読んでくれる。人魚姫は母様が何度読んでも最後は泡になって消えてしまう。一度くらい、泡にならずに、王子様と幸せになったらいいのに。そう思うから、ユキノはこの絵本を必ず読んでもらう。今のところ、人魚姫は毎回泡になっていた。

母様の優しい声は眠りを誘う。人魚姫の後に読んでくれているのは新しい絵本だろうか。ウトウトし出したユキノにはわからなかった。
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