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「どうしたの?何があったの?」
ミリエルトの執事から緊急事態だと呼び出されたソアラーヌはわけがわからなかった。
殿下の宮殿に着くと、侍女たちはみんな泣いている。
いったい何があったのか?
「ミリエルト殿下は無事なの?」
「それが‥」
ミリエルトの執事ヤーンは、困った顔をする。

「せっかく来ていただいたんだ。詳しく話した方がいいですよ。殿下を説得できるのは、ソアラーヌ様だけです」
ミリエルトの側近、トルン侯爵の次男、氷の君が、ソアラーヌをひたと見つめる。
無表情の彼が珍しく慌てているのが、なんとなく伝わってくる。
「ミリエルト殿下は髪をざっくり切るおつもりなんです」
ヤーンが説明を始めた。
「え?髪を?なんで?」
ミリエルトの銀髪はかなり長く美しくトレードマークと言っても差し支えないほどだ。正直に言えば、ソアラーヌもきれいな髪だと思っていた。

「それが、先週の武闘会で、優勝した冒険者をソアラーヌ様が憧れの瞳で見ていた、とおっしゃるんです」
「え?そうだったかしら?強いなあとはもちろん思ったけど」
「ミリエルト殿下は、男らしくなってソアラーヌ様に憧れられたいと」
「まさかそれが髪を切る理由なの?」
誰も頷かないけど、正解のようだ。

「ミリエルト殿下はどこにいるの?」
「寝室に」
「私、バカな殿下を教育してくるわ」
側近も執事も使用人も心から応援した。
「ミリエルト、ちょっと話があるんだけど」
「ソア!!」
がちゃりとノックを無視して扉を開けると、鋏を持ったミリエルトが泣いていた。
「泣くほど嫌ならやめなさい」
ソアラーヌはいつもより、自然に強気だった。

「だって、ソアに愛されたいんだ」
「別に髪の長さなんて、どうだっていいわ」
「え?」
そこから、ソアラーヌは、別に優勝者のことは覚えてないくらいで、憧れてなどいないことを滔々と説明した。
「じゃあ、ソアはこの髪を嫌いじゃないんだね?」
さっきまで泣いてたくせに、もう笑顔になってる。
「そうね。ミリトの髪、きれいだと思うわ」
めったに呼んでくれない愛称。
その上、ソアラーヌはミリエルトの髪を一房手にして軽くキスしてくれた。
ミリエルトは死にそうにうれしい。
いや、もう死んでもいいと思った。
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