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019:地下3階報告1+地下4階報告

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 時間は予定していたよりも思いのほかかかってしまっていたが、無事に3階と4階の調査を終えて戻ってくることができた。クリストたちはギルドの職員の歓迎を受けながら、荷物を降ろし、一息つく。
 今回の探索で倒した魔物の数は今までの比ではないくらいに多くなったが、逆に得られたものは実はそれほど多くはなかった。そして今回に限ってのことになるのかどうか、通路や部屋に仕掛けられた罠というものも見当たらなかった。ただ真っ暗で光を通さない場所が1カ所あっただけだ。
 残る問題は専用の鍵でなければ開けられないと思われる扉があり、その鍵は4階で発見できたということだが、恐らくこれで開けられるだろうと考えてはいるが、その結論は次回に持ち越している。
 休憩を終えたら報告に移る。会議室にはすでにモニカが来ていて魔石や獲得した成果の調査を職員に指示を出し、その鑑定結果を受け取っていく。クリストたちもテーブルに並べられた成果を前に席に着いた。

 遭遇した魔物は次のとおり。ジャイアント・スネークが10体、一回り大きなジャイアント・スネークが2体、巨大なジャイアント・スネークが1体。ジャイアント・フロッグが2体、色違いで一回り大きなジャイアント・フロッグが1体。ゴブリン、大きさや武器持ちなど複数種あり、全部まとめて27体。シュリーカーが1体。倒すことはしなかったがファンガスの群体が1つ。
 戦闘回数や倒した魔物の数は非常に多くなったが、面白みというべきか変化には乏しかった。とにかく部屋ごとにいるかいないかを見なければならないスネーク、群れているせいでひたすらに面倒なゴブリンが問題だった。

「この数の多いものがジャイアント・ポイズナス・スネーク、こちらの一回り大きなものがコンストリクター・スネークですか。そしてこの特別大きなものがジャイアント・コンストリクター・スネーク。これは丸ごと持ち帰る依頼を出してみたいものですね」
「ああ、皮だとか牙だとか、使い道がいろいろとありそうだしな。身に毒がなければヘビってのは肉も食えるんだったか」
「そうですね。ポイズナスでも肉が食用可とは出ていますから、毒腺さえ気をつければ大丈夫なのでしょう。肉質の詳細は鑑定をしてみないといけませんが、使えるとなれば相当な量になるでしょうね」
 3階の調べた範囲にはなるが、エリアがスネークとフロッグとにきれいに別れていた。そのフロッグも食用可ということで知られている。
「ジャイアント・フロッグも確か肉が食べられるのですよね。あれ、こちらの大きなものはジャイアント・トードですか、そしてこちらは肉が食べられないと出ています。へえ、そんな違いもあるのですね」
 フロッグは安心の食用可だったが、同じカエルでもトードは食べられないという。この差は何か。遭遇した場所は同じなのだが。毒があるというのが一番簡単な想像ではあったが、ポイズナス・スネークとの違いが分からない。丸ごと持ち帰って鑑定しないと結論は出せないだろう。
「シュリーカーは2階と同じですね。ファンガスもいたということはここはキノコのエリアの可能性があるということになりますが、今後の探索の結果次第ということですね」
 キノコのエリアに関しては今後入るだろう冒険者が持ち帰る情報によって結論が出るということになる。果たしてここにもマイコニドの餌場があるのかどうか。それとも繁殖の場所になるのだろうか。
「そしてゴブリンですね。普通のゴブリンが18体、ウォリアーが3体、アーチャーが1体、ワーカーが5体ですか。全部で27体。この数が森とかにいたら討伐の依頼を出さなければならないような案件なのですが、ダンジョンだから構わないのでしょうか」
「ダンジョンだからこの程度の数はいいんだろう。実際1部屋に6くらいは普通にありそうだったぞ」
「なるほど。ですがここへ行くのなら大量のゴブリンに対処できないといけないわけですね。通路で乱戦があり得ると。分かりました」
「魔物に関しては変化の乏しい階だったな。構造は複雑になったがその割には魔物が単純だったという印象だ。ただ数がな。面倒だったな」
 最終的に今回の魔物の印象はひたすらにスネーク、スネーク、スネーク。そしてゴブリン、ゴブリン、ゴブリンだった。

 採取物や拾得物のうち、まずは宝石が全部で23個。内訳はタイガー・アイが1個、マラカイトが1個、モス・アゲートが2個、ラピス・ラズリが1個、ヘマタイトが1個、ブラッド・ストーンが1個、アジュライトが3個、ターコイズが1個、クオーツが3個、ブルー・クオーツが1個、オブシディアンが3個、アンバーが1個、クリソベリルが1個、スピネルが1個、トルマリンが1個。
 価格はまちまち、どれも需要はある。ただしものによってはあまり求められていないものもあるらしい。ひとくちに宝石といっているが人気のあるなしは当然あるのだ。ありがたいことに今回もそれなりに高価なものも混ざっていて、合計金額にすれば最終的には十分な数字になるだろうと思われた。
「これはまた数が多いですね」
「今回は宝石だらけだったな。最初は良かったんだが、途中からな」
「どんなに良いものでも続けば飽きますか?」
「そうなんだよ。宝箱を開けるのは楽しいんだがな? 宝石だらけってのはな。ぜいたくな悩みを知っちまったよ」
 最初のうちは一つ一つの宝石に興味を持って鑑定結果を見ていたが、それもだんだんと慣れからくる飽きがきていた。これからはまとめていくつ、まとめていくらで良いのではないかという気持ちになってきていた。

 そして当然それ以外の成果もある。金色の腕輪に山積みの金貨、無色透明の薬瓶、そしてゴブリンの使っていた剣や弓、ロープだ。
「金の腕輪がゴールド・ブレスレット、インタカエスで作られた銀製のブレスレットですか。1階にもありましたね。あちらはシルバーでしたが」
「やっぱり同じものか。そうなるとあのダンジョンはその何とかいう場所で作られたものが出るっていうことで決まりなんだろうな」
「結局調べても調べても何も見つからないのですよね。インタカエス」
 地名と思われるものが示されても、それが何かどこにあるのかが分からなければそれ以上に話を膨らませることができない。すでに3つ、物を変えてその地名が出てきている。そして今後も恐らく見つかるものから出ることになるのだろう。調査探索で地名に関する何かしらの情報が出てきてくれると考察が進み良いのだが。

「金貨は全部で34枚。これはまた出ましたね。一度にですか、良いですね。えーと、キルケーで流通していた金貨。前回は銀貨でしたよね。これもまた分からない地名なままなのですよ」
 2つめの地名。これは1階で銀貨が見つかったときと同じ結果だった。キルケーという地名に関しても結局何も分かっていない状態で、これもまた今後何かしらの情報が見つかることが期待される。

「薬瓶は、ジャイアントストレングス・ポーション。飲むと1時間、ヒル・ジャイアントと同じ筋力を得ることができる。え、すごいですね、これ。ヒル・ジャイアントってあの山にいる大きなやつですよね」
「丘の巨人だな。丘ってーか山なんだがな。だが1時間か、使いどころが難しいな。下手に使うと周りのものを全部たたきつぶしかねない」
「ここぞというところで使って、ディスペルですぐに消せるかしら。それなら使えるでしょうけれど」
 人の体にふさわしい能力ならばまだしも、強力すぎる力は副作用が怖い。ヒル・ジャイアントの力を得て岩をどかしたとしても、その筋力が1時間も続くとなるとその後もその筋力で周りのものを扱うことになるのだ。耐えられない強度のものであれば壊してしまうことになるだろう。

「剣は普通のロングソード、弓は普通のロングボウ、ロープも普通のロープ。こういうものをゴブリンが持っているという驚き以外には特に特別なものではありませんね」
「まあそこはダンジョンだからで片付けるしかないだろう。ただその剣を持っていたやつは体格も良かったしな、ウォリアーだったか、そいつは少し注意が必要かもしれない」
 ゴブリンの持ち物はごく普通のもので、ギルドの備品として置いておいて困るようなものでもなかった。多少の傷みも手入れをして置いておけば、きっと慣れていない冒険者が武器を壊しては買って使い、また壊しては買いと繰り返すことになるのだから。
 屋外で出会うゴブリンがこんなまともな装備を持っていることは早々ないが、その辺りは本当にダンジョンだからで済ますしかなさそうだった。

「今回はこんなところですね。数はありますが、そこまで悩ませるようなものではなかったと。それにしても専用の鍵に、光を通さない何も見えなくなるエリアですか。凝った仕掛けを用意してきましたね」
「そうだな。もう完全に俺たちがよく知っていたダンジョンではなくなった。あまりにも作りが凝っているよ。これがダンジョンの進化の仕方なのか、それとも神様の気が変わってダンジョンの能力を底上げしてきた結果なのか。いずれにせよまだ4階だ。まだまだ先は長いんだよな」
 普通ダンジョンといえば魔物との戦闘を繰り返しながら通路を進んで奥を目指すというものだ。
 ここのダンジョンは明らかにそれとは違う。鍵があり、罠があり、特殊な仕掛けがあり、宝箱がある。魔物の種類も少しずつに増えてきていた。この先少なくとも10階まであることがわかっていて、そしてまだ4階だ。
 鍵と思われる板の鑑定結果もこのダンジョンで専用の扉を開けるための鍵という結果が出ている。これだけでは素材やどこの扉のものなのかは不明だが、そういう仕掛けがこの段階からあるということの証明でもあった。
 倒した魔物の種類と数もかなりのものだが、それだけでなく得られたものもまた種類と数が多い。冒険者にとって、ギルドにとって、そしてまたダンジョンから得られるそうしたものを求める人々にとって、非常に魅力的なダンジョンだった。
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