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第九話

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リュエルはアリサの馬車に細工した人物を探させていた。見つかったとの報告を受けて、確認に出向いた。もちろんその人物も憎い。だが、命令したのが誰かを解明したかった。
「俺はやってない」
「俺はやったかもしれないが、脅されて仕方なく」
のどっちかだと男は言う。
後者なら、と手を出した。
その手に金貨を握らせると、
「ミゲル・ファイアット」
そして、男は去って行く。
「追いましょうか?」
「いや、いい。お前の死体は見たくない」
相手が悪い。証言などさせられない。
ミゲルを糾弾することはかなり難しくなった。

邸に帰ると使用人たちの目がなんだか冷たい。
「何があった?」
「アリサ様はずっと起きてお待ちになっていました。リボンを見せたくて。
リュエル様がなかなか帰って来られないため、泣きながら、やっとお休みになりました」
「あー。こんなに遅くなるつもりはなかったんだ」
使用人たちは冷たい眼差しのまま、リュエルの手伝いを始めた。

翌日の朝、いつもより早めにアリサのところへ行くと、アリサは抱きついてきた。
「リューさま」
「うん。昨日はごめんね。そのリボンよく似合っている」
「リューさま」
「うん」
そうしてしばらく抱き合っていた。
使用人たちは静かに見守った。

「えっ、アリサとですか?」
朝ご飯の後に呼び出されたリュエルに公爵夫人はにこやかに続けた。
「そう。私とふたりでお茶をしたいの」
「母上、アリサは子どもです。お茶の作法も、母上への言葉遣いもわかっていません。失礼があるかと心配です」
「それは構わないわ。リュエルがあんなに大切にしている令嬢ですもの。ちゃんと会っておきたいだけよ」
リュエルは、母に弱い。優しい人だが、一癖あるし、リュエルの女性関係にも目を光らせている。
「私も同席していいですね?」
「あら、ダメよ。女性同士で話したいのだから」
そう押し切られた上、今日のおやつタイムに決行と言われて、リュエルは慌てた。

「アリサ、僕の母上がね、アリサとお茶をしたいんだって。急だけど、大丈夫かな?」
あんまり大丈夫じゃないよなあと思いたがら、尋ねてみる。
「わかった。お着替えしてくる」
あれ?と思うほどアリサは乗り気だ。
お母様だ!アリサにはいないもん!
リューさまのお母様なら、きっと優しいもん!アリサの本来の記憶が混ざっているのか、アリサはバーグマン家に母親がいないことを覚えていた。
アリサが3つのときに弟を産んで亡くなった母。
父は再婚せずに2人を育ててきた。
決して口にはしなかったが、アリサには母親という存在に特別な思いがある。


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