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第六話

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アビゼル・クォーツは権力で誰かを踏みつけるような奴らが大嫌いだ。
だから、魔法の塔から王家に呼び出されたとき、嫌な予感しかしなかった。彼らは踏みつけるのが大の得意なのだ。
「王国の太陽、我が国の父、陛下にアビゼル・クォーツがご挨拶いたします」
貴族らしく振る舞うアビゼルは、いつもよりずっと品がある。
ミーが見たら大爆笑だろうけれど。

「おや、ファリナ嬢はどうした?」
「陛下、彼女はまだ13歳。長旅には向きません」
嫌な予感しかしないから、一緒に行くというのを何とか説得して、アビゼルだけでやって来た。
国王がいる王都とアビゼルたちの住まいはそこそこ距離がある。
「ファリナ嬢に会いたかったのだ」
「彼女は私の弟子ですから、私でお許しください」

「ふむ。まぁいい。アビゼル、噂によると、そなたはファリナ嬢と結婚する予定があるとか」
アビゼルは噂は知っていたが、それが陛下の耳に入り、気になるとは考えてなかった。
これはもしかして、ファリナの優秀さを見込んで何番目かの王子と結婚させる気だったな。
「ファリナ嬢の成人を待って婚姻する予定です」
「そうなのか。それでは仕方ないな」
アビゼルはホッとした。

そんな自分が不思議だった。
国王と魔法のこと、ファリナとの生活を話しているうちに時間はどんどん過ぎて行く。
帰りを心配してくれているだろうファリナのところへ早く帰りたい。
アビゼル・クォーツという軽薄な魔法使いが、たったひとりの笑顔を思い浮かべた。
噂を本当にしてしまおう。
もちろん、ファリナの気持ちを聞いてから。

国王から、帰る許可が出るまで時間がかかった。帰り道は暗い。
けれど、ファリナと暮らす塔の中の部屋には灯りが灯っていた。
アビゼルはなんだか泣きたくなった。
帰る場所がある。
アビゼルの帰るところは、ファリナのいるところ。
それは自然で、しっくりくる感覚だった。
ファリナの帰る場所も自分のところであるように、アビゼルは祈った。

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