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そんなこととは知らないダルナルトはいつものように厳しかった。
必死に学ぶフィランヌには、ダルナルトと自分の関係に悩む暇もない。弟子として、食らいついていくのみ。氷魔法はあと少しで完成する。フィランヌのコントロールがまだ足りなくて完全な氷にならない。
「師匠、私才能がないのかも」
何十回と同じ詠唱を繰り返したが、氷の一歩手前というものしかできない。
フィランヌは、悔しかった。
「まだまだ甘い。集中力が足りない。今日、集中できないなら、もうやるな」
「私はまだまだできます」
「判断力も鈍ってる。今日は帰れ」
フィランヌはダルナルトの前で初めて泣きたくなった。耐えねばならない。
ここで泣いたら、見捨てられる。
第三王子に捨てられたように。
フィランヌの集中力はどんどん低下していた。第三王子につけられた傷跡はまったくふさがっていなかったのだ。目を背け、隣国へ逃げ、楽しい最高の日々を過ごしてもまだ、消えない傷があった。
「師匠、今日は帰ります」
「その方がいい」
学園の寮に戻ったフィランヌは、
「顔色が悪い」という理由で、リルにベッドへ追い立てられてしまった。
第三王子の顔が浮かんできて、ついにフィランヌは泣き出してしまった。
それも、ポロポロ泣くのではなく、リルが飛び込んでくるほどの号泣だった。
そして変な風に魔法を使ってしまうらしく、大量の水が部屋の中に生まれて、どんどん水位を上げていった。
リルはなんとかフィランヌを落ち着かせようとするが、なかなかうまくいかない。
水が膝下あたりになった頃、このままだとフィランヌが自分の水で溺れてしまうのではないかと思って焦り始めた。
「誰かお願い、コルト公爵子息を呼んできてください。このままでは大惨事に」
ダルナルトは、すぐにやって来た。
フィランヌの状態を確認すると、ざぶざぶと水の中を移動して、フィランヌに軽く囁いた。
フィランヌは取り乱していたから、自分にかけられた睡眠魔法にも気づかずにすぐに意識を失った。
膝下から、少しずつ上がっていた水も魔法で消す。
濡れたはずのフィランヌもリルも部屋の中も元通りだ。
「いったい、何があった?」
ダルナルトはリルに尋ねた。
必死に学ぶフィランヌには、ダルナルトと自分の関係に悩む暇もない。弟子として、食らいついていくのみ。氷魔法はあと少しで完成する。フィランヌのコントロールがまだ足りなくて完全な氷にならない。
「師匠、私才能がないのかも」
何十回と同じ詠唱を繰り返したが、氷の一歩手前というものしかできない。
フィランヌは、悔しかった。
「まだまだ甘い。集中力が足りない。今日、集中できないなら、もうやるな」
「私はまだまだできます」
「判断力も鈍ってる。今日は帰れ」
フィランヌはダルナルトの前で初めて泣きたくなった。耐えねばならない。
ここで泣いたら、見捨てられる。
第三王子に捨てられたように。
フィランヌの集中力はどんどん低下していた。第三王子につけられた傷跡はまったくふさがっていなかったのだ。目を背け、隣国へ逃げ、楽しい最高の日々を過ごしてもまだ、消えない傷があった。
「師匠、今日は帰ります」
「その方がいい」
学園の寮に戻ったフィランヌは、
「顔色が悪い」という理由で、リルにベッドへ追い立てられてしまった。
第三王子の顔が浮かんできて、ついにフィランヌは泣き出してしまった。
それも、ポロポロ泣くのではなく、リルが飛び込んでくるほどの号泣だった。
そして変な風に魔法を使ってしまうらしく、大量の水が部屋の中に生まれて、どんどん水位を上げていった。
リルはなんとかフィランヌを落ち着かせようとするが、なかなかうまくいかない。
水が膝下あたりになった頃、このままだとフィランヌが自分の水で溺れてしまうのではないかと思って焦り始めた。
「誰かお願い、コルト公爵子息を呼んできてください。このままでは大惨事に」
ダルナルトは、すぐにやって来た。
フィランヌの状態を確認すると、ざぶざぶと水の中を移動して、フィランヌに軽く囁いた。
フィランヌは取り乱していたから、自分にかけられた睡眠魔法にも気づかずにすぐに意識を失った。
膝下から、少しずつ上がっていた水も魔法で消す。
濡れたはずのフィランヌもリルも部屋の中も元通りだ。
「いったい、何があった?」
ダルナルトはリルに尋ねた。
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