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第四話

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ファリアが7歳、第三王子が9歳。
婚約者同士のお茶会が始まった。
「ファリは、何をするのが好きなんだ?」
少しでも仲良くなりたい第三王子は必死だった。ファリアが5歳のときに婚約してからずっと。
ファリアの好きな物、好きなこと。笑って幸せな気持ちになってくれること。
それを知りたい。

第三王子は本当に本気でファリアに恋をしていた。少し馬鹿なところも可愛いと思う。
「ファリ、お部屋好き」
「甘い物と刺繍好き」
ファリアは華やかな容姿をしているが、
あまり外に出したくない両親によって
誘導され、趣味はインドア派だった。
刺繍だけはファリアの得意分野だ。
おそらくそれで食べて行けるレベルの高さだった。王妃様が着るドレスの刺繍ができるほどだ。

「じゃあ、街に行って、美味しい甘い物を食べよう。ちょっと変装すれば大丈夫だ」
「うん。いいよ!」
とても王子様相手の言葉遣いではない。立居振る舞いは修正できたが、言葉遣いは無理だった。ある意味執念深く、ファリアのマナーをすっかり変えた家庭教師にも、残念ながら、不可能があった。
「じゃあ、まずは着替えよう。ファリの服も用意してる。侍女に頼んである。」
「うん!」
ファリアは楽しみだった。お家と王宮しか知らない世間知らずだ。街に行けるなんて、考えたことがなかった。

ファリアは、第三王子を好きでも嫌いでもなかった。ファリアにいろいろくれたり、優しいから好きだけど、ただそれただ。何もしてくれなかったら、好きじゃない。だから、ファリアはあんまり気を持たせるようなことをしてはいけなかった。ただ、王族との婚姻は、申し込まれれば、断ることなどできない。

このまま第三王子がファリアを好きでしかたないなら、自然に婚約ということになるだろう。ファリアはまだきちんとわかってはいないけど、嫌いなわけではないから、別にいいかなくらいの気持ちだった。

第三王子が知ったら悲しみそうだから、ファリアは黙っていた。無闇に傷つけたくはない。優しく一生懸命な殿下をファリアだって毛嫌いしているわけではないのだ。
「ファリ、支度できたか?」
ファリアは、見事に平民の着ていそうなワンピースを身にまとっていた。
しかし、服が平民でも、着ているファリアが超絶美形なため、なんの説得力もなかった。

第三王子はまた惚れ直し、ファリアの美しさにまた驚いた。
そういう第三王子も、衣装だけは平民だが、美形であることに変わりなく、結局ふたりとも、とても街には行けないという悲しい結末になってしまった。
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