【完結】冷たい手の熱

ここ

文字の大きさ
上 下
2 / 12

2.

しおりを挟む
次に雪乃が目覚めた世界は、真っ白な空間だった。アパートのベランダではないことだけは確かだ。
「ここどこ?」
雪乃の声に反応したかのように、真っ白なウサギたちが飛び出してきた。
「え?どこから来たの?」
ウサギは雪乃を取り囲むと、満足したようにニッと笑った気がした。
雪乃が少しこわいと思うと、ウサギがさらに近づいてきた。まずは1匹。頭を雪乃の腕に擦り付けてくる。
「え?ナデナデ?」
ウサギの瞳が輝いた気がした。
ウサギを撫でていると、私も私もと大量のウサギが近寄ってくる。
ふわふわのもこもこに癒されていると、
どこかから声がした。

「お前たち、いい加減にしなさい。ここは神聖な場所なのだ」
雪乃が声のする方を見ると、雪乃の少ない知識で想像していた通りの神様がいた。
「そうだ。私が神だ。この姿は仮のもの。雪乃の思うとおりの姿をしているはずだ」
雪乃はやっと、自分があのベランダで死んだのだとわかった。
神様が天国に連れて行ってくれる。
そこにはきっと苦しいことは何もない。
雪乃は願った。もう暑いのも寒いのもなくて、お腹が空かない日々を。ただそれだけを。

「ちがうぞ。雪乃。天国じゃない。まだ早すぎたんだ。たったの3歳であんな死に方をする予定じゃなかった。すまない。手違いがあったのだ。だから、特別にお前を異世界に生まれ変わるよう計らおう。
今までの記憶を持ったまま。何か願いはあるか?」
「優しい人いて、暑くも寒くもない、お腹いっぱいのところがいい、です」

雪乃は喋り慣れていない。母とだってそんなに話したことはない。話しかければ、殴られるかベランダに出されていた。時々聞こえてくるテレビの音でなんとなく覚えた言葉はたどたどしい。
神様は雪乃の希望を聞いて、自分のミスの罪深さを実感する。
だが、神様は基本気まぐれだ。
すぐに頭を切り替えた。
次の雪乃の人生を明るい物にすればいいのだ。

「雪乃。雪がたくさん降る国と海のある国のどちらがよいか?」
「海、見たい、です」
「ふむ。では、子だくさんで優しい両親のいる伯爵家に転生させよう。いろいろな能力をおまけしておく。向こうで目覚めたら、1人の時にステータスと言って確認しなさい。まあ赤ちゃんのうちは無理だから3歳になったら、思い出すようにアラームをセットしておく」
雪乃には神様の言ってることがほとんどわからなかった。
3歳ってなんだろう?
雪乃は自分が何歳だったのかも知らない。
「あー、いろいろ説明してやる時間がない。向こうでゆっくり学びなさい」
そう言うと、神様の姿は消えてゆく。
雪乃の意識も失われていった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

謀略で婚約破棄された妹が、借金返済のために腐れ外道子爵公子を婿に迎えなければいけない?兄として見過ごせるか!

克全
ファンタジー
ガルシア男爵家は家臣領民を助ける為に大きな借金をしていた。国を滅亡させかねないほどの疫病が2度も大流行してしまい、その治療薬や回復薬を買うための財産を全て投げだしただけでなく、親戚や友人知人から借金までしたのだ。だが、その善良さが極悪非道な商人がありのゴンザレス子爵家に付け入るスキを与えてしまった。最初に金に権力によって親戚友人知人に借りていた金を全て肩代わりされてしまった。執拗な取り立てが始まり、可憐な男爵令嬢マリアが借金を理由にロドリゲス伯爵家のフェリペから婚約破棄されてしまう。それだけではなく、フェリペに新しい婚約者はゴンザレス子爵家の長女ヴァレリアとなった。さらに借金の棒引きを条件に、ガルシア家の長男ディランを追放して可憐な美貌の妹マリアに三男を婿入りさせて、男爵家を乗っ取ろうとまでしたのだ。何とか1年の猶予を手に入れたディランは、冒険者となって借金の返済を目指すと同時に、ゴンザレス子爵家とロドリゲス伯爵家への復讐を誓うのであった。

攻略対象の王子様は放置されました

白生荼汰
恋愛
……前回と違う。 お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。 今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。 小説家になろうにも投稿してます。

凶幻獣戦域ラージャーラ

幾橋テツミ
ファンタジー
ラージャーラ…それは天響神エグメドなる絶対者が支配する異空間であり、現在は諸勢力が入り乱れる戦乱状態にあった。目下の最強陣営は「天響神の意思の執行者」を自認する『鏡の教聖』を名乗る仮面の魔人が率いる【神牙教軍】なる武装教団であるが、その覇権を覆すかのように、当のエグメドによって【絆獣聖団】なる反対勢力が準備された──しかもその主体となったのは啓示を受けた三次元人たちであったのだ!彼らのために用意された「武器」は、ラージャーラに生息する魔獣たちがより戦闘力を増強され、特殊な訓練を施された<操獣師>なる地上人と意志を通わせる能力を得た『絆獣』というモンスターの群れと、『錬装磁甲』という恐るべき破壊力を秘めた鎧を自在に装着できる超戦士<錬装者>たちである。彼らは<絆獣聖団>と名乗り、全世界に散在する約ニ百名の人々は居住するエリアによって支部を形成していた。    かくてラージャーラにおける神牙教軍と絆獣聖団の戦いは日々熾烈を極め、遂にある臨界点に到達しつつあったのである!

【完結】あたしはあたしです

ここ
ファンタジー
フェリシアは気がついたら、道にいた。 死にかかっているところに、迎えがやってくる。なんと、迎えに来たのは公爵。 フェリシアの実の父だという。 平民以下の生活をしていたフェリシアの運命は?

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる

花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。

処理中です...