【完結】冷たい手の熱

ここ

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次に雪乃が目覚めた世界は、真っ白な空間だった。アパートのベランダではないことだけは確かだ。
「ここどこ?」
雪乃の声に反応したかのように、真っ白なウサギたちが飛び出してきた。
「え?どこから来たの?」
ウサギは雪乃を取り囲むと、満足したようにニッと笑った気がした。
雪乃が少しこわいと思うと、ウサギがさらに近づいてきた。まずは1匹。頭を雪乃の腕に擦り付けてくる。
「え?ナデナデ?」
ウサギの瞳が輝いた気がした。
ウサギを撫でていると、私も私もと大量のウサギが近寄ってくる。
ふわふわのもこもこに癒されていると、
どこかから声がした。

「お前たち、いい加減にしなさい。ここは神聖な場所なのだ」
雪乃が声のする方を見ると、雪乃の少ない知識で想像していた通りの神様がいた。
「そうだ。私が神だ。この姿は仮のもの。雪乃の思うとおりの姿をしているはずだ」
雪乃はやっと、自分があのベランダで死んだのだとわかった。
神様が天国に連れて行ってくれる。
そこにはきっと苦しいことは何もない。
雪乃は願った。もう暑いのも寒いのもなくて、お腹が空かない日々を。ただそれだけを。

「ちがうぞ。雪乃。天国じゃない。まだ早すぎたんだ。たったの3歳であんな死に方をする予定じゃなかった。すまない。手違いがあったのだ。だから、特別にお前を異世界に生まれ変わるよう計らおう。
今までの記憶を持ったまま。何か願いはあるか?」
「優しい人いて、暑くも寒くもない、お腹いっぱいのところがいい、です」

雪乃は喋り慣れていない。母とだってそんなに話したことはない。話しかければ、殴られるかベランダに出されていた。時々聞こえてくるテレビの音でなんとなく覚えた言葉はたどたどしい。
神様は雪乃の希望を聞いて、自分のミスの罪深さを実感する。
だが、神様は基本気まぐれだ。
すぐに頭を切り替えた。
次の雪乃の人生を明るい物にすればいいのだ。

「雪乃。雪がたくさん降る国と海のある国のどちらがよいか?」
「海、見たい、です」
「ふむ。では、子だくさんで優しい両親のいる伯爵家に転生させよう。いろいろな能力をおまけしておく。向こうで目覚めたら、1人の時にステータスと言って確認しなさい。まあ赤ちゃんのうちは無理だから3歳になったら、思い出すようにアラームをセットしておく」
雪乃には神様の言ってることがほとんどわからなかった。
3歳ってなんだろう?
雪乃は自分が何歳だったのかも知らない。
「あー、いろいろ説明してやる時間がない。向こうでゆっくり学びなさい」
そう言うと、神様の姿は消えてゆく。
雪乃の意識も失われていった。


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