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6 星空の部屋

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「……わぁっ」
 途端、部屋の奥の窓ガラスを覆っていた、真っ黒なカーテン用ホログラムがふっと消えて、外の美しい星空がぱっと目に飛び込んできた。
 窓ガラスは部屋の奥の全面と、天井部分まで、ゆるやかなカーブを描いて続いていて、部屋を柔らかな星明かりで照らしている。
 その星明かりを邪魔しないようにだろう。部屋自体の明かりは最小限に抑えられ、星空の下、暖色の間接照明のなかにシックな内装の室内がぼんやりと浮かび上がっていて幻想的だった。
「なにこれ……すげぇ」
 ジャックからも感嘆の声が上がったのを、リリアはなんとなく、誇らしい気持ちで聞いた。
(良い部屋を取れてよかった)
 まぁその分、お値段もそれなりにした。
 中尉としての給金は結構な額を貰っているから、支払いは余裕だったが、一般兵には厳しい額だろうと思った。おそらくそのおかげもあって、空いていたのだろう。
 部屋は、奥の窓ガラスに向かって、かなりゆるやかな階段状になっていた。
 一番下の、リリアとジャックが立っているところには、簡易の応接セット、一段上がったところには頭上の星空を眺められるキングサイズのベッド、そのさらに一段上には、星空が見える窓に向かって円形のソファーセットが置かれている。
 予約のとき、リリアはあらかじめ部屋の写真を確認していたが、実物はさらに整っていて、驚いた。サイトの説明によれば、窓も、室内からは星空が見えるが、外からはホログラムカーテンで黒くしか見えないそうだ。
 念の為、耳のデバイスに仕込んである、探査スキャナーで室内をスキャンしてみたが、カメラや盗聴器の類は見当たらなかった。もちろん、不審物もだ。管理が行き届いている証拠だろう。
(これはちょっと……あとで追加のチップを入金しておこうかな)
 それくらい、雰囲気の良い部屋だった。
 リリアは部屋に向かって手のひらを広げて、ジャックに向かってにっと笑いかけた。
「404番地、……の一室よ」
 ジャックの目がまんまるになる。
「えっ、ここが!? 先輩たち、こんな良いとこ内緒にしてたんですか?」
 ひゃーっと言いつつ、ジャックが部屋をぐるりと見渡す。
「一室ってことは、他にもこういうとこあるんすか?」
「うん。何箇所かね」
 その視線が、部屋のなかであからさまな存在感を放つ、キングサイズのベッドに止まった。
 繋いでいた手に、ぎゅっと力が込められる。
「あの、中尉。……これってその、OKってこと、ですよね?」
 ジャックの視線が自分の顔に移動してきたのを察して、リリアは袖で口元を覆って、視線を逸らした。自分の横顔に、ジャックの視線が刺さっているのがわかる。
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