上 下
8 / 11

8 明日までの夢を

しおりを挟む
 

「あの……中尉……えっと、するんすよね……?」
「うん、するする。でももうちょっと……」
「もーさっきからそればっかじゃないっすか。……たしかにこれも良いっすけど……」
 リリアは、ベッドのふかふかの布団に二人でくるまりながら、ジャックの頭をぎゅっと胸に抱き寄せて、よしよしと赤髪の頭を撫でてご満悦だった。
「はぁ……ジャック可愛い。前からこうしたかったの。ジャック、可愛いね」
 キスをした後。
 ジャックは、リリアの様子を見ながら、優しくも性急に事を進めようとしてくれた。
 ジャケットを脱ぎ、でもリリアのパーカーは可愛いから脱がないでくれ、と頼まれ。ジャックが二人の耳のデバイスを外して、応接セットの机に置いてくれて……。
 ジャックにエスコートされ、リリアは柔らかなベッドに横たわった。
 そのまま……リリアもおとなしく身を任せようと思っていたのだ。
 最初は……。
 しかし、いざジャックを前にして、そういう空間にいるのだと思えば……ずっと我慢してきた、ジャックを可愛がりたい欲が溢れ出てきて……。
 あれよあれよと言う間にこんな状況になってしまったのだった。
「ジャック可愛い。好き」
 いままで我慢してきた分、本人に素直に伝えられるのは気持ちよかった。
 ジャックの頭にちゅっとキスを落とせば、リリアの腕の中でジャックが「ぐぅ…」と唸った。リリアを抱きしめるジャックの腕の力が強くなる。
「……くっそ…これで待てとか……生殺しじゃんか」
 悪態をついてはいるが、ジャックもただ、待っているわけではなかった。
 黒のスパッツに包まれたリリアの小ぶりなお尻は、ジャックの二つ手のひらの中に文字通り掌握されてしまっていて、柔らかくもみもみと揉まれている。
 いわば、ジャックの頭とリリアのお尻とを等価交換してお互いに堪能しているような状況だ。
「ぁ…ん……っ、ジャック、ねぇ駄目だってば。まだこうしてたいの」
 ときどき、悪戯なジャックの指先が、リリアの双丘の割れ目に入り込み、いけないところを突いたり、優しくさすってくる。
 それに、ジャックがリリアの匂いを思う存分、すんすん嗅いで堪能しているのをリリアは知っていた。
「中尉のお尻、俺の手のひらにぴったり。柔らかくて気持ちいい……。お尻もちっさくて可愛いですね」
「んっ……ゃ、ジャック、お尻広げちゃ駄目ぇ……ぁ」
 割れ目を開くように、左右に、もにゅっと尻たぶを開かれれば、布団のなかで誰にも見えないとはいっても、羞恥心が湧き起こった
「中尉のここ、スパッツとパンツ越しだけど、ちょっと湿って来てますね」
「ッ、ん……言わないで」
「っふふ、アイスウィッチな中尉、どこ行っちゃったんですか?」
「ぁ……、っ、アイスウィッチなんて、……ん、周りの人たちが勝手に言い出しただけだもの。……ジャック、こんな私じゃ嫌?」
 さすがにちょっと不安になって、少し体を離し、いまは下にあるジャックの顔を見下ろした。
 星明かりに照らされたジャックの顔が、真っ直ぐにリリアを見上げて来た。その焦茶の瞳には、隠しきれない欲が宿っていて。
「嫌じゃ……ないっすけど。中尉が俺のことこんなに好きって、知らなかったですし。嬉しいっす。………でも、俺ら、明日もあるんすから、あんまり遅くなって、中尉と繋がれなかったら残念っていうか。嫌だなって……」
 ちょっとむすっと拗ねてしまっていた。
 か、……。
「可愛い。ジャックたん、いい子いい子」
 思わずまた、よしよしと頭を撫でてしまう。
 いやいや本当に、馬鹿にしているわけでは決してないのだが、止められない。
 しかしついに、その手をがしっとジャックに掴まれてしまった。
「中尉! これもいいっすけど、俺、中尉ともっと大人なことしたいっす!」
 いまだお尻を揉んでいたジャックの片手が、さすさすとリリアの割れ目を優しく往復する。
「ぁ……ッ、ん」
「中尉……いや、リリアって呼んでいいっすか。今夜だけ」
「………………うん」
「リリア」
 夜の色をのせて囁かれたジャックの低い声に、リリアの肌がぞくっと粟立つ。
 同時に、切なさが込み上げた。
(……レイカって呼んでほしい)
 でもそれはできない。
 しかし、八年も『リリア』として生きて来たから、「私のことだ」と歓喜する心もあって。
 二つの自分がブレながらも、いまはただ、ジャックを求めていた。
「リリア」
「ジャックの声、……っ、エッチすぎない?」
 堪らずそう囁けば、ジャックがにっと笑った。
「エロくしてるんです」
 お尻に回っていたジャックの腕が離れ、一番上まで上げていた、パーカーのファスナーのつまみにジャックの指先がかかる。
「いいっすね?」
 名残惜しいがしょうがない。
 リリアはこくんと頷いた。
 じじじっとファスナーが下ろされ、白のタンクトップと黒のスポブラが覗いた。
 ジャックがまじまじと見てくるものだから、さすがに恥ずかしい。
「……胸、無くて悪かったわね」
 いたたまれずに憎まれ口を叩けば、ジャックが「いえ」と首を振った。
「こんなこと言ったら中尉は怒りそうですけど、無いのは知ってたんで。それは別にいいって言うか。……中尉の部屋着っていつもこんな感じなんですか?」
「え? ……うん」
 質問の意図が掴めずに頷くと、ジャックがぼそっと「えろ」と呟いた。
「俺、こんな格好の中尉を抱きしめながら、いちゃいちゃソファで映画とか見たいです」
 それは。
「ジャック可愛い。私もしたい」
 ポップコーンでも摘みながら、ジャックに後ろから抱きしめられて、手を繋いで。
 絶対幸せだ。
 仕事の疲れが癒やされること間違いなし。
(叶わない夢だけど……)
「あー待った! もー中尉、すぐその可愛いモード入るんすから。……俺のこと大好きなのはわかったすけど……。お、俺も中尉のこと大好きですけど。……いまは禁止です」
「…………うん」
 最後にもう一度だけよしよしと赤髪の頭を撫でて「大好き」と囁き、名残惜しくも手を離してジャックの前に「おしまい」と両手を見せた。
 ジャックはちょっと寂しそうな顔をつつも、「OKっす」と頷いた。
「ちゃんと睡眠時間は確保するんで。……いや、そうできるように努力します。最大限……うん」
 決意を秘めて、ジャックの唇がきゅっと引き絞られる。
「……あのね、ジャック。引かないで聞いて欲しいんだけど」
「なんすか?」
「…………実は、明日の私たちの休みは申請して来たし、この部屋も昼まで取ってるから、その……」
 そこから先を口籠もっていると、ぽかんと口を開けたジャックが、やがて、顔を赤くしながらにまっと笑って、嬉しそうに抱きついて来た。
「中尉、エロすぎ」
「馬鹿!」
「へへっ、じゃ、中尉のこと、たくさん抱いてあげますね。一晩中。……俺も中尉のこと、全部覚えておきたいですし」
 ひとばんじゅう……?
 やや不穏な単語を、リリアは心の中だけで反芻した。
 そりゃお互い、鍛えている軍人同士、やろうと思えばできないことはないかもしれないが、さすがに比喩表現だろう。
(まぁでも、なにかあったらジャックを抑えこめばいい話だし)
 体術に関してはリリアに敵ない。
 体格差があろうと、ポイントを押さえれば、ひょいとなんとかなるものだ。
「……ジャックも十分えろいじゃない。……すけべ」
「エロいことしにきてるんですからいんです」
 言い切られてしまえば、たしかにそうだ、と思った。
 エロいことをしにきたのだった。
 ジャックと。
「……………それも、そっか」
 ふふ、とリリアも笑みを返した。
 こんな他愛無いやり取りすら、なんだか嬉しかった。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

私だけが赤の他人

有沢真尋
恋愛
 私は母の不倫により、愛人との間に生まれた不義の子だ。  この家で、私だけが赤の他人。そんな私に、家族は優しくしてくれるけれど……。 (他サイトにも公開しています)

結婚して5年、初めて口を利きました

宮野 楓
恋愛
―――出会って、結婚して5年。一度も口を聞いたことがない。 ミリエルと旦那様であるロイスの政略結婚が他と違う点を挙げよ、と言えばこれに尽きるだろう。 その二人が5年の月日を経て邂逅するとき

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

【完結】イケメン外国人と親交を深めたつもりが、イケメン異星人と恋人契約交わしてました!

一茅苑呼
恋愛
【年上アラフォー女子✕年下イケメン外国人(?)のSFちっく☆ラブコメディ】 ❖柴崎(しばさき) 秋良(あきら) 39歳 偏見をもたない大ざっぱな性格。時に毒舌(年相応) 物事を冷めた目で見ていて、なぜか昔から外国人に好かれる。 ❖クライシチャクリ・ダーオルング 31歳 愛称ライ。素直で裏表がなく、明るい性格。 日本のアニメと少年漫画をこよなく愛するイケメン外国人。……かと思いきや。 いえ、彼は『グレイな隣人』で、のちに『グレイな恋人』になるのです(笑) ※他サイトでも掲載してます。 ❖❖❖表紙絵はAIイラストです❖❖❖

処理中です...