上 下
3 / 12

第三話

しおりを挟む
その日アリサは商会の仕事で、馬車で長時間移動する予定だった。
だが、面会相手から、アリサが時間になっても現れないと連絡が来た。
鳥を使っての手紙のやりとりだから、
実際にアリサの消息が絶えたのは少し前のことだ。
子爵家の少ない護衛の中から、馬車についていくように命じたのだが、
「大丈夫よ、お父様。御者と私だけで」
この通りにしてしまったことを後悔したが、道順に沿って探すしかない。

崖の下に子爵家の馬車を見つけたときは
子爵は真っ青になった。だが、アリサの姿はなかった。
御者は気絶していて、たいした怪我もしていなかったが、アリサがどこに行ったかはわからなかった。
その時アリサは、大変なことになっていた。

「まず、怪我の手当てを頼む」
リュエルが慌てた声で横抱きにしたアリサを公爵邸に連れ帰っていた。
子爵家より高度な治療が受けられると思ったのだ。アリサの怪我はかなり深く、できれば治癒魔法も使いたかったのだ。
慌てていて、アリサの家に連絡することを失念してしまったのも仕方ない。
リュエルがアリサの馬車を見つけたのは偶然だった。
アリサは意識がないままだ。

一通りの治療が終わると、怪我は治癒され、あとは目覚めるのを待つことになった。そこでやっと、バーグマン家に連絡を入れた。
「すぐ迎えに行きます」
と返答されたが、まだ様子を見たかったリュエルは意識が戻ってから連絡すると伝えた。
「アリサ様が目を覚まされました」
リュエルは急いでアリサのいる部屋に向かった。

「痛いとこはないかい?」
リュエルの質問に、アリサは少し考えて答えた。
「痛いところはありません。でも、私は誰ですか?あなたは?全然思い出せなくて」
リュエルはびっくりした。
「君はバーグマン子爵家のアリサだ。
私はリュエル・イルマン。
しばらくここですごそうか。君の実家にはすぐ連絡をする」
アリサは頼りない表情でリュエルを見上げた。瞳がうるうるとして、涙が盛り上がっている。
「大丈夫だよ。心配ない。お医者さんも呼ぶからね」
リュエルは庇護欲がじわじわと体を蝕むのを感じた。
いつものアリサ令嬢も気に入っていたが
またちがう魅力を感じてしまった。

そして、不自然な馬車落下のことを調べるよう指令を出した。
人為的な細工がされている可能性が高かったからだ。
アリサの命を狙うのは、婚約者のミゲルの可能性が高いが、まさかと思う。
事故死させる必要はないからだ。

アリサはいつもとちがって、
なんだ可愛い。いつもも密かに気に入っていたが、ギャップがあって、
どちらも可愛い。

___

この次から、甘々の予定ですが、
どうなることやら
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私、幸せじゃないから離婚しまーす。…え? 本当の娘だと思っているから我慢して? お義母さま、ボケたのですか? 私たち元から他人です!

天田れおぽん
恋愛
ある日、ふと幸せじゃないと気付いてしまったメリー・トレンドア伯爵夫人は、実家であるコンサバティ侯爵家に侍女キャメロンを連れて帰ってしまう。 焦った夫は実家に迎えに行くが、事情を知った両親に追い返されて離婚が成立してしまう。 一方、コンサバティ侯爵家を継ぐ予定であった弟夫婦は、メリーの扱いを間違えて追い出されてしまう。 コンサバティ侯爵家を継ぐことになったメリーを元夫と弟夫婦が結託して邪魔しようとするも、侍女キャメロンが立ちふさがる。 メリーを守ろうとしたキャメロンは呪いが解けてTS。 男になったキャメロンとメリーは結婚してコンサバティ侯爵家を継ぐことになる。 トレンドア伯爵家は爵位を取り上げられて破滅。 弟夫婦はコンサバティ侯爵家を追放されてしまう。 ※変な話です。(笑)

【完結】4公爵令嬢は、この世から居なくなる為に、魔女の薬を飲んだ。王子様のキスで目覚めて、本当の愛を与えてもらった。

華蓮
恋愛
王子の婚約者マリアが、浮気をされ、公務だけすることに絶えることができず、魔女に会い、薬をもらって自死する。

【完結】それではご機嫌よう、さようなら♪

山葵
恋愛
「最後まで可愛げの無い女だ。さっさと荷物を纏めて出ていけ!」 夫であったマウイに離縁を言い渡され、有無を言わさず離婚届にサインをさせられた。 屋敷の使用人達は絶句し、動けないでいる。 「おいビルダ!何を呆けているのだ。この届けを直ぐに役所に届けろ」 「旦那様、本当に宜しいのですか?」 「宜しいに決まっているだろう?ああそうだ。離婚届を出した序でに婚姻届を貰ってきてくれ。ライナが妊娠したから早急に籍を入れる予定だ。国王陛下に許可をしてくれる様に手紙も頼む」 私はビルダと共に部屋を出る。 その顔はきっと喜びで微笑んでいただろう。

危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました

しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。 自分のことも誰のことも覚えていない。 王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。 聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。 なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。

【完結】記憶を失くした旦那さま

山葵
恋愛
副騎士団長として働く旦那さまが部下を庇い頭を打ってしまう。 目が覚めた時には、私との結婚生活も全て忘れていた。 彼は愛しているのはリターナだと言った。 そんな時、離縁したリターナさんが戻って来たと知らせが来る…。

【完結】愛していたのに処刑されました。今度は関わりません。

かずきりり
恋愛
「アマリア・レガス伯爵令嬢!其方を王族に毒をもったとして処刑とする!」 いきなりの冤罪を突き立てられ、私の愛していた婚約者は、別の女性と一緒に居る。 貴族としての政略結婚だとしても、私は愛していた。 けれど、貴方は……別の女性といつも居た。 処刑されたと思ったら、何故か時間が巻き戻っている。 ならば……諦める。 前とは違う人生を送って、貴方を好きだという気持ちをも……。 ……そう簡単に、消えないけれど。 --------------------- ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。

【完結】私の小さな復讐~愛し合う幼馴染みを婚約させてあげましょう~

山葵
恋愛
突然、幼馴染みのハリーとシルビアが屋敷を訪ねて来た。 2人とは距離を取っていたから、こうして会うのは久し振りだ。 「先触れも無く、突然訪問してくるなんて、そんなに急用なの?」 相変わらずベッタリとくっ付きソファに座る2人を見ても早急な用事が有るとは思えない。 「キャロル。俺達、良い事を思い付いたんだよ!お前にも悪い話ではない事だ」 ハリーの思い付いた事で私に良かった事なんて合ったかしら? もう悪い話にしか思えないけれど、取り合えずハリーの話を聞いてみる事にした。

公爵夫人は愛されている事に気が付かない

山葵
恋愛
「あら?侯爵夫人ご覧になって…」 「あれはクライマス公爵…いつ見ても惚れ惚れしてしまいますわねぇ~♡」 「本当に女性が見ても羨ましいくらいの美形ですわねぇ~♡…それなのに…」 「本当にクライマス公爵が可哀想でならないわ…いくら王命だからと言ってもねぇ…」 社交パーティーに参加すれば、いつも聞こえてくる私への陰口…。 貴女達が言わなくても、私が1番、分かっている。 夫の隣に私は相応しくないのだと…。

処理中です...