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第三部 怪物の夢
第四十七話 第一ラウンド
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森山が投球練習を始めると、スタジアム中の視線が一気にマウンドに集まった。その快速球と破壊的な捕球音に、見る者全てが圧倒されている。
「久保も凄かったけど、こっちも凄いな」
「こりゃ楽しみな対戦だ」
雄大はその様子をじっと見つめ、集中力を高めていた。間もなく練習が終わり、森山はふうと息をつく。アナウンスが流れ、大林高校の応援席が一気に沸いた。
「バッターは、四番、ピッチャー、久保雄大くん」
「頼むぞ四番ー!」
「お前もホームラン打てー!」
声援を背に受け、マウンドに対する雄大。彼は一年前の準決勝を思い出しながら、この打席に対する決意を固めていた。
(あの時もツーアウト満塁だったけど、打てなかった。今年こそは)
一方の森山は、マウンド上で堂々とした振る舞いを見せていた。健二のサインを見たあと、セットポジションに入って各塁のランナーを見る。彼はこの状況でも動揺せず、なすべきことをきちんとこなすことが出来ていた。
「いきなりすごい場面ですね」
「ここで雄大が出端を挫くことが出来れば、うちに流れが来る。絶対に打ってほしい」
ベンチの二人も、雄大に熱い期待を寄せていた。大林高校は先発の松下を攻略し、エースの森山を引きずり出すことに成功した。ここで森山を叩けば、一気に試合の主導権を奪い返すことが出来るというわけだ。
(勝負だ、森山)
雄大は小さく息を吐き、集中力を極限まで高めた。そして両校の応援席から大歓声が響く中、森山は小さく足を上げ、その右腕を振るった。彼の指から解き放たれた白球が、唸りを上げて突き進んでいく。雄大はテイクバックを取り、一気にスイングを開始した。
(真っすぐだ、打てる!)
高めのストレートだったが、彼は迷わずフルスイングを仕掛けた。しかしバットはボールの下を叩いてしまった。痛烈なファウルボールがバックネットに突き刺さり、観客席が一気にどよめいた。
「ファウルボール!!」
「「おお~~」」
スコアボードには「156」の数字が表示され、森山が自己最速の直球を投じたことを示していた。しかし、雄大はそれを初球で捉えてみせたのだ。森山は悔しそうな表情でボールを受け取り、マウンドに戻っていく。雄大は雄大で、想像より球威のある直球が来たことに驚いていた。
(完璧に捉えたと思ったのに、思ったより球が伸びてきたな)
雄大は軽く素振りをして、スイングを修正していた。大林高校の応援団は大声を張り上げ、必死の声援を送っている。ベンチでは選手たちが祈るような目でグラウンドを見つめていた。
森山は健二のサインに頷き、セットポジションに入った。彼は再び各塁の走者を見て、前を向く。そして小さく足を上げると、第二球を投じた。白球が、直線軌道を描いて本塁へと突き進んでいく。
(また真っすぐ!)
それを見て、雄大はスイングを開始した。先ほどよりも修正された軌道で、バットが前方に進出していく。しかし次の瞬間、ボールが彼の視界から消えていった。
(しまっ――)
雄大はバットを止めようとしたが、時すでに遅し。そのまま空振りしてしまい、彼は思わず天を仰いだ。審判が右手を突き上げ、高らかにコールする。
「ストライク、ツー!」
「まな先輩、今の」
「あれが森山くんのフォークね。……想像以上かも」
まなの言う通り、森山が投じていたのはフォークボールだった。雄大が直球を狙っていると悟り、バッテリーは変化球を選んだのだ。状況把握力に長けた健二と、投手としての圧倒的な実力を持つ森山。二人の化学反応が、文字通り雄大を追い込みつつあった。
(八木先輩のスプリットとはまた違う球だな。見極められるかどうか)
雄大は一年前のことを思い出しつつ、バットを構えた。去年の八木との対決では、全ての変化球をいなした上で直球を捉えてみせた。森山に対して同じことが出来るか、雄大には分からなかったのだ。彼が迷っていると、ベンチから声が聞こえてきた。
「雄大、迷わないでー!!」
その声の主は、まなだったのだ。雄大ははっとしてベンチの方を見る。彼の視線の先には、「大丈夫」とばかりに笑顔を見せるまなの姿があった。
(そうだな、迷っちゃいけないな)
雄大は深呼吸をすると、再びバットを構えた。そしていつものように、大きな声で叫んでみせる。
「よっしゃこーい!!」
彼はまなと同様に笑顔を見せ、マウンドと対した。森山は一瞬怯んだが、すぐに落ち着きを取り戻す。彼は冷静に健二のサインを見て、セットポジションに入った。
(何が来ようと関係ねえ。絶対に打つ)
雄大は既に吹っ切れており、自信に満ち溢れていた。一方の森山も悠然とマウンドに立ち、静かに呼吸している。彼は小さく足を上げ、第三球を投げた。またも直線軌道で、白球が本塁へと向かっていく。
(来たな、真っすぐ!)
それを見た雄大は、一気にスイングを開始した。目にも止まらぬスイングスピードで、ボールを捉えようとしている。しかしその途中、彼は違和感を覚えた。
(違う、フォークだ!)
彼は持ち前のパワーでバットを止め、見送った。ボールはワンバウンドして、健二の防具に跳ね返る。微妙なスイングだったため、健二は塁審にスイングチェックを要求した。球場中の視線が一斉に一塁へと集まる。しかし次の瞬間、雄大はまたも天を仰いだ。
「ストライク、スリー!」
塁審が右手を突き上げると同時に、球審がストライクを宣告したのだ。二死満塁だったため、健二がボールをホームベースにタッチしてスリーアウトとなった。
「っしゃあ!!」
森山は大きな雄叫びを上げてマウンドを降りた。雄大も悔しそうな表情でベンチへと下がっていく。大林高校の応援団からも、ため息がこだましていた。再び雰囲気が悪くなりそうになっていたが――
「はいはい、次いくよ!!」
その空気を打ち破るかのように、まなが大声で選手たちを鼓舞した。皆ははっと前を向き、守備の準備をしている。雄大もその言葉を聞き、急いでグラブを装着していた。
「ほら、雄大! 君が落ち込んだらダメでしょ!」
「まったくその通りだな、すまん」
「謝んなくていーから、ちゃんと抑えてきてよね!」
「おう、任せとけって!」
まなに励まされ、元気にベンチを出る雄大。そう、試合はまだ五回表が終わったところなのだ。しかも先制されたとはいえ、点差は僅かに一点。ここから先、巻き返しのチャンスはいくらでもある――まなはそのことを部員たちに伝えたかったのだ。
そしてここから、両投手の投げ合いが一気に凄みを増していくことになる。五回裏、自英学院の攻撃は六番からだったが、雄大はトップギアで投げ続けていった。
先頭の左打者に対しては直球でカウントを稼ぎ、最後にはシュートで空振り三振を奪ってみせた。七番にはカットボールをファウルにさせてストライクを取り、インコースの真っすぐで見逃し三振に打ち取ったのだ。
「ツーアウトツーアウトー!」
「ナイスピー久保ー!」
テンポよく三振を奪う雄大の姿に、選手たちも勇気づけられている。続いて八番の寺田が打席に入ったが、彼も直球を捉えられずにツーストライクと追い込まれていた。
「粘っていけ寺田ー!」
「簡単にやられんなー!」
自英学院のベンチからも大きな声援が飛んでいるが、雄大という投手の前には無力だった。寺田は最後に縦スライダーを振らされ、三振に打ち取られてしまった。
「っしゃあ!!」
雄大はガッツポーズを見せ、ベンチへと下がっていった。これで前の回から四者連続三振となり、スタジアム全体が興奮の渦に巻き込まれている。観客たちはその圧倒的な投球に目を奪われ、ますます大きな歓声を上げていた。しかし、これで今度こそ大林高校に流れが――といきたいところだったが、現実は甘くなかった。
六回表、大林高校の攻撃。なんとか出塁して森山にプレッシャーをかけたいところだったが――
「ストライク! バッターアウト!!」
「っしゃあ!!」
七番の加賀谷を三振に打ち取り、森山が声を上げた。そう、森山は五番六番七番と三者連続三振を奪ってみせたのだ。雄大の投球に触発されたかのように、彼もますます調子づいていく。
「まな先輩、このままじゃ」
「耐えるしかないよ、レイちゃん」
マネージャー二人の表情も、再び硬くなっていた。両チームのエースが圧巻の投球を見せ、球場全体が熱を帯びていく。相手のエースを攻略し、甲子園の切符を掴み取るのはどちらの高校か――
「久保も凄かったけど、こっちも凄いな」
「こりゃ楽しみな対戦だ」
雄大はその様子をじっと見つめ、集中力を高めていた。間もなく練習が終わり、森山はふうと息をつく。アナウンスが流れ、大林高校の応援席が一気に沸いた。
「バッターは、四番、ピッチャー、久保雄大くん」
「頼むぞ四番ー!」
「お前もホームラン打てー!」
声援を背に受け、マウンドに対する雄大。彼は一年前の準決勝を思い出しながら、この打席に対する決意を固めていた。
(あの時もツーアウト満塁だったけど、打てなかった。今年こそは)
一方の森山は、マウンド上で堂々とした振る舞いを見せていた。健二のサインを見たあと、セットポジションに入って各塁のランナーを見る。彼はこの状況でも動揺せず、なすべきことをきちんとこなすことが出来ていた。
「いきなりすごい場面ですね」
「ここで雄大が出端を挫くことが出来れば、うちに流れが来る。絶対に打ってほしい」
ベンチの二人も、雄大に熱い期待を寄せていた。大林高校は先発の松下を攻略し、エースの森山を引きずり出すことに成功した。ここで森山を叩けば、一気に試合の主導権を奪い返すことが出来るというわけだ。
(勝負だ、森山)
雄大は小さく息を吐き、集中力を極限まで高めた。そして両校の応援席から大歓声が響く中、森山は小さく足を上げ、その右腕を振るった。彼の指から解き放たれた白球が、唸りを上げて突き進んでいく。雄大はテイクバックを取り、一気にスイングを開始した。
(真っすぐだ、打てる!)
高めのストレートだったが、彼は迷わずフルスイングを仕掛けた。しかしバットはボールの下を叩いてしまった。痛烈なファウルボールがバックネットに突き刺さり、観客席が一気にどよめいた。
「ファウルボール!!」
「「おお~~」」
スコアボードには「156」の数字が表示され、森山が自己最速の直球を投じたことを示していた。しかし、雄大はそれを初球で捉えてみせたのだ。森山は悔しそうな表情でボールを受け取り、マウンドに戻っていく。雄大は雄大で、想像より球威のある直球が来たことに驚いていた。
(完璧に捉えたと思ったのに、思ったより球が伸びてきたな)
雄大は軽く素振りをして、スイングを修正していた。大林高校の応援団は大声を張り上げ、必死の声援を送っている。ベンチでは選手たちが祈るような目でグラウンドを見つめていた。
森山は健二のサインに頷き、セットポジションに入った。彼は再び各塁の走者を見て、前を向く。そして小さく足を上げると、第二球を投じた。白球が、直線軌道を描いて本塁へと突き進んでいく。
(また真っすぐ!)
それを見て、雄大はスイングを開始した。先ほどよりも修正された軌道で、バットが前方に進出していく。しかし次の瞬間、ボールが彼の視界から消えていった。
(しまっ――)
雄大はバットを止めようとしたが、時すでに遅し。そのまま空振りしてしまい、彼は思わず天を仰いだ。審判が右手を突き上げ、高らかにコールする。
「ストライク、ツー!」
「まな先輩、今の」
「あれが森山くんのフォークね。……想像以上かも」
まなの言う通り、森山が投じていたのはフォークボールだった。雄大が直球を狙っていると悟り、バッテリーは変化球を選んだのだ。状況把握力に長けた健二と、投手としての圧倒的な実力を持つ森山。二人の化学反応が、文字通り雄大を追い込みつつあった。
(八木先輩のスプリットとはまた違う球だな。見極められるかどうか)
雄大は一年前のことを思い出しつつ、バットを構えた。去年の八木との対決では、全ての変化球をいなした上で直球を捉えてみせた。森山に対して同じことが出来るか、雄大には分からなかったのだ。彼が迷っていると、ベンチから声が聞こえてきた。
「雄大、迷わないでー!!」
その声の主は、まなだったのだ。雄大ははっとしてベンチの方を見る。彼の視線の先には、「大丈夫」とばかりに笑顔を見せるまなの姿があった。
(そうだな、迷っちゃいけないな)
雄大は深呼吸をすると、再びバットを構えた。そしていつものように、大きな声で叫んでみせる。
「よっしゃこーい!!」
彼はまなと同様に笑顔を見せ、マウンドと対した。森山は一瞬怯んだが、すぐに落ち着きを取り戻す。彼は冷静に健二のサインを見て、セットポジションに入った。
(何が来ようと関係ねえ。絶対に打つ)
雄大は既に吹っ切れており、自信に満ち溢れていた。一方の森山も悠然とマウンドに立ち、静かに呼吸している。彼は小さく足を上げ、第三球を投げた。またも直線軌道で、白球が本塁へと向かっていく。
(来たな、真っすぐ!)
それを見た雄大は、一気にスイングを開始した。目にも止まらぬスイングスピードで、ボールを捉えようとしている。しかしその途中、彼は違和感を覚えた。
(違う、フォークだ!)
彼は持ち前のパワーでバットを止め、見送った。ボールはワンバウンドして、健二の防具に跳ね返る。微妙なスイングだったため、健二は塁審にスイングチェックを要求した。球場中の視線が一斉に一塁へと集まる。しかし次の瞬間、雄大はまたも天を仰いだ。
「ストライク、スリー!」
塁審が右手を突き上げると同時に、球審がストライクを宣告したのだ。二死満塁だったため、健二がボールをホームベースにタッチしてスリーアウトとなった。
「っしゃあ!!」
森山は大きな雄叫びを上げてマウンドを降りた。雄大も悔しそうな表情でベンチへと下がっていく。大林高校の応援団からも、ため息がこだましていた。再び雰囲気が悪くなりそうになっていたが――
「はいはい、次いくよ!!」
その空気を打ち破るかのように、まなが大声で選手たちを鼓舞した。皆ははっと前を向き、守備の準備をしている。雄大もその言葉を聞き、急いでグラブを装着していた。
「ほら、雄大! 君が落ち込んだらダメでしょ!」
「まったくその通りだな、すまん」
「謝んなくていーから、ちゃんと抑えてきてよね!」
「おう、任せとけって!」
まなに励まされ、元気にベンチを出る雄大。そう、試合はまだ五回表が終わったところなのだ。しかも先制されたとはいえ、点差は僅かに一点。ここから先、巻き返しのチャンスはいくらでもある――まなはそのことを部員たちに伝えたかったのだ。
そしてここから、両投手の投げ合いが一気に凄みを増していくことになる。五回裏、自英学院の攻撃は六番からだったが、雄大はトップギアで投げ続けていった。
先頭の左打者に対しては直球でカウントを稼ぎ、最後にはシュートで空振り三振を奪ってみせた。七番にはカットボールをファウルにさせてストライクを取り、インコースの真っすぐで見逃し三振に打ち取ったのだ。
「ツーアウトツーアウトー!」
「ナイスピー久保ー!」
テンポよく三振を奪う雄大の姿に、選手たちも勇気づけられている。続いて八番の寺田が打席に入ったが、彼も直球を捉えられずにツーストライクと追い込まれていた。
「粘っていけ寺田ー!」
「簡単にやられんなー!」
自英学院のベンチからも大きな声援が飛んでいるが、雄大という投手の前には無力だった。寺田は最後に縦スライダーを振らされ、三振に打ち取られてしまった。
「っしゃあ!!」
雄大はガッツポーズを見せ、ベンチへと下がっていった。これで前の回から四者連続三振となり、スタジアム全体が興奮の渦に巻き込まれている。観客たちはその圧倒的な投球に目を奪われ、ますます大きな歓声を上げていた。しかし、これで今度こそ大林高校に流れが――といきたいところだったが、現実は甘くなかった。
六回表、大林高校の攻撃。なんとか出塁して森山にプレッシャーをかけたいところだったが――
「ストライク! バッターアウト!!」
「っしゃあ!!」
七番の加賀谷を三振に打ち取り、森山が声を上げた。そう、森山は五番六番七番と三者連続三振を奪ってみせたのだ。雄大の投球に触発されたかのように、彼もますます調子づいていく。
「まな先輩、このままじゃ」
「耐えるしかないよ、レイちゃん」
マネージャー二人の表情も、再び硬くなっていた。両チームのエースが圧巻の投球を見せ、球場全体が熱を帯びていく。相手のエースを攻略し、甲子園の切符を掴み取るのはどちらの高校か――
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