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第三部 怪物の夢
第二十八話 拙攻
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二回以降、雄大はピッチングを立て直し、和泉高校の各打者を確実に抑えていった。一方で、大林高校の打者もなかなか足立を打てず、スコアは二対一のまま変わらなかった。
試合は四回裏、大林高校の攻撃。この回の先頭打者は、三番のリョウだ。第一打席ではフォークをすくいあげてセンターへの犠牲フライを放っており、バッテリーも警戒していた。
「四回裏、大林高校の攻撃は、三番、ファースト、平塚くん」
「打てよー!!」
「かっとばせー!!」
リョウは左打席に入ると、バットを構えた。足立は慎重に捕手とサインを交換して、大きく振りかぶる。そのまま左足を上げ、第一球を投じた。力のある直球が、アウトコースへと向かっていく。リョウが見逃し、審判が「ボール」のコールをした。
「オッケー、丁寧にな」
捕手が足立に声を掛けながら、返球した。先頭のリョウに安打を許すわけにはいかないが、だからといって四球を出すわけにもいかない。バッテリーの二人には難しい状況だった。
続いて、足立は第二球を投じた。今度はストレートが外いっぱいに決まり、審判の右手が上がる。捕手が返球している間、リョウは軽くバットを振ってタイミングを修正していた。
「向こうのバッテリー、慎重ですね」
「ここで塁に出せば次は雄大だからね。そりゃそうでしょ」
ベンチでは、レイとまなが和泉高校の狙いを分析していた。応援席からはリョウに対する熱い声援が飛んでいる。
「「かっとばせー、ひーらつかー!!」」
リョウは声援に背中を押されながら、三球目を待っていた。足立はサインを交換すると、投球動作に入る。大きく振りかぶって、右腕を振るった。またもストレートだったが、やや甘く入った。リョウはそれを見逃さず、迷わずバットを振り抜いた。快音とともに、鋭い打球がセンター方向に飛んでいく。
「っと!!」
しかし、不運にも打球は足立のグラブに収まっていた。思わず声を出した足立だったが、ボールが自らの手に収まっているのを見て笑顔を見せた。
「ナイスキャッチ足立ー!!」
「ワンナウトワンナウトー!!」
周りの内野陣が彼を盛り立てる中、リョウは悔しそうにベンチへと下がっていった。これで一死走者なしとなり、雄大が打席に向かう。
「四番、ピッチャー、久保雄大くん」
歓声と共に、彼はゆっくりとネクストバッターズサークルから歩き出す。和泉高校の捕手が立ち上がり、外野手に後退するよう指示を出していた。
「警戒されてますね」
「さっきのライトフライもすごかったからね」
レイとまなは、その様子を見て話し合っていた。和泉高校がリードしているとはいえ、点差は僅かに一点だけ。一発が出れば同点となる場面であり、バッテリーが気をつけるのも当然のことだった。
雄大が構えると、足立も捕手のサインを見る。エースと四番の直接対決に、観客たちも熱い視線を送っていた。やがてサインが決まると、足立は大きく振りかぶり、第一球を投じた。
(真っすぐ!)
雄大は打ちに行ったが、ボールは本塁手前でストンと落ちた。そのままバットの下を通過すると、捕手のミットにしっかりと収まった。審判の右手が上がり、足立が大きく息を吐いた。
「ストライク!!」
「ナイスボール!!」
捕手が力強く声を出し、マウンドに向かって返球した。雄大が積極的に打ちにくるのを見越して、バッテリーは初球にフォークボールを選んだのだ。
(リョウのやつ、よくこれを打ち上げたな)
雄大は今の球の軌道を脳内で思い描きつつ、スイングを修正していた。続いて、足立は第二球を投じる。低めのストレートだったが、雄大はしっかりと見逃した。審判が「ボール」のコールをすると、大林高校の応援席から拍手が巻き起こった。
(よし、見えてる)
雄大はバットをギュッと握り直し、深呼吸していた。その様子を見た足立は、自らの球を見極められているような気がして少し嫌な気分になっていた。
続いて、足立は第三球に高めの釣り球を投じた。雄大は思わず手を出してしまい、ファウルボールとなった。これでカウントはワンボールツーストライクとなり、追い込まれてしまった。
「いいぞ足立ー!!」
「落ち着いていけー!!」
和泉高校の内野陣は盛り上がっていたが、足立の表情は変わらず冷静なままだった。捕手はフォークを要求して、低めに構える。足立はそのサインに頷き、大きく振りかぶった。
(フォークが来たら厄介だな)
雄大はテイクバックを取りながら、配球を読んでいた。足立はその右腕を振るい、第四球を投げる。捕手の要求通り、低めの絶妙なコースにフォークボールが向かっていった。
(まっす……いや、違う!)
雄大はバットを出しかけたが、すぐにスイングを止めた。ボールは本塁付近でワンバウンドして、キャッチャーミットに収まる。捕手は三塁塁審にスイングチェックを要求したが、判定はボールだった。
「「おお~」」
今の攻防で、観客席がどよめいた。完璧なコースのフォークだったが、雄大は見極めてみせたのだ。足立は三振を奪ったつもりだったが、予想外の出来事に戸惑っていた。
「足立、落ち着いていこう」
捕手も平静を装ってそんな声かけをしていたが、内心穏やかでなかった。カウントはツーボールツーストライクとなり、足立は第五球にもフォークを投じた。しかし雄大はこれも見極めてしまい、フルカウントとなった。
「これでイーブンですね」
「うん。このまま歩かせるか、それとも勝負してくるかだね」
マネージャーの二人は、今の状況を冷静に分析していた。一方で、バッテリーにとっては厳しい状況となった。雄大は第一打席でスライダーを捉えており、この打席ではフォークを見極めている。となれば、残る選択肢は直球しかなかった。
(フォアボール覚悟でフォークを投げてくるか、それともストレート勝負か)
雄大はフォークと直球に狙いを絞っていた。足立は何度かサインに首を振ったが、やがて頷いた。少し間を置いてから、大きく振りかぶり、第六球を投じた。彼が選んだのは――ストライクゾーンへの直球だった。
(来たっ、真っすぐ!!)
その球を見て、雄大は迷わずバットを振り抜いた。カーンと快音が響き、火の出るような打球が右方向に飛んでいく。二塁手の野口が反応する間もなく、あっという間にライト前へと抜けていった。
「っしゃー!!」
雄大は一塁方向に駆けながら、右手を突き上げた。打たれた足立は悔しそうにはしておらず、むしろ本塁打でなかったことに安心して、ほっと息をついていた。
「五番、キャッチャー、芦田くん」
一死一塁となり、打席に芦田が向かっていく。走者が出たことで大林高校の応援団は盛り上がりを見せており、芦田に対しても熱い声援が送られていた。
「「かっとばせー、あーしーだー!!」」
彼が打席に入ると、和泉高校の捕手が指示を飛ばした。野口と鎌田が二塁近くに寄り、ゲッツー態勢を取っている。内野ゴロを打たせて併殺に打ち取る構えだった。芦田はベンチを見て、まなのサインを確認した。
(滝川のサインは「打て」か)
まなは、芦田が自らのバットでチャンスを拡大することを期待していた。芦田はその意図を理解し、バットを構えて狙いを考えている。ゲッツーシフトのため、一二塁間は広く開いていた。
(狙うは右方向か。最悪セカンドに捕られたとしても、進塁打になる可能性が高い)
芦田はライト方向に照準を合わせた。一方で、足立は既にサイン交換を終えてセットポジションに入っている。彼はちらりと一塁の雄大を見て、小さく足を上げた。そしてクイックで、第一球を投じた。白球が徐々に変化しつつ本塁へと向かっていく。
(スライダー!!)
芦田はその軌道を見てスイングを開始した。ややボール気味だったが、彼は強引に左足を踏み込んだ。そのままうまくバットに当てて、流し打ってみせたのだ。
「セカン!!」
捕手の指示を聞いて野口が打球に飛びついたが、届かない。鋭い打球がライト前に抜けていき、これで安打となった。雄大は三塁には進めなかったが、それでも一死一二塁となりチャンスが広がった。
「ナイバッチ芦田ー!!」
「いいぞー!!」
大林高校の応援席からは拍手が巻き起こっている。ここで和泉高校の捕手がタイムを取り、マウンドに向かった。次のバッターは、六番の中村である。
「中村先輩には何か伝えてあるんですか?」
「初球から振っていけって言ってあるよ。追い込まれたら厳しいからね」
レイの問いかけに、まながそう返事した。追い込まれてフォークを振らされるくらいなら、初球から積極的に打ちに行ったほうがいい。そういう判断だった。やがてタイムが終わり、中村がネクストバッターズサークルから右打席へと歩き出していく。
「六番、センター、中村くん」
「頼むぞ中村ー!!」
「打てよー!!」
二塁走者の雄大が帰れば同点という場面である。和泉高校の内野陣は変わらずゲッツー態勢を敷いており、外野手は前進している。同点は許さないという、和泉高校の意思の表れだった。
「「かっとばせー、なーかむらー!!」」
応援団はさらに威勢よく声を出し、中村を勇気づけている。足立は捕手とサインを交換して、セットポジションに入った。
(初球、真っすぐだったら打ちにいく)
中村はストレートに狙いを絞っていた。先ほどの打席、芦田は初球のスライダーを捉えてヒットを放っている。ならば、この打席で足立が初球から変化球を投じてくることはないだろうという考えだった。
足立は小さく足を上げ、第一球を投げた。白球がインコースに向かって突き進んでいく。中村はそれを見て、迷わずスイングを開始した。
(真っすぐ!!)
彼はその球が直球だと判断したのだが――その予想は裏切られることとなった。ボールは本塁手前で軌道を変え、地面に向かって落ちていく。中村は咄嗟にバットを合わせたが、捉えきれない。力のないゴロが、左方向に向かって飛んでいく。
「ショート!!」
捕手がそう叫ぶと、中村は「しまった」という表情で一塁に駆けだした。ボテボテの当たりだったが、遊撃手の鎌田は猛チャージを見せた。そのまま打球を拾い上げると、ジャンピングスローで二塁へと送球してみせたのだ。
「アウト!!」
塁審がそうコールするや否や、今度は二塁手の野口が素早く体を反転させ、一塁へと送球した。中村は全力疾走を見せたが、先に一塁手が送球を捕ってしまった。一塁塁審が右手を突き上げると、和泉高校の応援席が一気に沸き上がった。
「アウト!!」
「よっしゃー!!」
「ナイスプレー!!」
「いいぞ鎌田ー!!」
大林高校はチャンスを作っておきながら、二遊間の鮮やかなプレーに阻まれることとなった。中村は悔しそうに天を仰ぎ、ベンチへと戻っていく。他の選手たちも思わず「あ~」という声を漏らしていた。
点差は僅かながら、雄大たちはなかなか追いつくことが出来ない。両校が譲らぬまま、試合は後半戦へと突入していく――
試合は四回裏、大林高校の攻撃。この回の先頭打者は、三番のリョウだ。第一打席ではフォークをすくいあげてセンターへの犠牲フライを放っており、バッテリーも警戒していた。
「四回裏、大林高校の攻撃は、三番、ファースト、平塚くん」
「打てよー!!」
「かっとばせー!!」
リョウは左打席に入ると、バットを構えた。足立は慎重に捕手とサインを交換して、大きく振りかぶる。そのまま左足を上げ、第一球を投じた。力のある直球が、アウトコースへと向かっていく。リョウが見逃し、審判が「ボール」のコールをした。
「オッケー、丁寧にな」
捕手が足立に声を掛けながら、返球した。先頭のリョウに安打を許すわけにはいかないが、だからといって四球を出すわけにもいかない。バッテリーの二人には難しい状況だった。
続いて、足立は第二球を投じた。今度はストレートが外いっぱいに決まり、審判の右手が上がる。捕手が返球している間、リョウは軽くバットを振ってタイミングを修正していた。
「向こうのバッテリー、慎重ですね」
「ここで塁に出せば次は雄大だからね。そりゃそうでしょ」
ベンチでは、レイとまなが和泉高校の狙いを分析していた。応援席からはリョウに対する熱い声援が飛んでいる。
「「かっとばせー、ひーらつかー!!」」
リョウは声援に背中を押されながら、三球目を待っていた。足立はサインを交換すると、投球動作に入る。大きく振りかぶって、右腕を振るった。またもストレートだったが、やや甘く入った。リョウはそれを見逃さず、迷わずバットを振り抜いた。快音とともに、鋭い打球がセンター方向に飛んでいく。
「っと!!」
しかし、不運にも打球は足立のグラブに収まっていた。思わず声を出した足立だったが、ボールが自らの手に収まっているのを見て笑顔を見せた。
「ナイスキャッチ足立ー!!」
「ワンナウトワンナウトー!!」
周りの内野陣が彼を盛り立てる中、リョウは悔しそうにベンチへと下がっていった。これで一死走者なしとなり、雄大が打席に向かう。
「四番、ピッチャー、久保雄大くん」
歓声と共に、彼はゆっくりとネクストバッターズサークルから歩き出す。和泉高校の捕手が立ち上がり、外野手に後退するよう指示を出していた。
「警戒されてますね」
「さっきのライトフライもすごかったからね」
レイとまなは、その様子を見て話し合っていた。和泉高校がリードしているとはいえ、点差は僅かに一点だけ。一発が出れば同点となる場面であり、バッテリーが気をつけるのも当然のことだった。
雄大が構えると、足立も捕手のサインを見る。エースと四番の直接対決に、観客たちも熱い視線を送っていた。やがてサインが決まると、足立は大きく振りかぶり、第一球を投じた。
(真っすぐ!)
雄大は打ちに行ったが、ボールは本塁手前でストンと落ちた。そのままバットの下を通過すると、捕手のミットにしっかりと収まった。審判の右手が上がり、足立が大きく息を吐いた。
「ストライク!!」
「ナイスボール!!」
捕手が力強く声を出し、マウンドに向かって返球した。雄大が積極的に打ちにくるのを見越して、バッテリーは初球にフォークボールを選んだのだ。
(リョウのやつ、よくこれを打ち上げたな)
雄大は今の球の軌道を脳内で思い描きつつ、スイングを修正していた。続いて、足立は第二球を投じる。低めのストレートだったが、雄大はしっかりと見逃した。審判が「ボール」のコールをすると、大林高校の応援席から拍手が巻き起こった。
(よし、見えてる)
雄大はバットをギュッと握り直し、深呼吸していた。その様子を見た足立は、自らの球を見極められているような気がして少し嫌な気分になっていた。
続いて、足立は第三球に高めの釣り球を投じた。雄大は思わず手を出してしまい、ファウルボールとなった。これでカウントはワンボールツーストライクとなり、追い込まれてしまった。
「いいぞ足立ー!!」
「落ち着いていけー!!」
和泉高校の内野陣は盛り上がっていたが、足立の表情は変わらず冷静なままだった。捕手はフォークを要求して、低めに構える。足立はそのサインに頷き、大きく振りかぶった。
(フォークが来たら厄介だな)
雄大はテイクバックを取りながら、配球を読んでいた。足立はその右腕を振るい、第四球を投げる。捕手の要求通り、低めの絶妙なコースにフォークボールが向かっていった。
(まっす……いや、違う!)
雄大はバットを出しかけたが、すぐにスイングを止めた。ボールは本塁付近でワンバウンドして、キャッチャーミットに収まる。捕手は三塁塁審にスイングチェックを要求したが、判定はボールだった。
「「おお~」」
今の攻防で、観客席がどよめいた。完璧なコースのフォークだったが、雄大は見極めてみせたのだ。足立は三振を奪ったつもりだったが、予想外の出来事に戸惑っていた。
「足立、落ち着いていこう」
捕手も平静を装ってそんな声かけをしていたが、内心穏やかでなかった。カウントはツーボールツーストライクとなり、足立は第五球にもフォークを投じた。しかし雄大はこれも見極めてしまい、フルカウントとなった。
「これでイーブンですね」
「うん。このまま歩かせるか、それとも勝負してくるかだね」
マネージャーの二人は、今の状況を冷静に分析していた。一方で、バッテリーにとっては厳しい状況となった。雄大は第一打席でスライダーを捉えており、この打席ではフォークを見極めている。となれば、残る選択肢は直球しかなかった。
(フォアボール覚悟でフォークを投げてくるか、それともストレート勝負か)
雄大はフォークと直球に狙いを絞っていた。足立は何度かサインに首を振ったが、やがて頷いた。少し間を置いてから、大きく振りかぶり、第六球を投じた。彼が選んだのは――ストライクゾーンへの直球だった。
(来たっ、真っすぐ!!)
その球を見て、雄大は迷わずバットを振り抜いた。カーンと快音が響き、火の出るような打球が右方向に飛んでいく。二塁手の野口が反応する間もなく、あっという間にライト前へと抜けていった。
「っしゃー!!」
雄大は一塁方向に駆けながら、右手を突き上げた。打たれた足立は悔しそうにはしておらず、むしろ本塁打でなかったことに安心して、ほっと息をついていた。
「五番、キャッチャー、芦田くん」
一死一塁となり、打席に芦田が向かっていく。走者が出たことで大林高校の応援団は盛り上がりを見せており、芦田に対しても熱い声援が送られていた。
「「かっとばせー、あーしーだー!!」」
彼が打席に入ると、和泉高校の捕手が指示を飛ばした。野口と鎌田が二塁近くに寄り、ゲッツー態勢を取っている。内野ゴロを打たせて併殺に打ち取る構えだった。芦田はベンチを見て、まなのサインを確認した。
(滝川のサインは「打て」か)
まなは、芦田が自らのバットでチャンスを拡大することを期待していた。芦田はその意図を理解し、バットを構えて狙いを考えている。ゲッツーシフトのため、一二塁間は広く開いていた。
(狙うは右方向か。最悪セカンドに捕られたとしても、進塁打になる可能性が高い)
芦田はライト方向に照準を合わせた。一方で、足立は既にサイン交換を終えてセットポジションに入っている。彼はちらりと一塁の雄大を見て、小さく足を上げた。そしてクイックで、第一球を投じた。白球が徐々に変化しつつ本塁へと向かっていく。
(スライダー!!)
芦田はその軌道を見てスイングを開始した。ややボール気味だったが、彼は強引に左足を踏み込んだ。そのままうまくバットに当てて、流し打ってみせたのだ。
「セカン!!」
捕手の指示を聞いて野口が打球に飛びついたが、届かない。鋭い打球がライト前に抜けていき、これで安打となった。雄大は三塁には進めなかったが、それでも一死一二塁となりチャンスが広がった。
「ナイバッチ芦田ー!!」
「いいぞー!!」
大林高校の応援席からは拍手が巻き起こっている。ここで和泉高校の捕手がタイムを取り、マウンドに向かった。次のバッターは、六番の中村である。
「中村先輩には何か伝えてあるんですか?」
「初球から振っていけって言ってあるよ。追い込まれたら厳しいからね」
レイの問いかけに、まながそう返事した。追い込まれてフォークを振らされるくらいなら、初球から積極的に打ちに行ったほうがいい。そういう判断だった。やがてタイムが終わり、中村がネクストバッターズサークルから右打席へと歩き出していく。
「六番、センター、中村くん」
「頼むぞ中村ー!!」
「打てよー!!」
二塁走者の雄大が帰れば同点という場面である。和泉高校の内野陣は変わらずゲッツー態勢を敷いており、外野手は前進している。同点は許さないという、和泉高校の意思の表れだった。
「「かっとばせー、なーかむらー!!」」
応援団はさらに威勢よく声を出し、中村を勇気づけている。足立は捕手とサインを交換して、セットポジションに入った。
(初球、真っすぐだったら打ちにいく)
中村はストレートに狙いを絞っていた。先ほどの打席、芦田は初球のスライダーを捉えてヒットを放っている。ならば、この打席で足立が初球から変化球を投じてくることはないだろうという考えだった。
足立は小さく足を上げ、第一球を投げた。白球がインコースに向かって突き進んでいく。中村はそれを見て、迷わずスイングを開始した。
(真っすぐ!!)
彼はその球が直球だと判断したのだが――その予想は裏切られることとなった。ボールは本塁手前で軌道を変え、地面に向かって落ちていく。中村は咄嗟にバットを合わせたが、捉えきれない。力のないゴロが、左方向に向かって飛んでいく。
「ショート!!」
捕手がそう叫ぶと、中村は「しまった」という表情で一塁に駆けだした。ボテボテの当たりだったが、遊撃手の鎌田は猛チャージを見せた。そのまま打球を拾い上げると、ジャンピングスローで二塁へと送球してみせたのだ。
「アウト!!」
塁審がそうコールするや否や、今度は二塁手の野口が素早く体を反転させ、一塁へと送球した。中村は全力疾走を見せたが、先に一塁手が送球を捕ってしまった。一塁塁審が右手を突き上げると、和泉高校の応援席が一気に沸き上がった。
「アウト!!」
「よっしゃー!!」
「ナイスプレー!!」
「いいぞ鎌田ー!!」
大林高校はチャンスを作っておきながら、二遊間の鮮やかなプレーに阻まれることとなった。中村は悔しそうに天を仰ぎ、ベンチへと戻っていく。他の選手たちも思わず「あ~」という声を漏らしていた。
点差は僅かながら、雄大たちはなかなか追いつくことが出来ない。両校が譲らぬまま、試合は後半戦へと突入していく――
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