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018:地下4階2

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 あとは通路からこちらに向かってくるゴブリンを、と振り返ったところでその通路からフリアが顔をのぞかせる。
「こっちも終わったよ。普通のが3体だけだった」
 通路から来るゴブリンは弱く数も少なかったようで、クリストが行けば問題なく片付けられる相手だった。支援のために着いていったものの手持ち無沙汰だったのかフリアはそのまま丁字路の先の部屋を確認しに行ってしまう。そこへゴブリンを片付け終えたクリストも姿を見せた。
「そっちも終わったな。よし。だいぶ数はいたが、まあこんなもんだろう」
 言ったところでしょせんはゴブリン。足止めをしてまとめたところで漏れを始末し、そして範囲魔法で一層する、大した話ではなかった。
 そこへフリアも戻ってくる。
「右の部屋何もなし、左の部屋宝箱あり、やったね」
「お、ゴブリンを始末したかいがあったってもんだな。見に行くか」
 大量のゴブリンを倒した成果として申し分のないものが出ると良い。そう思いながら左側の部屋へと進むと、壁際には宝箱が置かれていた。
「鍵あり、罠なし、開けるよ」
 すぐさま調べにかかったフリアが解錠し、蓋に手をかける。今度の中身は何か。
「ん? 瓶だね、薬瓶かな」
 箱から取り出したのは確かにこれまでも見たことのある形をした瓶だった。これまでに見つかったのは毒薬と回復薬。今度のものはまた色が違っていた。
「透明だね、無色透明。色がないように見えるよ。それで中に何か浮いているね、何だろう」
 ランタンの下だ、確かなことは言えないが、無色透明であるように見えた。
「色がない透明な薬ってのは何だ、見たことがないような気がするんだが」
「ないな。何かしらは色が付いていてそれで判断していたようなものだからな」
 薬の種類を取り違えることがないように販売されている薬はどれも色が付けられているもので、苦労を考えるとその鑑定の結果に期待したくなるところだった。

 10体以上のゴブリンをまとめて倒し、後処理が済んだところで地図を見る。まだこのエリアに残りがあることを確かめた。
「こっちの通路の先を見ないとならないのか。これはまだいるかもな」
 少し面倒な気持ちにはなったが、ここまで来て地図を埋めないというのもそれはそれで気持ちが悪いもので、追加のゴブリンが現れた通路の方へと移動することにした。
 通路はしばらく進んだ先で左への分かれ道があり、そちらの先はすぐに扉になっている。そして正面へ続く通路もしらばく先で右へ曲がり、その先で行き止まり右側の壁には扉があった。
「鍵なし、罠なし、気配あり。やっぱりまだいるね、何体だろ、それなりの数だよ」
「仕方がない、やるさ」
「どうする? 魔法を放り込むという手もあるけれど」
「そうだな、カリーナ、またスリープを頼む。あとは状況次第で、攻撃魔法はでかいのがいたらそれだけだな」
 フリアが扉から離れ、エディとクリストが構える。カリーナは魔法を準備して、フェリクスは基本的には待機だ。
 準備ができたところでエディが扉を開け放つ。
「スリープ!」
 扉の先、正面の群れているゴブリンに向かって魔法が飛ぶ。カクンという感じで何体かのゴブリンが頭を傾け動きを止めた。
「6! 右に弓持ち!」
 スリープに耐えたゴブリンが2体いて、そのうち1体は右側で弓を手にしていた。
 エディが弓の弾道を遮るために盾を構えて迫ると殴り倒して剣で一突き。もう1体、良く状況が飲み込めていなさそうな顔をしたゴブリンにはクリストが剣を正面へと構えて突撃した。
 動いていた2体を手早く倒し、残りの眠っているゴブリンは丁寧につぶしていけば戦闘は終了だ。スリープが決まって残りにも先手が取れてしまえばしょせんはゴブリンだった。
「よし、片付いたな。ゴブリンが6か。そのなかに弓持ちが1、あとはこいつがロープ持ちだな。お、宝箱があるじゃないか」
 転がるゴブリンの死体の向こうには宝箱があった。
「鍵なし、罠なし、開けるよ」
 飛びついたフリアが調べると蓋を開ける。中身は何か。
「宝石だね、7個あるよ」
「どうにも宝石が出やすいな。ありがたいが、こう続くと別のものが見たくなるのはぜいたくってものか」
「ぜいたくな悩みではあるな、とはいえ珍しいものを見たくなるというのも正直なところだ」
 分かりやすく金額が稼げているとはいえるが、あまり続くと楽しさがやや落ちてきてしまう。やはり珍しいものを前にああだこうだを言いあうのも楽しいのだ。

 まだゴブリンエリアに調べる場所が残っているのでそちらを目指す。
 通路を引き返して先ほど確認していた分かれ道の先の扉だ。
「鍵なし、罠なし、気配なし、開けるよ」
 扉の先は部屋になっていて、左側の壁には扉がある。そして正面には通路が見えていたが、そこは明らかに異常だった。
「何だ? 黒いよな? 通路の先が黒い壁で埋まっているとかそういうことか?」
 通路に入ってすぐの場所が真っ黒に塗りつぶされているように見えた。ランタンの明かりがその黒い場所で途切れているということは壁なのかとも思えたのだ。
「いや、壁じゃない、光が反射もしていない。てーよりなあ、これ光を通していないだけで普通の通路なんじゃないか」
 その黒い部分に手を差し出すとそのまま抵抗なくすっと入る。そして手は黒く塗りつぶされ見えなくなるのだ。その手を動かしてみると普通に動かせる。だが何も見えていない。左に移動すれば壁に触れられる、右に移動させればこちらもやはり壁に触れられる。意を決して一歩足を踏み入れると、その足もやはり真っ黒に塗りつぶされて見えなくなったが、地面を踏みしめている感触はあるのだ。ランタンを差し出してみれば、ランタンが真っ黒な中に消え、その光も完全に消えてしまう。だがランタンを戻せば部屋の中へと光がもたらされるのだ。
「ねえ、ロープがあるじゃない。その端っこ持っていて。これ持って入ってみる」
 フリアがロープの一端を手に持つと、そのもう一方の端をクリストに渡し、黒い部分に足を踏み入れた。
「気をつけろよ、危険がありそうならここはなしでいい」
「分かった、少しだけ入ってみる」
 歩を進めるたびに体が黒く塗りつぶされていく。そのまま完全に黒いエリアに進んでいくと、ロープの端だけが黒い場所に接した場所で宙に浮いている状態になり、その先がどうなっているのか何も見えなくなった。
「声は聞こえる? そう、じゃあ本当に見えなくなるだけなんだね。こっちからも何も見えない。真っ黒だよ。よし、進んでみる」
 ロープがたわんだり引っ張られたりと動きを見せる。移動を開始したのだ。
 少ししてロープが右の壁際に寄り、強く引っ張られるような動きになる。右側へ曲がったのだろうか。しらばくして今度はロープが緩み、またしばらくしたところで今度は左の壁際へと引っ張られた。左へ曲がるところへ差し掛かったのだろうか。
 何事もなく移動を繰り返しているということは別段危険な状況ではないということだろうか。左へ右へ、ロープが動く。そうして時間がたったところでロープの張りが緩み、しばらくするとフリアが黒の中から姿を表した。
「お待たせ、中は普通の迷路だったよ。右手を壁に付けて進むとか、長いロープを用意するとかで進めると思う。でも途中で羽音が聞こえた。たぶんバットがいる」
「魔物が出るのかよ。中はまったく見えないんだな? よし、ここはなしにしよう。こういう場所があったってことでいいだろう」
「そうだね、ここは準備とか心構えとか必要だよ。魔物もバットならまだいいんだけど、もっと強いのがいたり、罠があったりしたら無理だよ」
「やめてくれ、ここまだ4階だぞ、そういうところもありそうじゃないか」
 真っ暗で見通せない場所に強力な魔物がいる。そしてそういう魔物は大体の場合視力を必要としないものになるのだ。そうしてそこで罠との合わせ技を用意する。そうなるとベテランの冒険者といえど苦戦以上の状態に陥りそうではあった。
 この場所はギルドに報告するにとどめることとすると、もう一つの扉を調べ、安全が確認されたところでそれを開ける。その先は通路になっていて少し先で部屋へとつながった。正面左右に扉。地図と照らし合わせるとゴブリンエリアの最初の部屋だろうとわかった。
「よし、これでここは埋まったってことでいいな。そうすると次はそこの隠し扉の先か、それとも3階に戻って鍵が必要な扉の先か。まあ開けちまったしそこを調べるか」
 次の方針を決定、もう少し4階を探索を続けることにした。扉を開けて階段への通路を引き返し、左側にまだ開いたままになっていた隠し扉へと向かう。
「結構時間がかかったと思っていたが、開いたままだな。この先は、部屋で正面に通路か。あとは何もなさそうだな」
 隠し扉の先は部屋で、通路がつながっていた。その先はすぐに右へ曲がり、しばらく進んだ先で左に分かれ道、そして正面はすぐに行き止まりになった。左の分かれ道の先には扉がある。
「鍵なし、罠なし、気配は、うーん、あると言えばある、近い気はするのに薄いね」
「よし、確認しよう、慎重にな」
 エディが前へ出て扉に手をかける。そっと開けた先は部屋になっていて左右に扉。そして部屋の奥、壁際を埋めるようにして何かがいた。
 赤、黄、茶、白とさまざまな色をした平らだったり半球だったりするかさ。節くれ立っていたり滑らかだったりする柄。ファンガスだ。
「ここでキノコか。マイコニドかシュリーカーか、どっちのエリアだろうな」
「扉はどっちも鍵なし、罠なし、今のところ気配もないね」
「よし、まずは右から行くか」
 右の扉を開けると通路になっている。少し進んだところで左に分かれ道があり、通路はまだ正面にも続いていた。正面を調べるために先に進んだフリアがすぐに戻ってくる。
「シュリーカー。1だよ」
「シュリーカーか、それなら強襲で片付けられるな。エディ、突っ込もう」
 エディとクリストの2人が前に出て剣を抜く。
 そのまま前進して先の方にキノコのようなものが見えてきたところで剣を構え、そこへ向かって突撃した。剣が次々に突き立てられたことで叫ぶまもなくシュリーカーは倒されてしまった。
 シュリーカーがいた場所は部屋になっていて、何もない行き止まりになっていた。ここを引き返し、今度は分かれ道を右へ。通路はすぐ先でまた左右に分かれる丁字路になる。右はすぐに扉、そして左は上り階段だった。
「3階への階段か。地図はどうなっている? ここからこう来て、ここか。そうすると? 3階のこの階段か?」
「そうだね、たぶんあのフロッグのところの奥の階段だと思う」
 同じフロッグエリアにあったもう一つの階段が位置から見るとここにつながっていそうだった。
「向こうの扉調べてきたよ。鍵なし、罠なし、気配なし。中を見たら普通の部屋で何もなかった」
「これでこっち側が埋まったか。そうすると次は戻ってファンガスの先を見るか、それともここを上がるかだな」
「もう結構時間がかかっているよ。どうする?」
「ああ、もう戻らないとまずいか。よし、今回はここまで。ここを上って引き上げよう。次はあの鍵の扉からだ」
 ここまで3階と4階を歩いてきたが、思っていたよりも戦闘回数が多く、時間がかかっていた。泊まる用意はしてきていない。完全な野宿ということも不可能ではないが、そのタイミングではないだろう。
 引き返すのにも時間はかかる。ちょうど目の前が上り階段だ。今回の探索はここまでとするのにも良いだろう。そう判断すると階段を上り、水に満たされたエリアを戻っていった。幸い一度倒した魔物が復活しているということもなく、こちらは残念ながら一度開けた宝箱が復活しているということもなく、小部屋の連続するスネークエリアまで到達する。
 フロッグエリアからの扉を開けようとしたフリアの手が止まった。
「いるね、たぶんスネーク。来るときには何もいなかった部屋なんだけど」
「時間だとか階の移動だとかじゃないのか? フロッグはいなかった。今もいるようには思えないが、スネークは別なのか?」
「ここだけは部屋が連続する形になっているし違うのかな。部屋ごとに毎回判定するとか?」
「宝箱もそれで復活するならまだやる気になるが、面倒だな」
「ああ、地図を見ると階段まで実質一本道なんだね。通る部屋が決まっている。これは避けようもないよ」
「マジか、面倒だな。仕方がない、しょせんはスネークだ。覚悟を決めてさっさと進むか」
 フリアが気配を探って避けて通るという方法も取りようがなかったことから、結局その後は2回、スネークとの戦闘をこなして2階への階段へとたどり着いた。その先の2階、1階と続く行程については特に問題になることもなく、無事に地上へ戻ってこられた。
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