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011:地下2階2
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アニメイテッド・アーマー、フライング・ソードという魔物との戦闘を終えた一行はその部屋の奥の壁にある扉から先へと探索を進めることに決めた。
「よし、休憩終わり。ここからは魔法の残りで決めることになるな。行けそうなところまで行ってみるか」
さすがに地下2階でそこまで強力な魔法を連発するような状況を想定していなかったということもあって、回復魔法にはまだ余裕があるが、いざというときの魔法の残りが心許なかった。まだ無理をするような段階ではないのだ。行けるところまでと決めて調査を再開した。
「扉に鍵なし、気配なし。開けるよ」
扉を開けたところでこれまでとの違いがはっきりする。
「照明があるのか、ランタンか? ランタンだが、中身がなんだ、火が付いているわけじゃないのか、何か光る物が入っている。持って行ってみたいが、無理だな、外せない。それにしても通路に照明か、これはやはりこのエリアは他とは違うってことだな」
2階に入って最初の通路に照明はなかった。
それがこの通路にはある。少し先で右に曲がっているようだが、そちらにも同じように照明があるのだろう、光が漏れてきていた。
角まで進んだフリアが左側を気にする。そして右側をのぞいてから一度戻ってきた。
「左に扉、でもなんか今までのと違う気がする。右は先に部屋。気配なし」
曲がり角の左側は扉だった。ぱっと見は今までのものと変わったようには見えなかったがフリアには違っているように感じたのだという。そして右側は少し先で広くなり、そこは部屋のようだった。部屋の中にも照明があるのか、壁までよく見え、突き当たり部分に扉があることが分かった。
「先に部屋を確認しよう」
指示を受けてフリアが先行する。
「正面と左に扉だね。さっきのと同じタイプの扉かな」
「左の扉はどうだ?」
「見てみるよ。鍵なし、罠なし、気配もなし。そしてノブがないね。何だろう、これ扉っていうかこっちからは開けられない? 押しても駄目かな? 駄目だね、動かない」
「開ける方法がないのか?」
「隙間から何か差し込んで引っ張ればどうにかなるのかな? んー、固い予感、これは一方通行の扉だと思った方がいいのかも。もしかしてさっきの扉もそうなのかな。似てる気がする」
強引に開けるような器具は用意がなかった。剣でも突き入れれば何とかなるのかもしれなかったが、そこで無理をする気にはなれなかった。
「ねえ、さっきの扉はノブがあったよ。試さなかったけれど、開くんじゃないかな」
フェリクスの報告を聞く限り、先ほどの扉は開けられそうだった。
「そっちの扉を試すか。開けてみれば分かるだろう」
通路に戻るとフリアが扉に張り付く。
「鍵なし、罠なし、気配なし。開けるよ」
そっと扉に手をかけると押し開ける。
「裏側を見て」
「‥‥ノブがないな。さっきの扉はこっち側から見たものかもしれん」
「分かった。何かかませて開いたままにしておくよ」
開け放した状態で扉の下に金具を挟み、その状態を維持しておけるようにする。
「これで開いていてくれたら解決だけど、どうだろ」
「ゴーストの部屋を考えるとな。離れたところで元通りにされそうだ」
ゴーストの部屋では全員が部屋に入った時点で扉は閉まった状態になってしまった。ダンジョンが一方通行を強制したいのならば、恐らくこの扉も元の閉まった状態になってしまうと予想された。
通路は少し進んだところで右への分かれ道があったが、そこでもこのエリアの特別性が確認できた。正面も、右の道も、少し進んだところで地面が石から土に変わっていたのだ。
「何だ? 土の地面か? 普通の土、だよな」
「変な色はしていないね、隅に草も生えているように見えるけれど、こんなこともあるんだ」
石組みのダンジョンが途中から様子が変わるということがないわけではないが、ここはまだ地下2階だった。しかも変わったのは明らかにエリアの切り替えを印象づけるあの動く鎧の部屋からだ。ここは特別なエリアなのだろうか。
「シャベルがあるから少し土を持って帰ろう」
「おまえ、それ持ってきていたのか」
フリアは荷物から折り畳みのシャベルを取り出しポーズを決めていた。変形を見せたかったらしい。
そのまま土に突き刺すと足を乗せ、ぐっと力を入れて土を掘り起こす。
「意外と深く入る。表面だけじゃないんだね」
シャベルの刃の部分に土を乗せて革袋にそれを入れる。口を縛ると調査の成果として荷物に加えた。
「今ちらっと見えた。そこの角を曲がると多分扉」
シャベルを折り畳んで片付けると、フリアは扉に張り付いて調べ始める。
「鍵なし、罠なし、中に気配。何だろ? ちょっとゆっくり。あんまり危険は感じないね」
場所を変わったエディが後続に視線を送り、うなずくと扉を慎重に押し開ける。
中は床一面に土の地面。壁にはコケのように見えるものがはびこり、部屋の中央には切り株のようなものがあった。
そしてその切り株の周囲をゆっくりと動く、キノコ。キノコのかさは半球型で色は茶、その下のツバの部分に目のようなくぼみがあり、白い柄の部分に短い手足が生えたような形をしている。
こちらを見ているようにも見えるが、敵意は感じない。
「マイコニドか、あの切り株が気にはなるが、入るのはやめよう」
クリストの判断でエディが扉を閉め直す。
マイコニドは人と敵対している魔物ではない。繁殖場所が人の生息地に近いと衝突が生まれることもあるが、率先して人を襲うというわけではないのだ。
「これは、この土の地面の場所はマイコニドの生息地だと思った方がいいかもな」
「今のは幼体に見えた。だとすると奥に進めば成体か、王もいるかもしれん。一大生息地が地下2階にあるのはまずいんじゃないのか」
「あふれる危険性か。広さ次第だな。マイコニドなら危険性は少ない、調べてみよう」
もう一方の通路へと進むために先ほどの分かれ道まで進む。そこから先ほどの開いたままにした扉を確認できるはずだが、果たして扉は閉まっていた。
「やっぱりか。このダンジョンは一方通行は一方通行として強制したいらしい」
挟んでおいた金具も消えていた。小細工は許さないという宣言だろうか。
分かれ道から先に進む。そこも地面は土だ。
だが少し進んだところで十字路に差し掛かり、そこは3方向が土、そしてもう1方向が元の石組みに戻っていた。
「これは、こっちの土の方はマイコニドかもしれんが、こっちは違うな。さっきの部屋の一方通行っぽい扉の方へ向かうのか。よし、こっちの土の方を確認しよう」
マイコニドの生息範囲を見るために土の地面の方へ進むことにする。2本あるうちの進行方向に向かって正面の通路に入っていくと、そこは少し進んだところで左に曲がっていた。そしてその先には。
「マイコニド、たぶんさっきのと同じ形。うろうろしているけれど、何だろ」
「生息地ではあるようだな、通り抜けられそうか?」
「たぶん大丈夫じゃないかな。行ってみる」
フリアがマイコニドの方へ進んでいく。こちらに気がついたが、特に攻撃の兆候などは見えない。
あくまでも友好的に、武器などは持たずに手を振りながら向かってくるフリアを放っておくことにしたのか、マイコニドは再びその場でうろうろとし始め、壁に手を延ばしたりといったしぐさを見せた。その手足にはコケのような草のようなものが付着していた。
「食べるものでも集めているのか? 特に危険はないようだ、この場は通らせてもらおうか」
そう判断するとマイコニドの脇を通り過ぎる。その先は部屋になっているようで、広い空間が見えた。先ほどと同じように壁にはコケのようなものが生え、そして部屋の中央には大きな切り株があった。
「さっきのと同じか? これはコケか?」
部屋に入ると切り株を確かめる。見た目は完全に普通の切り株だった。
「大きさとしてはどう考えても部屋には収まらないような高さの木になりそうだけど、考えるだけ無駄かな。これ、たぶんマイコニドたちの餌場だよね」
「そんな感じだな。このコケだけ少しもらっておくか」
マイコニドが部屋の外をうろうろしている隙を見て切り株から少しだけコケを削り取る。これを鑑定すれば少しは生態が分かるだろう。
「この部屋はこれだけか? よし、部屋を出たら右だな、通らせてもらおう」
まだ壁からコケを取るのに夢中なのか、うろうろしているマイコニドの脇を抜け、今度は右側に進むと、通路は左に折れ、先ほどの交差点に戻ってきた。
「一周しただけか。これで土の地面は終わりか? 狭いな、マイコニドがここだけなら増えるってこともなさそうだ」
「ここは大丈夫そうだね。あとはこの通路かな。この先がさっきの部屋に戻るルートなら問題なしだね」
石組みに戻っている通路へと入り、その先を確認することになる。最初の部屋の一方通行だと思われる扉へ着ければこちら側は埋まることになるがどうだろうか。
地面は土から石組みに戻り、曲がりくねった通路を進んだ先で左への分岐を確認、その先には扉があった。
「この扉がさっきのところかな、どうする? 先にそっちの先を見る?」
「のぞくだけのぞいてみてくれ。この扉も開けてみる」
「分かった、ちょっとだけ見る」
フリアが分岐に立ち入り、クリストたちは扉を開けてみた。
「さっきの部屋で確定か? 扉のノブは、ないな。これは一方通行の扉ってことでいいだろう。どうだった?」
「左に曲がって、右に曲がるんだけど、こっちは下が水だった。深くはなかったよ。ブーツのこの辺までだった」
水。先ほどは土だった。このエリアには通常の通路以外に、2種類の地面が存在しているのだ。
「水か。そうなると魔物がいたとしてそれ系だよな。部屋のそっちの扉を先に調べてみるか」
想定しやすい水場の魔物となるとフロッグ系か、あるいはマイコニドのような人型だとしてマーマンか。
「ねえ、こっちの扉も一方通行になっているみたいだよ。鍵なし、罠なし、気配なし。開けてみるね」
このエリアは一方通行の扉を使って冒険者を誘導しているのだろうか。先ほどはマイコニドのエリアだったが、こちらは何か。
「ノブなし、一方通行確定。通路になっていて前方に扉、たぶんあれも一方通行だね」
「何だ? 一方通行の扉を2枚連続で置くってのはどういう意味があるんだ?」
「そっちの扉の先にどうしても行ってほしいってことじゃない? そこまで行ったらこっちの扉には戻れないように思えるよ」
「フェリクス、この扉を開けたまま押さえておいてくれ。これで一応戻れるだろ。フリア、その扉はどうだ?」
「鍵なし、罠ないし、気配なし。開けるよ」
「ノブはないな、一方通行か。で、この先が?」
「部屋になっているね。そして真ん中に宝箱。前方に扉。うーん、あれも一方通行な予感がするよ」
「この状況で部屋の中央に箱? 嫌な予感しかしないんだが? そしてまだ一方通行が続くのか。だがここまで連続させられると戻るか進むかしかないってことにはなるよな」
「宝箱の場所が嫌な感じだね。無視する?」
「ひとまず先に進むことにはするか。念のため扉に金具を挟んでくれ」
最初の部屋の一方通行の扉を開けたままにして、全員が先に進む。そして通路の一方通行の扉を開けて部屋に入る。部屋の中央には宝箱。どう見ても何か仕掛けがありそうではあった。
そして全員が部屋に入ったところで急にバタンという音がして通路の最初の一方通行の扉が閉じた。
「さすがに戻るのは許してくれないか。わざわざ音をさせる辺りがな、嫌になる」
「この宝箱はどうする。調べるだけは調べてみるか?」
「そうだな‥‥扉の方はどうだった?」
「鍵なし、罠なし、気配は遠くの方にあるような気がした」
「何かいるのか、そこまでは行かせたいんだろうな。せっかくだ、宝箱も調べるだけは調べるか」
「分かった。見てみる」
宝箱の正面でしゃがみ込んだフリアが手を触れないようにして調べる。
「鍵穴がないね、このまま開けるしかないのかな。罠がなければいいんだけど」
蓋に手をかけ、そっと開ける。
「罠もなし、変なの、こんなに怪しいのに」
中には何か人形のようなものが入っていた。
人の像のようだったが頭と手が違っていた。頭はエビかザリガニのよう、そして手はハサミになっていた。ということはザリガニのつもりだろうか。
色は艶のある黒に白い横しまの線が幾本も見て取れた。宝飾品ということで良いのだろうか。
「まあ、それも成果か。こんな怪しいくせに普通に宝が入っているとそれはそれでおかしな感じはするな」
だが、フリアがそれを箱から取り上げた瞬間、ガコンという嫌な音がした。
「何だ、今の音は」
ズリ、という何かが強くこすれる音がし始める。ズリ、ズリ。
「上から、何だろ、こすれる音‥‥待って、天井下がってない?」
え、と全員が上を見る。
ズリ
ズリ
「やばい、移動だ」
クリストが身を翻し、部屋のまだ開けていない扉に取り付くと、すぐにそれを開けた。
「出ろ! 急げ!」
天井の下降はゆっくりとだ。急ぐ必要はあるが慌てる必要はない。
全員が部屋から出たところでまだ天井は扉の位置までも下がってはいなかった。
ズリ、ズリ、とゆっくりと下がり続けている。
「こういう仕掛けだったか。戻っていたら一方通行の扉と下がりきった天井とに挟まれて身動きがとれなくなる。進むしかない仕掛けではあったな」
「これを持ち上げるのが罠だったんだね。でも別に箱の底が上がった風でもなかったから、別の仕組みなのかな。危険察知にも何にも引っかかってこないし、ここのダンジョンはちょっとおかしいよ」
「どうにもこのダンジョンは冒険者に対して思うところがあるようだからな。天井が下がってくるところを見せたかったのかもしれないぞ」
「そしてたぶんこの先のものも見せたいんでしょうね。さっきから水の音がしているわ」
「うん。正面と左の通路の先、両方何かいると思う。どっちも1体ずつかな」
下がってきた天井によって半分程度まで埋まってしまった扉を背に、通路の先を見る。
左に分かれ道、そして正面は途中から地面を水が覆っていた。壁の照明によって照らされ、緩やかに波打っている様子を見ることができる。その正面の通路の先は広く部屋になっていて、そこも足首程度の深さなのだろうか、水に満たされていた。
「よし、休憩終わり。ここからは魔法の残りで決めることになるな。行けそうなところまで行ってみるか」
さすがに地下2階でそこまで強力な魔法を連発するような状況を想定していなかったということもあって、回復魔法にはまだ余裕があるが、いざというときの魔法の残りが心許なかった。まだ無理をするような段階ではないのだ。行けるところまでと決めて調査を再開した。
「扉に鍵なし、気配なし。開けるよ」
扉を開けたところでこれまでとの違いがはっきりする。
「照明があるのか、ランタンか? ランタンだが、中身がなんだ、火が付いているわけじゃないのか、何か光る物が入っている。持って行ってみたいが、無理だな、外せない。それにしても通路に照明か、これはやはりこのエリアは他とは違うってことだな」
2階に入って最初の通路に照明はなかった。
それがこの通路にはある。少し先で右に曲がっているようだが、そちらにも同じように照明があるのだろう、光が漏れてきていた。
角まで進んだフリアが左側を気にする。そして右側をのぞいてから一度戻ってきた。
「左に扉、でもなんか今までのと違う気がする。右は先に部屋。気配なし」
曲がり角の左側は扉だった。ぱっと見は今までのものと変わったようには見えなかったがフリアには違っているように感じたのだという。そして右側は少し先で広くなり、そこは部屋のようだった。部屋の中にも照明があるのか、壁までよく見え、突き当たり部分に扉があることが分かった。
「先に部屋を確認しよう」
指示を受けてフリアが先行する。
「正面と左に扉だね。さっきのと同じタイプの扉かな」
「左の扉はどうだ?」
「見てみるよ。鍵なし、罠なし、気配もなし。そしてノブがないね。何だろう、これ扉っていうかこっちからは開けられない? 押しても駄目かな? 駄目だね、動かない」
「開ける方法がないのか?」
「隙間から何か差し込んで引っ張ればどうにかなるのかな? んー、固い予感、これは一方通行の扉だと思った方がいいのかも。もしかしてさっきの扉もそうなのかな。似てる気がする」
強引に開けるような器具は用意がなかった。剣でも突き入れれば何とかなるのかもしれなかったが、そこで無理をする気にはなれなかった。
「ねえ、さっきの扉はノブがあったよ。試さなかったけれど、開くんじゃないかな」
フェリクスの報告を聞く限り、先ほどの扉は開けられそうだった。
「そっちの扉を試すか。開けてみれば分かるだろう」
通路に戻るとフリアが扉に張り付く。
「鍵なし、罠なし、気配なし。開けるよ」
そっと扉に手をかけると押し開ける。
「裏側を見て」
「‥‥ノブがないな。さっきの扉はこっち側から見たものかもしれん」
「分かった。何かかませて開いたままにしておくよ」
開け放した状態で扉の下に金具を挟み、その状態を維持しておけるようにする。
「これで開いていてくれたら解決だけど、どうだろ」
「ゴーストの部屋を考えるとな。離れたところで元通りにされそうだ」
ゴーストの部屋では全員が部屋に入った時点で扉は閉まった状態になってしまった。ダンジョンが一方通行を強制したいのならば、恐らくこの扉も元の閉まった状態になってしまうと予想された。
通路は少し進んだところで右への分かれ道があったが、そこでもこのエリアの特別性が確認できた。正面も、右の道も、少し進んだところで地面が石から土に変わっていたのだ。
「何だ? 土の地面か? 普通の土、だよな」
「変な色はしていないね、隅に草も生えているように見えるけれど、こんなこともあるんだ」
石組みのダンジョンが途中から様子が変わるということがないわけではないが、ここはまだ地下2階だった。しかも変わったのは明らかにエリアの切り替えを印象づけるあの動く鎧の部屋からだ。ここは特別なエリアなのだろうか。
「シャベルがあるから少し土を持って帰ろう」
「おまえ、それ持ってきていたのか」
フリアは荷物から折り畳みのシャベルを取り出しポーズを決めていた。変形を見せたかったらしい。
そのまま土に突き刺すと足を乗せ、ぐっと力を入れて土を掘り起こす。
「意外と深く入る。表面だけじゃないんだね」
シャベルの刃の部分に土を乗せて革袋にそれを入れる。口を縛ると調査の成果として荷物に加えた。
「今ちらっと見えた。そこの角を曲がると多分扉」
シャベルを折り畳んで片付けると、フリアは扉に張り付いて調べ始める。
「鍵なし、罠なし、中に気配。何だろ? ちょっとゆっくり。あんまり危険は感じないね」
場所を変わったエディが後続に視線を送り、うなずくと扉を慎重に押し開ける。
中は床一面に土の地面。壁にはコケのように見えるものがはびこり、部屋の中央には切り株のようなものがあった。
そしてその切り株の周囲をゆっくりと動く、キノコ。キノコのかさは半球型で色は茶、その下のツバの部分に目のようなくぼみがあり、白い柄の部分に短い手足が生えたような形をしている。
こちらを見ているようにも見えるが、敵意は感じない。
「マイコニドか、あの切り株が気にはなるが、入るのはやめよう」
クリストの判断でエディが扉を閉め直す。
マイコニドは人と敵対している魔物ではない。繁殖場所が人の生息地に近いと衝突が生まれることもあるが、率先して人を襲うというわけではないのだ。
「これは、この土の地面の場所はマイコニドの生息地だと思った方がいいかもな」
「今のは幼体に見えた。だとすると奥に進めば成体か、王もいるかもしれん。一大生息地が地下2階にあるのはまずいんじゃないのか」
「あふれる危険性か。広さ次第だな。マイコニドなら危険性は少ない、調べてみよう」
もう一方の通路へと進むために先ほどの分かれ道まで進む。そこから先ほどの開いたままにした扉を確認できるはずだが、果たして扉は閉まっていた。
「やっぱりか。このダンジョンは一方通行は一方通行として強制したいらしい」
挟んでおいた金具も消えていた。小細工は許さないという宣言だろうか。
分かれ道から先に進む。そこも地面は土だ。
だが少し進んだところで十字路に差し掛かり、そこは3方向が土、そしてもう1方向が元の石組みに戻っていた。
「これは、こっちの土の方はマイコニドかもしれんが、こっちは違うな。さっきの部屋の一方通行っぽい扉の方へ向かうのか。よし、こっちの土の方を確認しよう」
マイコニドの生息範囲を見るために土の地面の方へ進むことにする。2本あるうちの進行方向に向かって正面の通路に入っていくと、そこは少し進んだところで左に曲がっていた。そしてその先には。
「マイコニド、たぶんさっきのと同じ形。うろうろしているけれど、何だろ」
「生息地ではあるようだな、通り抜けられそうか?」
「たぶん大丈夫じゃないかな。行ってみる」
フリアがマイコニドの方へ進んでいく。こちらに気がついたが、特に攻撃の兆候などは見えない。
あくまでも友好的に、武器などは持たずに手を振りながら向かってくるフリアを放っておくことにしたのか、マイコニドは再びその場でうろうろとし始め、壁に手を延ばしたりといったしぐさを見せた。その手足にはコケのような草のようなものが付着していた。
「食べるものでも集めているのか? 特に危険はないようだ、この場は通らせてもらおうか」
そう判断するとマイコニドの脇を通り過ぎる。その先は部屋になっているようで、広い空間が見えた。先ほどと同じように壁にはコケのようなものが生え、そして部屋の中央には大きな切り株があった。
「さっきのと同じか? これはコケか?」
部屋に入ると切り株を確かめる。見た目は完全に普通の切り株だった。
「大きさとしてはどう考えても部屋には収まらないような高さの木になりそうだけど、考えるだけ無駄かな。これ、たぶんマイコニドたちの餌場だよね」
「そんな感じだな。このコケだけ少しもらっておくか」
マイコニドが部屋の外をうろうろしている隙を見て切り株から少しだけコケを削り取る。これを鑑定すれば少しは生態が分かるだろう。
「この部屋はこれだけか? よし、部屋を出たら右だな、通らせてもらおう」
まだ壁からコケを取るのに夢中なのか、うろうろしているマイコニドの脇を抜け、今度は右側に進むと、通路は左に折れ、先ほどの交差点に戻ってきた。
「一周しただけか。これで土の地面は終わりか? 狭いな、マイコニドがここだけなら増えるってこともなさそうだ」
「ここは大丈夫そうだね。あとはこの通路かな。この先がさっきの部屋に戻るルートなら問題なしだね」
石組みに戻っている通路へと入り、その先を確認することになる。最初の部屋の一方通行だと思われる扉へ着ければこちら側は埋まることになるがどうだろうか。
地面は土から石組みに戻り、曲がりくねった通路を進んだ先で左への分岐を確認、その先には扉があった。
「この扉がさっきのところかな、どうする? 先にそっちの先を見る?」
「のぞくだけのぞいてみてくれ。この扉も開けてみる」
「分かった、ちょっとだけ見る」
フリアが分岐に立ち入り、クリストたちは扉を開けてみた。
「さっきの部屋で確定か? 扉のノブは、ないな。これは一方通行の扉ってことでいいだろう。どうだった?」
「左に曲がって、右に曲がるんだけど、こっちは下が水だった。深くはなかったよ。ブーツのこの辺までだった」
水。先ほどは土だった。このエリアには通常の通路以外に、2種類の地面が存在しているのだ。
「水か。そうなると魔物がいたとしてそれ系だよな。部屋のそっちの扉を先に調べてみるか」
想定しやすい水場の魔物となるとフロッグ系か、あるいはマイコニドのような人型だとしてマーマンか。
「ねえ、こっちの扉も一方通行になっているみたいだよ。鍵なし、罠なし、気配なし。開けてみるね」
このエリアは一方通行の扉を使って冒険者を誘導しているのだろうか。先ほどはマイコニドのエリアだったが、こちらは何か。
「ノブなし、一方通行確定。通路になっていて前方に扉、たぶんあれも一方通行だね」
「何だ? 一方通行の扉を2枚連続で置くってのはどういう意味があるんだ?」
「そっちの扉の先にどうしても行ってほしいってことじゃない? そこまで行ったらこっちの扉には戻れないように思えるよ」
「フェリクス、この扉を開けたまま押さえておいてくれ。これで一応戻れるだろ。フリア、その扉はどうだ?」
「鍵なし、罠ないし、気配なし。開けるよ」
「ノブはないな、一方通行か。で、この先が?」
「部屋になっているね。そして真ん中に宝箱。前方に扉。うーん、あれも一方通行な予感がするよ」
「この状況で部屋の中央に箱? 嫌な予感しかしないんだが? そしてまだ一方通行が続くのか。だがここまで連続させられると戻るか進むかしかないってことにはなるよな」
「宝箱の場所が嫌な感じだね。無視する?」
「ひとまず先に進むことにはするか。念のため扉に金具を挟んでくれ」
最初の部屋の一方通行の扉を開けたままにして、全員が先に進む。そして通路の一方通行の扉を開けて部屋に入る。部屋の中央には宝箱。どう見ても何か仕掛けがありそうではあった。
そして全員が部屋に入ったところで急にバタンという音がして通路の最初の一方通行の扉が閉じた。
「さすがに戻るのは許してくれないか。わざわざ音をさせる辺りがな、嫌になる」
「この宝箱はどうする。調べるだけは調べてみるか?」
「そうだな‥‥扉の方はどうだった?」
「鍵なし、罠なし、気配は遠くの方にあるような気がした」
「何かいるのか、そこまでは行かせたいんだろうな。せっかくだ、宝箱も調べるだけは調べるか」
「分かった。見てみる」
宝箱の正面でしゃがみ込んだフリアが手を触れないようにして調べる。
「鍵穴がないね、このまま開けるしかないのかな。罠がなければいいんだけど」
蓋に手をかけ、そっと開ける。
「罠もなし、変なの、こんなに怪しいのに」
中には何か人形のようなものが入っていた。
人の像のようだったが頭と手が違っていた。頭はエビかザリガニのよう、そして手はハサミになっていた。ということはザリガニのつもりだろうか。
色は艶のある黒に白い横しまの線が幾本も見て取れた。宝飾品ということで良いのだろうか。
「まあ、それも成果か。こんな怪しいくせに普通に宝が入っているとそれはそれでおかしな感じはするな」
だが、フリアがそれを箱から取り上げた瞬間、ガコンという嫌な音がした。
「何だ、今の音は」
ズリ、という何かが強くこすれる音がし始める。ズリ、ズリ。
「上から、何だろ、こすれる音‥‥待って、天井下がってない?」
え、と全員が上を見る。
ズリ
ズリ
「やばい、移動だ」
クリストが身を翻し、部屋のまだ開けていない扉に取り付くと、すぐにそれを開けた。
「出ろ! 急げ!」
天井の下降はゆっくりとだ。急ぐ必要はあるが慌てる必要はない。
全員が部屋から出たところでまだ天井は扉の位置までも下がってはいなかった。
ズリ、ズリ、とゆっくりと下がり続けている。
「こういう仕掛けだったか。戻っていたら一方通行の扉と下がりきった天井とに挟まれて身動きがとれなくなる。進むしかない仕掛けではあったな」
「これを持ち上げるのが罠だったんだね。でも別に箱の底が上がった風でもなかったから、別の仕組みなのかな。危険察知にも何にも引っかかってこないし、ここのダンジョンはちょっとおかしいよ」
「どうにもこのダンジョンは冒険者に対して思うところがあるようだからな。天井が下がってくるところを見せたかったのかもしれないぞ」
「そしてたぶんこの先のものも見せたいんでしょうね。さっきから水の音がしているわ」
「うん。正面と左の通路の先、両方何かいると思う。どっちも1体ずつかな」
下がってきた天井によって半分程度まで埋まってしまった扉を背に、通路の先を見る。
左に分かれ道、そして正面は途中から地面を水が覆っていた。壁の照明によって照らされ、緩やかに波打っている様子を見ることができる。その正面の通路の先は広く部屋になっていて、そこも足首程度の深さなのだろうか、水に満たされていた。
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ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
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序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた
砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。
彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。
そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。
死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。
その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。
しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、
主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。
自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、
寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。
結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、
自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……?
更新は昼頃になります。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
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チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
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