絶滅の旅

古野ジョン

文字の大きさ
上 下
6 / 15

第五話 同業者

しおりを挟む
俺とゼロはレイナのトロッコを拝借して、一気に北上していた。
「タツヤさん、トロッコって便利ですねえ~!」
「まさしく車輪の再発明って奴だな」
「なんですか~、それ~?」
こんな世界じゃ車輪どころかオーパーツのお前が何を言ってるんだ。
俺とゼロは何回か交代しながら、北へ北へとトロッコを漕いでいった。


「タツヤさん、大きい高架橋です~!」
ある廃駅に近づいた頃、ゼロがそう言ってきた。
「まもなく一関だな。市街地だから生体反応があるかもしれん」
「はいッ!警戒しておきますッ!ぴぴぴぴ……」
そう言うと、ゼロは両手の人差し指を顔に持ってきて、触角の真似をしていた。
昨夜のコイツと今のコイツが同じだとは思えんな。
そう思っていると、ゼロが――
「タツヤさん、生体反応ですッ!市街地の方!」
「そうか。何人くらいだ?」
「若い男の人が一人……あっ」
「どうした、ゼロ?」
「多分……収束官の方です。衛星から、市街地に別の兄弟がいると通信を受けました。」
なるほどね。


それから間もなく、俺とゼロは旧一関市に着いた。
まわりの生体反応をうかがいつつ、廃駅跡を出ると――
既に二人が待ち構えていた。
「ようタツヤ!久しぶりだな!!」
「お久しぶりです。タナカ収束官。」
ヨシカワマサトにベルナデッタだ。
マサトは俺と同い年で、収束官をやっている。
不真面目な奴だから、コートとズボンは捨てて半袖半ズボンで仕事をしている。
ベルナデッタはゼロのタイプ違いらしいが、詳しいことは分からない。
旧文明収束官補助用有機型人工知能であることは間違いないが。
「しばらくだな、マサトにベルナデッタ。」
「ああ!ところで、ゼロちゃんはどこに?」
あれ?どこに消えたんだ?そう思っていると――
「ゼロお姉さま、いつまでタナカ収束官に隠れているのですか。」
「ふえ!?」
……俺の背後に隠れていたようだ。
どうやら、ゼロはベルナデッタが苦手らしい。


それから、俺はマサトと二人で情報交換をした。
「つまり、一関市街にはほとんど人は残っていないということか?」
「ああ、俺とベルナデッタでほとんどやっちまった。もう人っ子ひとりいねえな」
「そうか。一関には何か月いたんだ?」
「一か月はいたね。市街地は遮蔽物が多くて生体反応が見つからないもんでね」
俺たちがこんな調子で話をしている間に、ゼロとベルナデッタも情報交換をしているようだった。
もっとも、ベルナデッタが一方的に詰めてゼロを泣かしているだけにも見えたが……


ある程度話が済んだあと、マサトがこちらに顔を寄せてきた。
マサトにしては珍しく真剣な顔で、
「それからな、これはさっき俺が計算して分かったんだが――今年の夏は『大熱波』になるぞ。」
――と告げた。
俺は戸惑い、
「大熱波?周期的には今年じゃないだろう?」
と聞き返した。
「どうやらまた周期が変わったらしいんだ。今年の夏は、宮城以南は全て居住不能だ」
そうだったのか……。
ふと、長老様たちのことを思い出してしまった。
彼女たちは、どちらにせよ生きのびることは無かったのか……。
「っておいタツヤ、聞いてるか?」
「ああ、すまない。少し考え事をしていた。それでマサトはどうするんだ?」
「今年の越夏をどうするか考えてな」
「ああ、お前のベースは仙台だったな。俺たちのベースで一緒に越夏するか?」
ゼロは嫌がりそうだな。
「まあ、それもいいがな――少し考えてみるよ。」
マサトは思いつめたような顔で、そう告げた。
「タツヤさ~ん、ベルナデッタがいじめてくるんですよ~!」
声がした方を見ると、相変わらずゼロが泣きべそをかいていた。
アイツにはもうちょっと思いつめてほしい。


俺たち四人は廃駅跡で夜を明かした。
朝、俺とゼロは再び北上すべく出発の準備をしていた。
「マサト、結局どうするんだ?」
俺は、同じく出発の準備をしていたマサトに問いかけた。
マサトたちが来るなら、トロッコに乗りきらないかもな……
そんなことを考えていると、マサトは思いもよらない返事をしてきた。
「俺たち、南下するよ」
「え?」
そろそろ六月になり、夏が来る。ましてや大熱波だ。
そんなときに南下すれば、マサトはともかくベルナデッタですら危うい。
「マサト、正気か?」
「正気だよ。大熱波のもとで生きていられる人間はいない。ってことは、宮城以南にはこれから苦しんで死ぬ人間がいるってことだろう?だったら、その前に死なせてやるのが俺たちの仕事じゃないか。」
……俺はとんだ勘違いをしていた。
服装規定を守らず、どこかちゃらんぽらんな雰囲気で仕事をする――
それがマサトに対する印象だった。
だけど、こいつは違う。
自らの使命を理解し、それに忠実に生きる――
そういう男だったのだ。
「そうか。本当にいいんだな?」
俺はマサトに問うた。
「いいさ!それが俺の仕事ってもんだろう?」
「だけど、ベルナデッタはどうするんだ。大熱波じゃ、あいつも無事では済まないぞ」
「心配ありません。」
ベルナデッタが割り込んできた。
「私の使命はマサト様の補助をすることです。私はその使命を忠実に果たすべく、マサト様と共に参ります。」
なるほど。
ゼロとベルナデッタはまるで違うが、仕事に真面目な点は同じようだった。
「うえ~んベルナデッタ~~!!!」
今度はゼロが大泣きで割り込んできた。
「ゼロお姉さま、泣かないでください。私は職務を全うするまでです。」
「そんなごどいいがらあ~~!!私のベーズで越夏じよ"う"よ"~~~~~!!!」
昨日よりもさらに大泣きだな、全く。
なんだかんだ言っても、ゼロにとっては大事な妹のようだった。


大泣きするゼロを宥めながら、俺たちはトロッコの置いてあるホームに向かった。
しかしいざ出発しようとすると――
「あれ?トロッコがないな」
「タツヤさん、あそこ!」
ゼロの指さす方を見ると、マサトたちがトロッコを南方向に向かって漕いでいた。
そして、
「タツヤーー!!!いいトロッコだな、借りていくぜーーーー!!!!!」
そう叫んで、ベルナデッタと共に南の方へ消えていった。


ちゃんと返しに来いよ、マサト。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

EX級アーティファクト化した介護用ガイノイドと行く未来異星世界遺跡探索~君と添い遂げるために~

青空顎門
SF
病で余命宣告を受けた主人公。彼は介護用に購入した最愛のガイノイド(女性型アンドロイド)の腕の中で息絶えた……はずだったが、気づくと彼女と共に見知らぬ場所にいた。そこは遥か未来――時空間転移技術が暴走して崩壊した後の時代、宇宙の遥か彼方の辺境惑星だった。男はファンタジーの如く高度な技術の名残が散見される世界で、今度こそ彼女と添い遂げるために未来の超文明の遺跡を巡っていく。 ※小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様、ノベルバ様にも掲載しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鉄錆の女王機兵

荻原数馬
SF
戦車と一体化した四肢無き女王と、荒野に生きる鉄騎士の物語。 荒廃した世界。 暴走したDNA、ミュータントの跳梁跋扈する荒野。 恐るべき異形の化け物の前に、命は無残に散る。 ミュータントに攫われた少女は 闇の中で、赤く光る無数の目に囲まれ 絶望の中で食われ死ぬ定めにあった。 奇跡か、あるいはさらなる絶望の罠か。 死に場所を求めた男によって助け出されたが 美しき四肢は無残に食いちぎられた後である。 慈悲無き世界で二人に迫る、甘美なる死の誘惑。 その先に求めた生、災厄の箱に残ったものは 戦車と一体化し、戦い続ける宿命。 愛だけが、か細い未来を照らし出す。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

戦争と平和

澤村 通雄
SF
世界が戦争に。 私はたちの日本もズルズルと巻き込まれていく。 あってはならない未来。 平和とは何か。 戦争は。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...