【完結】薔薇の花と君と

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ダルナルトは、一度引き受けたら、とことんやるのが信条だ。だから、フィランヌがすぐにギブアップすると思っていた。
それが、1カ月同じ簡単な魔法の練習をする日々に一言も文句を言わない。もちろんダルナルトは必要だから、練習させている。言われたことを必死にやっているフィランヌを見ると根性は認めてもいいかもしれないと少しだけ思った。
ダルナルトは外見がよく、地位がある魔法使いだ。いろいろな女性に言い寄られてきた。中には犯罪まがいのものもあり、すっかり女性嫌いになってしまった。

結婚する気はない。ひとりで魔法使いとして、生きていくと決めている。
弟子なんてとる気はまったくなかった。
ましてや、女性だ。
「なんか調子が狂うんだよな」
フィランヌに女性らしさがないとかいう話ではない。淑女でありながら、魔力が高く、魔法への情熱がある。ダルナルトに言い寄ることもなく、恋しているわけでもない。憧れの瞳をただ純粋に向けられている。魔法使いとして。ダルナルトが今までに出会ったことのないタイプの女性だ。

「なんていうか、最高だわ」
令嬢としての言葉遣いは少し乱れているが、フィランヌは魔法の修行に満足している。同じ魔法を続ける指示を出されたのは、フィランヌの魔力を強化安定させるため。より高みにのぼるために必要なのだ。
そうフィランヌは解釈した。
その、最高の魔法使いになった時のことを考えると喜びが溢れて無意識に花びらを舞い散らせる魔法を使ってしまう。
そう、最高なのだ。

世間は、ダルナルトがフィランヌの美貌についに陥落したなどと噂している。
フィランヌは何をしていても美しい。
修行中の司教は決して目にしてはいけないという教えがあるくらいだ。
フィランヌが少しだけ微笑めば、誰もが陥落してしまう。フィランヌのすごいところは、男性限定ではないところだ。
女性も子どももすべてが彼女の虜になる。
罪深いことに、本人はまったくわかっていない。
今日の髪型よりも今日の魔法の修行が大事なのだ。
学園でいじめられていたときだって、ほんの少しでも微笑んでみせていたら、まったくちがう状況になっただろう。フィランヌは自覚のない残念美人だった。




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